アカデミー教員インタビュー

キーワードは「素直に生きる!」

玉木 一郎(林業専攻)

教員インタビュー玉木先生

 

樹木の生態について教えている林業専攻の玉木先生は、実はアカデミーでいちばん数多くの木のスプーンを作っている人でもあります。専門を飛び越えて、興味のあることはなんでもやってみる玉木先生のあり方は、アカデミーが目指している未来の姿かもしれません!

 

ひねくれていた子ども時代

 

――どんな子ども時代でしたか?

玉木:僕はあんまり素直じゃなかったんですよね。子どもの頃は、素直に物事を考えるのはよくないかなって思っていて、みんなが好きなものはとりあえず外して、みんなが見ていないものを見ようって思っていました。ひねくれていましたね。でもね、そんなんじゃダメですね。みんながいいと言うものはやっぱりいいって思えるようになったのが、大学に入ったくらいかな。

――素直になったきっかけってなんですか?

玉木:「タイタニック」って映画を見たんです。その当時、すごく評判になったんですけど、あまのじゃくな僕は見なかったんですよ。だけど、その2年くらい後かな。たまたまテレビでやっていたのを見て、すごく感動したんです。そのときに、僕はこの2年すっごくもったいないことをしたなって思ったんですよ。人生無駄にしたなって。タイタニックに限らず、僕が素直にならなかったせいでいろんなものを取りこぼしてきたんだなって思いましたね。そこから素直になりました。

 

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――子どもの頃は、どんな遊びをしていましたか?

玉木:僕は自然の中で遊ぶのも好きだったんですけど、家の中でゲームをするのも好きでした。ただ、虫を採るのがすごく好きで、小学生の頃は、夏は毎日虫採りに行っていましたね。

――家の近くに山や森があったんですか?

玉木:そうですね。僕は岐阜県可児市出身なんですけど、家の前に山があって、いつもそこで虫採りをしていました。でも、可児は団地とかゴルフ場がすごく多くて、家の前にあった山も、小学校高学年のときに宅地開発で全部削られちゃったんです。いつも虫を採りに行っていた場所がなくなるって、結構ショックでした。あと、山ってなくなるんだなって、そのとき思いましたね。自然はそれなりに好きだったんで、なにか自然について勉強がしたいなと思ったのは、多分その頃がはじまりかな。それで、もうちょっと深く思ったのが、高校のとき。高校は科学部に入ったんですが、科学部と言っても、化学の方をやっている人が多かったんです。でも、僕は昆虫が好きだったから、昆虫採集をやりたいって言ったんですよ。そうしたら、たまたま生物の先生が昆虫にすごく詳しくて、じゃあきちんと昆虫採集をやろう!ってなりました。そのときに、昆虫を捕まえて標本を作るのを、きちんと教えてもらいました。

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玉木:それで、高校2年生のときかな。選択授業で、生物と物理のどちらかを選ばなきゃいけなかったんです。もともと理系に行こうと思っていたんですけど、理系の中でも物理を取るか、生物を取るかは、結構大きな分かれ道なんです。物理だと、大学のどの学部でも受験できるんですよ。工学部でも、農学部でも、医学部でも受けられる。でも生物を取ると、工学部には行けなくなるんです。だから、物理を取る人が多かったですね。僕は、自動車とかバイクも好きだったので、工学部に行くのもありかなってちょっとは思ったんですよ。だけど、やっぱり自然が好きだから生物を取ろうって決めました。それで、大学では昆虫のことを勉強しようって思っていましたね。

 

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高校から大学にかけて作っていた昆虫標本の一部。

 

気になると好きになっちゃう!

 

――大学では昆虫を研究していたんですか?

