ヴァルドルフ建築(木造建築ドイツ研修記3)
シュツットガルトではいろいろな建物を見て回りました。
最初に向かったのは、morinosの原型となった、ハウス・デス・ヴァルデス。
最寄り駅を降りて森林の中に入っていきます。赤い看板が建物まで案内してくれました。
朝の気持ちいい森林を散策していると、親子連れや夫婦で散歩されている方とよくすれ違います。ドイツらしい日常を感じます。
さて、ハウス・デス・ヴァルデスに到着しましたが、土曜日はあいにくの休館日。
人がほとんどいませんが、木工系のプログラムが一つ開催されてるので、親子連れが集まってました。
建物は、木質化されており、自然な色の変化が森林になじんでいます。
湿度が低く降水量が少ないドイツでは、軒の出がほとんどない建物が多いです。その分、壁全体が下から上まで同じように変化していきます。
日本では、高温多湿のため、雨掛かりを防いでいかないと、劣化が早いため深い軒先が耐久性の向上に大きく影響します。
森林側に廻ると特徴的なガラスのアーチの空間。メンテナンス用の梯子がかかっています。
屋根のないガラスのドームもドイツらしい建築です。
内外をつなぐガラス面は活かしつつ、大きな屋根で劣化を防ぐようにしたmorinosは、まさに日本版のハウス・デス・ヴァルデスといったところでしょうか。
さて、次に向かったのは、シュタイナー学校として1919年に最初に建設されたシュツットガルトのヴァルドルフシューレです。
シュツットガルト中心部の丘の上に佇んでいます。
初期の校舎はアールヌーボー様式が反映された柔らかな曲線を多用したデザインのようですが、現在の校舎はカチッとした直線的。
とはいっても、開口部や外壁に直角の部分はほとんどなく、斜めに切り取られたり、デコボコが多く、空間は有機的にも感じられます。
外壁は木のルーバーで、ハウス・デス・ヴァルデスと同様に時間変化で自然な落ち着いた風合いになってきています。
新たにつくられている建物も直線的ですが、柔らかい雰囲気も感じられ、色合いも落ち着いた赤の外壁が緑に映えます。
シュタイナー教育は、総合的な教育アプローチで、知識だけでなく個人個人の心身の発達や創造性を大切にしています。
その教育の場となる学校はヴァルドルフ建築として、自然素材を多用し、見たり触れたりと、自然とのつながりを感じ、創造的な感性を磨ける場となっています。
また、自然の光や色彩を多用し、豊かな空間構成、周囲の自然や景観への調和などの特徴があります。
ハウス・デス・ヴァルデスや、先日紹介したバウビオロギーの考え方にかなりの部分共通します。
次に向かったのが、近代建築の巨匠ル・コルビュジエが設計したヴァイセンホフ・ジードルングの住宅です。
ここに訪れるのは2回目。
コルビュジエが提唱した近代建築の五原則の実験的な住宅です。
ピロティや横長の連窓、直線的で四角い箱のような建築は、まさにコルビュジエといった外観です。
先ほどまで見たヴァルドルフ建築とは対照的にも見えます。
ですが、直線的でありながら空間構成は見事。
ちょっとした壁の影に暖炉が合ったり、引き出せる引き戸で空間を曖昧に仕切ったりと、豊かな空間が広がっています。
また、画家としても活躍したコルビュジエのデザインセンスは秀逸で、各壁面の色は設計段階から考えられており、単純な白い壁でなく様々な色彩が用いられています。
この色彩の感性はヴァルドルフ建築にも共通します。
この日の最後に向かったのは、EUの中でも特に美しいとされるシュトゥットガルト市立図書館です。
地下2階、地上9階の図書館の外観は無機質な立方体。現代建築となると、このような建築になるのかという感想。
内部に入ると、こちらも無機質な大きな立方体の空間が現れます。
余計な装飾や色彩がなく、どこか神聖な教会にでも入った緊張感があります。
メインとなる図書館は、5階から階段状に上部に広がる空間です。
ヴァルドルフ建築のかけらもほとんど感じられませんが、これはこれで美しさを感じます。
ですが、どちらの方角を向いているのか、どこから入ってきたのか、方向感覚がくるってしまいます。
ときどき訪れるのは非日常を感じられ新鮮ですが、個人的には日常はもう少し人間味あふれる建物が好みです。
唯一、自然光を上手く取り入れているところが優しさを感じます。
移動する間にも、さまざまな気になる建物が現れます。
公園の管理棟はもともとレンガの外壁だったところに、新たに木材を張って外装木質化を行っています。
新しく作られたスポーツ施設は初めから外装木質化されていたりと、最近のトレンドは外装木質化のような印象を受けます。
これも湿度が比較的低いドイツだからできること。
日本で外装にも木材を使いたいところですが、耐久性向上のための工夫がいろいろ必要です。
内装木質化は腐朽や蟻害といった生物劣化はほとんどないので、耐摩耗などの物理的対策をしつつ、どんどん推進していきたいですね。
教授 辻充孝