木工事例調査R5夏③ 花野屋
木工専攻では学生達の関心分野に合わせて木工やモノ作りの事例見学を毎年行っています。今回は一泊二日の行程で木曽地域に足を運び、その時のレポートを学生がまとめました。3つ目にご紹介するのは木の器と曲物の専門店「花野屋」さんの訪問記事です。
中山道の難所鳥居峠を控え、木曽十一宿で最も賑わった奈良井宿。その街並みは今も当時の面影を色濃く残しています。その街道沿いを走る県道19号線沿いにある曲物工房、花野屋さんを訪問して、6代目の土川英士さんにお話を伺いました。
この地で曲物が作られるようになったのは、約四百年前と言われています。武田信玄が伝馬制度を設け、街が栄えた頃に、この地域に曲物職人が住み着きました。この技術が広まり、昔は多くの家で内職として曲物が作られていたそうです。
曲物は「曲げわっぱ」などと呼ばれることがありますが、ここ奈良井宿では「木曽めんぱ」という名前がついています。「木曽めんぱ」には他の産地とは異なる工法がいくつかあります。他の産地では 1 樹種で作られることが多い曲物ですが、木曽めんぱの側板には曲げやすい木曽ヒノキを使い、蓋と底には給水性の高い木曽サワラを使用しています。また、箱の強度を高めるために側板を底に向かって少し薄く削っています。こうすることで側板を曲げた際、外側に加わる力を下に逃し、割れを防ぐことができます。このような伝統的技法を花野屋では現代でも忠実に引き継いでおり、その説明をする土川さんからは、伝統を受け継ぐ強い意志を感じました。
一方で、昔にはなかった現代の道具を用い、より正確に、より合理的に作る工夫も拝見させて頂きました。例えば、桜の皮を縫い通す際には、パソコンで印刷した台紙を使い、効率的に穴を開ける方法をとっていました。さらには電子レンジが使える曲げわっぱを商品開発され、このお弁当箱はメディアにも広く取り上げられたそうです。伝統的技術を次世代に繋ぐ一方で、新たな技術を開発し、現代のライフスタイルに合った製品で、伝統工芸をさらに広めていく取組みについて学ぶことができました。
最後に併設の店舗を見学しました。曲物のほか椀や皿などの挽物(ひきもの)、お櫃など商品が綺麗に並べられていました。花野シリーズと名付けられたトチの木を使った挽物は、土川さんがデザインした器を熟練職人が作る人気商品になっています。曲物のほかにも、人気シリーズをプロデュースする確かな目は日々の研鑽とお客さんの声を大切にする気持ちから培われていると実感しました。
今回、私達へご対応いただいた花野屋の土川英士さん、ご多忙な中、貴重なお時間を割いて頂きありがとうございました。ここでの学びを今後の活動に活かしていきたいと思います。
文責 クリエーター科木工専攻 2年奥田真司、1年矢持達也