玉木:大学に入って、1~2年のときはずっと昆虫採集をしていて、僕はこのまま昆虫の研究をするんだろうなと思っていたんです。でも、昆虫を採りに行くとき、どういう植物に昆虫がいるのかがわからないと採りに行けないから、小中学生の頃から昆虫の次に植物に興味はあったんですよ。それで大学生のときに、植物ってすごく制約があるなって気がついたんです。植物は、例えば花粉で飛んだり、種で飛んだり、そうやって動くことはできるんですけど、動ける時期ってすごく短くて、ほとんどの時間をどこかに定着した状態で過ごしていますよね。それに気が付いたとき、すごい衝撃を受けたんです。あとおもしろいのは、植物は自分の花粉でも種を作ることができるんですよ。それも結構すごいことですよね。昆虫はオスとメスがいて、交尾をして子どもができるのが基本なんですけど、植物ってそうじゃないやりかたもできる。これは後で知ったんですけど、ナナフシはメスが単独で子孫を残しますし、昆虫でも近親交配で世代を回しているのも結構たくさんいるので、必ずしもその点は植物と昆虫ですごい違うってわけでもなかったんですけどね。でも、植物は固着性であることと、単体でも世代をまわしていけることにすごくびっくりして、そこから植物っておもしろいなって思うようになったんです。その頃は素直になっていたので、ちょっと注目してみると、なんでも好きになっちゃうんですよ。そうすると植物のことがすごく気になりだして、葉っぱを見ているだけで楽しいし、花を見たらもっとうれしいし、幹を見ても楽しいし。そんなかんじでどんどん植物が好きになっていきました。

 

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キョウマルシャクナゲの花。千葉大の渡辺洋一先生とシャクナゲの地理的変異の研究を進めている。

 

 

玉木:それで、4年生で研究室を選ぶときに、森林生態生理学という研究室に行きました。もともと昆虫が好きだったんだけど、いつの間にか植物が好きになって、木の研究をするようになりましたね。それで、大学を卒業した後は、大学院の修士課程に行きました。その頃、遺伝子を標識に使って、野外で生物がどういうふうに暮らしているのかとか、どんなふうに進化してきたのかを調べる研究が流行りだしたんです。人では昔から研究されている分野なんですけど、他の生物でもできるようになってきて、ちょうど僕が大学生だった頃、2000年代初頭ですね。そういうのを樹木でもやるのが流行ってきたんです。流行るものはやりたいということで、その研究をすることになりました。

 

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フモトミズナラの葉と堅果。10年程前からフモトミズナラの研究をしている。

 

 

玉木:それで2年間の修士課程が終わって、どうしようかなって迷ったんです。研究したいなって思ってはいたんですけど、その当時、研究職は先の無い仕事だって言われていました。ポストが全然空かなくて、大学院の博士課程に行ったとしても就職はできない。すごく狭き門だった。だから、公務員になるかと思ったんですけど、公務員も全然採用がない時代でした。実家がある岐阜県は、その年は募集がなかったんです。愛知県は募集があったから受けたんですけど、研究もしたいなって思っていたから、試験勉強に身が入らなくて落ちました。その当時は、公務員試験に落ちたら研究生を1年やって、その間にまた試験を受けて、合格した人は出ていくってかんじでした。それで僕も研究生をやって、真面目に勉強して、その次の年は国家公務員を受けて二種、今の林野庁の営林署勤務に受かりました。でもそこで、ふとこれでいいのかな、僕はずっと研究がしたいんだけどなって思ったんです。悩みに悩んだ末に、就職はやめて、腹をくくって真剣に研究をすることに決めました。それで大学院の博士課程に行ったんです。でも、さっきも言いましたが、大学院の博士課程を出たとしても就職がない時代。博士課程の後は、たまたま国の研究員の助成プログラムを受けられることになったので、とりあえず大学院を出て2年は給料をもらって研究できる環境にいました。そんなときに、アカデミー教員の募集が出たんです。募集要項に、遺伝実験の設備を使って研究や教育が出来る人って書いてあったから、ちょうどいいなと思って。それで試験を受けて、採用になりました。今、13年目くらいかな。

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365日、木のスプーンを作る。

 

――玉木先生は、専門とは別に木のスプーンも作られていますが、いつ頃はじめたんですか?

玉木:2018年の秋か冬くらいかな。その後、2019年に木工専攻の久津輪先生が企画した「さじフェス」っていうイベントがあったんです。全国から人を集めて2日間まるまるスプーンを削るイベントでした。それに僕も参加したんです。久津輪先生にきちんとしたやり方を教えてもらって、それで技術がだんだんわかってきて、そこから毎日やるようになりました。学生さんがガラっと研究室のドアを開けると、僕が木を削っている、みたいな。最近は土日も家に持ち帰ってやっています。

――え!それからずっと毎日ですか?

