気温と湿度の快適性評価PMV分布~夏と冬の温熱実測~(morinos建築秘話65)
morinosでは、これまで夏と冬の温度と湿度の分析をそれぞれに行ってきました。
・見えない熱を見る~夏の実測その1~(morinos建築秘話46)
・断熱で熱を遮る~夏の実測その2~(morinos建築秘話47)
・美濃市の暑い日常~夏の実測その3~(morinos建築秘話62)
・閉め切り冷房ナシのmorinosの夏~夏の実測その4~(morinos建築秘話63)
・蒸し暑さを絶対湿度で見る~夏の実測その5~(morinos建築秘話64)
・冬の日常?~冬の実測その1~(morinos建築秘話49)
・冬の表面温度はどのくらい?~冬の実測その2~(morinos建築秘話50)
・人がいないときの室温は?非日常のmorinos~冬の実測その3~(morinos建築秘話55)
ですが夏期は、気温が適温でも湿度が高ければ何か蒸し暑く心地よくないことは経験されている方も多いのではないでしょうか。
一方、冬期は、暖房すると乾燥しすぎて肌がかさついたり、インフルエンザウイルスの流行と関係がありそうと聞かれた方もいるでしょう。
つまり、室温だけでは心地よさが適切に評価できません。今回は、気温と湿度の関係から心地よさの分析を行ってみましょう。
快適性に関しては過去たくさんの研究者の方が評価を試みられています。
代表的なものを上げてみると、
・オルゲーの生気候図
・不快指数
・エクセルギー指標
・PMV指標
があります。
■快適性評価 PMV
今回はこの中からPMV指標を取り上げて分析してみたいと思います。
PMV(Predicted Mean Vote)とは、“平均予想温冷感申告“と訳され、人がどれくらい快適かを表す指標で、温度、湿度、放射温度、気流速、着衣量、活動量の6つの要素から算出されます。1994年に国際規格 (ISO7730) になって、世界各国で活用されている信頼できる指標です。
とは言っても、温度以外にも着衣量や活動量などの6つの要素が複雑に絡み合うため、一目でどのくらいの快適性なのか判断しにくい部分があります。
そこで、不確定要素をある程度固定して計算した値を事前に用意して温度と湿度がどの範囲に入ると心地よいか見てみます。
PMVの固定条件
・気温と放射温度は同じ値と想定
・気流速:0.15m/s(室内を想定)で固定
・着衣量:夏0.5clo(長袖シャツ&長スボン)、冬1.0clo(長スボン&ジャケット)
・活動量:1Met(着座)で固定
PMVは数値(下表)で表され0(ゼロ)が最も良い状況で中立 Neautralと言われています。それでもすべての人が満足するわけではなく、5%の人は不満足と感じる想定です。
±0.5の範囲は、ほんの少し暖かかったり、涼しかったり、変化を楽しめる範囲として「心地よい」と私がつけた表現、それ以外の表現はISO7730で規定されています。
上図の濃い範囲PMV-0.5~0.5が心地よい範囲で、この中に温湿度が入っていれば9割の方は心地よく感じます。
上下±1の範囲に入ると、25%の方(4人に1人)が不快に感じはじめ、±2の範囲では75%の方が不快に感じてしまいます。
設定で固定している着衣や活動量、通風によっては違った感じ方になることは注意が必要です。
さらにもう少し適切な温湿度域を絞ってみます。
高温、高湿になるとカビやダニが活発に活動します。
また、低温低湿ではインフルエンザウイルスの流行のリスクが伴います。
この範囲(目安)をプロットして追記したのが下記の快適温湿度範囲になります。
割と狭くなってしまいました。
ここに実測データをプロットしてみます。夏に2期間、冬に3期間の計5つの分析を示します。
※参考:天井扇(中ノッチ程度の0.3m/s)などで、常に気流感がある場合は、+0.6℃程度、扇風機や通風(1m/s)がある場合は、+1.5℃程度の範囲まで広がります。
また、0.5clo(半袖シャツ&半袖スボンおよびTシャツ&ショートパンツ)の服装の場合、それぞれの気流速度の快適性範囲が、+1℃程度の範囲まで広がります。
■夏の実測データ
①活動中(冷房アリ)の特に暑い夏の温湿度変化 2021年8月28日(土)~30日(月)
特に暑かった3日間を抜き出し、冷房をつけつつ活動している状況のプロットです。
※運用状況のインタビューからコロナ対策もアリ、エアコンをかけた状態でも窓開けを行っているとのこと。
そのため外気が流入して、効率的に冷房ができていない状況を想像しながらデータを見てください。
気温と湿度の分析は下記の建築秘話をご覧ください。
・美濃市の暑い日常~夏の実測その3~(morinos建築秘話62)
・蒸し暑さを絶対湿度で見る~夏の実測その5~(morinos建築秘話64)
青い点が外気温、グレーが床下、黄色が床上、オレンジが腰高、赤が頭の高さを示しています。
外気温(青)を見てみると、60%以上の高湿な位置にあり、しかもかなりの高温(右上の方向)になっている時間帯があります。ここまでくるとPMVも3を優に超えておりほぼすべての人が「暑い」となります。
明け方は多少高湿ですが、快適温湿度域にあり、外気のポテンシャルがうかがえます。
一方、室内(黄色、オレンジ、赤)は、比較的、快適温湿度内にとどまっています。
一時期、頭の高さや腰高で、PMVが1を超えており、暖かいから暑い状況です。平面的な温度の分布は計測していないですが、場所を移動することで、その人の心地よい空間を見つけられるかもしれません。
