ローカルビジネスは「再編集」(ローカルビジネスの担い手に学ぶ 第4回目)
<2023.1.23> 「ローカルビジネスの担い手」もいよいよ最終回。4人目は、郡上市明宝(めいほう)の下田知幸(しもだ・ともゆき)さんです。
下田さんは1998年生まれの24歳。明宝から県外の大学に進学。卒業と同時にUターンし、新しく立ち上がった「一般社団法人 長良川カンパニー」にジョインしました。「長良川カンパニー」は、森と人の再生をテーマに主に郡上市の源流域で、アクティビティを交えた企業研修を手掛けるなどの事業を行っています。「長良川カンパニー」を立ち上げたのは、大手広告代理店プランナー(当時)や、不動産事業代表、ベンチャー企業代表、ソーシャルデザイナーなどなど、錚々たるメンバーです。
これまで3人の「ローカルビジネスの担い手」からお話をうかがってきましたが、下田さんは大学を卒業してすぐ、ファーストキャリアとして、ベンチャー企業に参画します。
大学を出てすぐにアカデミーに入る学生も多いのですが、彼等にとって下田さんは等身大の存在かもしれません。
「長良川カンパニー」の事業と並行して、地域のイベント企画やデザイン、そして生家である民宿の新規事業もてがける下田さん。まずは「民宿しもだ」に新しく設置されたプライベートサウナから、下田さんが考えるローカルビジネスを体感していきます。
心地よいガイドによるサウナ体験をした後は、昼食で郷土食の体験です。
郡上の家庭で食される「味噌煮」を、民宿しもだの女将さんから紹介いただきました。
下田さんは、民宿内でドリンクを提供するカフェ事業もはじめたとのこと。
昼食後は、ハンドドリップの美味しい珈琲をいただきました。
午後から、下田さんのレクチャーです。
社会人として、そして自身で新しい事業を立ち上げながら自身の生き方を探っている、現在進行系のリアルな話はインパクトがあります。
まだ若い下田さんは将来について、当然ながら不安がたくさんあると語ります。
それでも今、確信したものがあるとのこと。
「水の魅力をどう伝えるか。それを仕事にしたい」
郡上で生まれ、郡上の川にどっぷり浸かりながら遊んでいた下田さん。
一度外に出て、外から郡上の魅力に惹かれて来た人と多く出会うたびに、郡上、そして自然の力を再定義したといいます。
学生からの「個人事業主として不安はないか」という質問には、
「責任を持って意思決定をすることをしてみたい。借金をして、責任をもってつくりきる、というのをやってみる。身近なところを豊かにすることがワクワクする」
と答えていました。
そんな下田さんにも、やはり不安に感じることが。
<同世代の仲間がいない>
<テクノロジーの進化による新しい機材の必要性>
<家族のことや地域のこと>
などなど。それでも、3年間でものすごい量の仕事を、ものすごいスピードでこなしてきた経験から「仕事は選ばないとダメ」という結論に至ります。
「世の中にはたくさんの仕事がある。でもそれは、自分がやるべき仕事なのか、見極めることも大事。お金は稼げても、質を出せなければ、信頼を失う。身近な家族や同僚に、迷惑をかけない仕事のしかたをしたい」
だから、新しく手がける仕事は「人に関わること、自然に関わること、郡上のこと、新しい発見があること」につながることにしたい、と語っていました。
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この科目では全4回にわたり、様々な「ローカルビジネスの担い手」にお話をうかがってきました。最終回にあたり、これまでの授業をふり返ります。
下田さんにも混じっていただき、全員で「ローカルビジネスとは?」「それを担うとは?」についてディスカッションしました。
「ローカルビジネスとは?」について、学生のみなさんからは次のような意見がなされていました。
- その土地の人や自然を生かした、ネットワークビジネス。
- 人が今後も暮らしていけるようにするため、地域に元々あったモノや暮らしなどを、どうやったら残せるのか検討しながら、イベントや商品にしていること。
- 地域の中で、自分や地域に暮らす誰かが「課題」と感じていることを解決するために行う仕事。
見方はそれぞれありますが、「地域」や「暮らし」、そして「つながり」など、事業者本人だけではない事業のあり方を見出しているようでした。
そして、ローカルビジネスを成立させる要素としては、
<強い想い、愛情>
<楽しい、好き、やりたいから始める>
などのキーワードが挙げられていました。
その他、ローカルビジネスの特徴について、
- ローカルビジネスを通して、結果的に地域の様々な人、モノをつなげてることになっている
- ローカルビジネスの中には、地域人としての役割である「つとめ」や、人間関係を構築・維持・発展させることも含まれるのではないか
- 暮らし方も含めた「その人のあり方」が、ローカルビジネス的か、ということかもしれない
といった、「暮らし」と「しごと」、そして「稼ぎ」と、これまでの「働き方」とは違った視点をもった学生もいました。
最後に、下田さんに「ローカルビジネスとは?」を質問しました。
「再編集ではないか。時代に合わなくなったり、形骸化しているけど続いているものがある。それらの意味を再定義する、ブランディングし直す。そうして新しい価値を生み出せるところが、ローカルビジネスの面白いところ。
ゲーム的に、お金を稼ぎ続けることではない。お金は稼ぐが、コミュニティが楽しそうか、土地が喜んでいるか・・・そういったことを感じることが大切だ。
ビジネスをする感覚が、都会とは違うと思う。違う、ということが、ローカルの魅力では。そう願っている」
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「ローカルビジネス」について、様々な定義があります。でも、この科目でお会いした方々は「ローカルでビジネスをする」ということを軸に、様々な願いや想いがあり、それを「ビジネス」として実施していると感じました。
卒業して、地域につながる仕事をてがけることが多いアカデミー生。いずれ、自身がつながる地域で、「ローカルビジネス」への関わり方が見つかることを願っています。
各講師のみなさま、本当にありがとうございました。
准教授 小林謙一(こばけん)