玉木:ほぼほぼ毎日。家に持ち帰ってやるようになったのは、ここ2年くらいですけど。すごいはまりましたね。作ったスプーンは、全部写真を撮って、どんな樹種でどこから採ってきたか記録をつけています。本数で言うと、ちょうど580くらいになったかな?樹種は148。記録をつけながら楽しくやっています。でも、作ったスプーンがいっぱいたまると、こんなに作ってどうするんだって言われるんですよね。それで、誰かにあげるかと思って、アカデミーの学園祭で、気に入った人は持って行ってくださいっていう譲渡会をしました。年に150本くらいできるので、それが全部はけて、そこからまた新しくやると。そんなかんじですね。

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玉木先生が削った木のスプーン。ひとつひとつに樹種のタグが付いている。

 

 

――スプーンづくりはどんなところがおもしろいですか?

玉木:それまでは、木材もそれはそれで好きでしたけど、何が何だかよくわからなかったんです。大学のときに、板材は、木の真ん中の芯を取って作られているのが「柾目」で、それ以外が「板目」というのを教えてもらったんですけど、何が違うのか、何度聞いても全然わからなかったんですよね。でも、自分で木を削るようになって、ようやくわかりました。学生さんに「木を覚えるときは、木を好きになると簡単に覚えられますよ」って言うんですけど、木材も一緒だったんですよね。木材も自分で触ってみて、好きになると違いがどんどんわかるようになりました。おかげで自分の興味や知識の幅が広がったなって思います。

 

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二色に分かれている、ヤマウルシのスプーン。

 

 

――アカデミーは2年しかないから、アカデミーを使い倒せってよく言われるんですけど、玉木先生が一番使い倒しているんじゃないかって思います。

玉木:最初に素直であることが大事って話をしたんですけど、それなんですよね。素直に僕もアカデミーを使い倒しています。森林って自然の生きものが暮らす場であると同時に、人が利用していく場でもあるじゃないですか。木材生産の場であったり、レクリエーションの場であったり、あとは、国土を保全する場であったり。僕が普通に大学や研究所の研究者になっていたら、自然のことしか見ていなかったんだろうなって思います。アカデミーに来てよかったのが、それ以外の視点が入るようになったことかな。そういう意味で研究にも幅が広がりましたね。今までいろんな研究をしてきたけど、これからは木材を組み込んだ研究をしたいなって思っています。趣味から研究に発展させていきたいっていうのが野望ですね。自分で言うのもなんですけど、野外の木を研究している人は、立っている木のことしか知りません。木材のことをやっている人は木材のことしか知らない。特に研究者でその両方をやっている人はいないから、なんとか研究に結び付けたいなあと思っています。

 

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――削っていて、いちばん気持ちの良い木はなんの木ですか?

玉木:それよく聞かれるんですけど、まあまあ固い木であればなんでもいいんですよ。ただ、素直な木ですね。曲がっている木は削りにくい。ただ、これも最近気が付いたんですけど、曲がっている木は、曲がりを認めて、曲がった柄にして作った方がいいってことがわかりました。それを無理にまっすぐの柄で作ろうとすると、ねじれて大変なので、曲がっているのを活かして作るっていうのが、500本以上削って最近気が付いたこと。楽しいですね、ほんと。ぜひ、みんなにやってもらいたいです。

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――アカデミーに入学したい人、森に関わる仕事をはじめたい人に向けて、メッセージをお願いします!

玉木:2年っていうのはすごく短い時間なんだけど、その中でみんなすごく成長して出ていけるっていうのが、いいところかなって思います。特に、高卒から入ってくる人が多いエンジニア科は、2年生になるとすごく見違えるようになりますね。あと、すごい人脈ができると思う。森林っていうくくりのなかで、林業に行く人もいれば、製材とか建築とか木工とか環境教育とか、いろんなところに行く人がいるから、いろいろな分野で人脈ができるのが大きいかなと思います。そういう人脈は、働いてからだとむずかしいんじゃないかな。だから、知識や技術を習得するだけじゃなくて、人脈とか人間的成長とか、そういうところを魅力に思ってもらえたらいいですね。

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玉木:あとね、アカデミーがおもしろいのは、途中で辞めた人でもアカデミーのことを好きな人が多い。それがすごい驚きなんですよ。嫌だからやめるってわけじゃなくて、すぐにでもやりたいことがありすぎちゃって、卒業まで待てない!って出てっちゃう人が結構いるんです。そういう人は今でもアカデミーに愛着を感じてくれている人が多いんですよ。僕もそうですけど、アカデミーに来るとアカデミーのことが好きになっちゃうんですよね。

 

インタビュアー 由留木 楓(森と木のエンジニア科)

 

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