床下(グレー)は、快適範囲内にある状況を維持できており、外部の影響を受けにくいことがわかります。
エアコンの能力は、ゆとりがありますので、運用側でコントロールできますし、比較的良い室内環境を維持できていることが確認できます。
②締め切りで冷房ナシの暑い夏の温湿度変化 2021年8月10日(火)~12日(木)
無人で冷房ナシの自然室温状態の暑かった3日間を抜き出したプロットです。
気温と湿度の分析は下記の建築秘話をご覧ください。
・閉め切り冷房ナシのmorinosの夏~夏の実測その4~(morinos建築秘話63)
・蒸し暑さを絶対湿度で見る~夏の実測その5~(morinos建築秘話64)
青い点が外気温、グレーが床下、黄色が床上、オレンジが腰高、赤が頭の高さを示しています。
外気温(青)を見てみると、①の暑い日に比べると、かなり穏やかな夏の暑い日です。PMVが2近くなる時間帯もあり、日中は7割以上の人は不快感を感じます。
やはり、明け方から午前中、夜間、快適温湿度域にあり、外気のポテンシャルがうかがえ通風や外気冷房のポテンシャルが感じられます。
無人で閉め切って冷房を使用していない室内(黄色、オレンジ、赤)はどうでしょうか。
さすがに頭の高さでPMVが0.5を超え時間帯が結構あり、外気と同程度のPMVが2近い時間帯も見られます。半数以上の人が不快感を感じそうです。
外壁がガラス張りのmorinosですが、大屋根の効果もあり、そこまでの温室い状態にはなっていないことが確認されました。
足元(黄色)は比較的快適温湿度域にあります。これは、外気や室内上部の影響を受けにくい床下(グレー)の冷気だまりが影響していると考えられます。
■冬の実測データ
③人の活動が無く日射がない寒い日の温湿度変化 2021年1月1日(金)~3日(日)
無人で暖房ナシの自然室温状態の特に寒く日射もなかった3日間を抜き出したプロットです。
気温の分析は下記の建築秘話をご覧ください。
・人がいないときの室温は?非日常のmorinos~冬の実測その3~(morinos建築秘話55)
青い点が外気温、グレーが床下、黄色が床上、オレンジが腰高、赤が頭の高さを示しています。
さすがに室内、室外すべてがPMV-3(ほぼすべての人が寒さによる不快感を感じる)を下回る寒さです。
よく見てみると、3つのグループに分類されています。
特に外気(青)は、0℃近くまで下がっており、ばらつきが大きいです。時間帯によって湿度のバラつきがあります。
一方室内(黄色、オレンジ、赤、グレー)はある程度まとまっており、特に床下(グレー)は3日間通してほとんど温湿度が変化していないことがわかります。
足元(黄色)、腰高(オレンジ)、頭高(赤)の3か所とも、ほぼ同じような温湿度を形成しており、低温ですが、上下温度差がほとんどありません。これは、日射や暖房といった熱供給がほとんどないため、空気の流動が起こりにくいためと考えられます。
④人の活動が無く平年並みの温湿度変化 2021年1月5日(火)~6日(水)
無人で暖房ナシの自然室温状態の平均的な寒さの2日間を抜き出したプロットです。
気温の分析は下記の建築秘話をご覧ください。下記ブログでは3日間の分析ですが、初日は暖房があるため、後半の2日間を抜き出しています。
・人がいないときの室温は?非日常のmorinos~冬の実測その3~(morinos建築秘話55)
青い点が外気温、グレーが床下、黄色が床上、オレンジが腰高、赤が頭の高さを示しています。
外気(青)を見ると④の特に寒い時期に比べると、日射の影響もあり、多少高温域でばらついていることがわかります。それでも、日射がある日中を含めても全てがPMV-3以下の寒さの状況です。ちょうど絶対湿度が7g/m3以下のラインに沿って分布しています。
一方室内(黄色、オレンジ、赤、グレー)は、同じ無人で無暖房ですが、③に比べてバラつきが大きくなっています。これなガラス面からの日射熱が入ることで、日中と夜間の温度差がついたことと、内部の空気が対流を始めたためと考えられます。
とはいえ、快適温湿度域にはほとんどの時間帯が届いておらず、日射だけでは、快適な室内環境には至らない状況です。
床下(グレー)には、日射熱が直接入ることはありませんが、室内の影響で、③に比べても変動が大きい状況です。
⑤活動中の冬の日常の温湿度変化 2021年1月8日(金)~10日(日)
暖房も併用している特に寒い日(半分以上が氷点下)の冬の3日間のプロットです。
気温の分析は下記の建築秘話をご覧ください。
・冬の日常?~冬の実測その1~(morinos建築秘話49)
青い点が外気温、グレーが床下、黄色が床上、オレンジが腰高、赤が頭の高さを示しています。
外気を見ると、半分以上は氷点下の寒い日なので、この範囲からはみ出ており表示されていません。日中、晴れていても5℃には届かない特に寒かった3日間です。
室内(黄色、オレンジ、赤、グレー)を見渡すと、無人で無暖房だった④と同じような傾向がみられます。
これは、冬の温度分析でも触れた通り、夕方から朝までの半日以上無暖房の状況で、室温が下がってしまうためです。
日中は日射の影響もあり、30℃を超える時間帯もありますが、その分、日較差が大きくなっています。
また、快適温湿度域に照らし合わせると、全体的に低湿寄りになっているのが見て取れます。
今年度の冬には、夜間の薪ストーブ運用と、薪ストーブ上のポットによる加湿なども試してみて、状況を考えていきたいです。
morinos建築秘話の全話はHPから見れます。