安井昇先生の火育と木育「木造建築の防火」
木造設計・防火建築を専門とされる安井昇先生にお越しいただき、木造建築の防火について教えていただきました。
今年度はmorinos(モリノス)での開講となりました。
・座学
座学では「そもそも火災とは何か」というところから、実験映像を交えてご説明いただきました。
建物火災は年間約2万件(H30)発生しており、毎年1,500名近くの方が亡くなっています。出火原因は、たばこ、たき火、コンロ、放火の順に多くなっています。出火原因をみますと、建物火災は天災ではなく、人災のように思います。
ところで、「マッチ1本火事のもと」という言葉をご存じでしょうか。近年は減少しつつある文化のようですが、町内を「火の用心!マッチ1本火事のもと!」と言いながら町を巡回された経験をお持ちの方もおられると思います。これは、マッチ1本の小さな火が、大きな火災の原因となることを忘れず、火の始末をしっかりすることを促す注意喚起でした。火源が小さくても、火が広まれば大きな火災になります。火災は成長する災害なのです。マッチのような小さな火であれば、簡単に消すことができます。つまり、火事を大きくしない工夫をすることが重要なポイントとなるのです。燃え方を建物レベルでコントロールする設計をすることの必要性と重要性を学ぶことができました。
講義では、滅多に見ることのできない貴重な実験の映像を解説付きで見させていただきました。学校の実物大火災実験の様子は報道もされましたが、実験の目的・意図、全体像を知る機会はなかったので、本当に貴重な時間でした。
・焼スギづくり
「木造の建築物は火災に弱い」と思われている方も多いのではないのでしょうか。木造住宅が焼け落ちる様子をニュースなどで見た方も多いと思います。しかし、それらの住宅は、建築基準法の施行前に建てられたモノであり、木造であっても防火造、準耐火木造のモノの出火件数は多くありません。そもそも、条件が整わない限りは火災になりません。それを実体験で学ぶため、「焼杉づくり」を校内の広場で行いました。
① 初めに板材を3枚用意し、三角柱になるように麻縄で固定します。
② 下から空気が入るよう材を台の上に置き、下に新聞紙を詰めます。
③ 新聞紙に火をつけます。
板材の幅が細かったため、着火に時間がかかりました。
④ 鎌で板材と板材の隙間をあけ、空気を入れます。
内側は激しく炎が上がっていますが、木材は燃え抜けにくいので、外側は素手で触っても大丈夫です。これが木材の燃え方の特徴であり、防火のポイントとなります。
⑤ 3分ほど経ったら麻縄を切り、板材を倒します。
広げると、可燃物が近くに無く、放射熱を得ることができないため、すぐに消火されます。
今回は、スギに加え、ヒノキとスラッシュ松(左2本)でも行いました。スギとヒノキの差は大きくありませんでしたが、スラッシュ松は表面の割れが少なく、特徴的でした。
・校内の防火
最後に校内の防火対策を見てまわりました。設計で防火対策がなされていても、利用者が理解し、正しく使用できなければ意味がありません。住宅や職場などの防火対策を定期的に確認する必要があると感じました。
住宅や日常的に利用する施設の消火器の場所は分かりますか?初期消火は非常に大切です。いざという時のために、場所と使い方を確認しました。
2日間の講義では、火と木材の性質、木造建築における最先端の防火をとても分かりやすく説明いただきました。公共施設をはじめ、木質化・木造化が活発となりつつありますが、一方で、木造建築物は火災に弱いといった認識の方が多いことも事実です。安井先生は、「設計は日常が最高になるように。非日常が最悪にならないように。」と心掛けて設計をされています。正しい知識を用いて設計し、知識を多くの人に広める。これが、これからの設計者に求められることだと感じました。
安井先生、貴重なお話をありがとうございました。
岐阜県立森林文化アカデミー
クリエーター科木造建築専攻1年 河村尚幸