木工事例調査⑤「丸サ熊澤製材所」中津川市連携事業
今年も連携協定を結んでいる中津川市の林業振興課にご協力頂き、中津川市の木材産業を巡る木工事例調査を実施しました。中津川市は木曽ヒノキや東農ヒノキで知られる木材の一大生産地であると同時に、全国でも有数の木工が盛んな地域です。
学生達の目線から報告するレポート第5弾は、木曽ヒノキ専門に製材をされている「丸サ熊澤製材所」です。
2021年7月2日に中津川市付知町にある(有)丸サ熊澤製材所の熊澤章宏社長と息子さんの康平さんにお話しを伺いました。
(有)熊澤製材所は、昭和25年から樹齢250〜300年の木曽ヒノキを専門に製材しているとても稀な製材所です。岐阜県には一箇所しかありません。
一般的な製材所では構造材、柱用に製材を行いますが、ここでは、ほとんどが木工品の材料でお客様の注文に合わせ柾目で製材し、納品されています。
ここでは丸太をみかん割りにして何回も向きを変えて製材していきます。一般的に原木1本を建材用に製材するのにかかる時間は5分〜10分なのに対して、柾目に製材していくのには1時間かかるそうです。1日に7本、月に25〜30本しか製材できないそうです。
あとは、注文に応じた形に木取りしていく作業になります。歩留まりの60%は製品になり、40%はチップ、廃棄になります。高い品質の柾目材を製材する為には、原木を仕入れる段階でのアテ、カスリ、シオレといった欠点の見極めが重要です。
アテは、木の成長する段階で力がかかって色が濃くなってしまった部分のこと。製材方法が特殊でアテを真っ二つに切るように製材しないと刃が挟まって製材機が壊れてしまう恐れがあります。
カスリは、紫色の点で木が傷ついた部分を治そうと養分を貯めた部分のこと。匂いも臭く、ヤニが多い為カスリが出たら使い物になりません。
シオレは、木目に折れた時のようなマークが入り、風などで木が大きく揺れたことでできる部分です。薄い材では割れやすくなるそうです。
上記があるとB級品になり価値が落ちてしまいます。原木の段階で見極め事ができるそうですが、まとめ売りの場合は判別するのが難しいとのことでした。
ここの木曽ヒノキは、主に神棚を作っている企業に納品しており、見た目の美しさが重要です。柾目は、木曽ヒノキの木目の綺麗さを最も際立たせます。
柾目で何寸何分長さが尺で何本といった細かい注文に合わせて木取りをして卸しており、手間はかかるが、細かい材まで買っていただけるといったメリットがあるそうです。細かい部材まで買っていただけるので、そういった面からは歩留まりは良くなります。
柾目がかなり重要な製品が卓球のラケットです。木目の間隔が均等で1mm以下の本柾(木口の年輪が板目とほぼ直角)でないと、打った時の球の振動がかわり、いい球筋が出ないそうです。実際にラケットを見せていただき木目の間隔の狭さに驚きました。
ただ、現在はコロナで室内スポーツが禁止されていれている影響もあって、注文はストップしてしまっているようです。
写真8 柾目で無地の赤身だけを使った檜風呂。とても綺麗な檜風呂に学生一同興味津々。
檜風呂も見せていただきました。熊澤製材所で製材・木取り・桶製作を一貫して行っていて檜風呂をお値打ち価格で提供しています。
檜風呂も柾目がとても重要で、板目だと水分を吸ったり、吐いたりするうちに段々と狂って割れてしまう事があります。木曽ヒノキの香りを楽しんでいただくため香り損なわない塗装がされています。
韓国では、木曽ヒノキの価値がしっかりと評価されていて、卓球ラケット、檜風呂の人気は高く、「一番高い品質の良いヒノキが欲しい」というお客様もいるそうです。
最後に
恥ずかしながら私は、今回中津川市に訪問するという事で、調査していく中で木曽ヒノキというブランドの木がある事を知りました。木曽ヒノキで作られた卓球ラケットや檜風呂が韓国でとても好まれていることに衝撃で、日本木材の価値が高く評価されていることに嬉しいと感じた反面、日本人の私が何も知らないという事実に心苦しさを感じました。
今回中津川市で加子母裏木曽国有林から製材、加工まで実際の現場を見学させていただき、何百年という永い年月沢山の人により守られてきた木曽ヒノキの価値や重要性を感じることができました。今後木材を利用していく私たちとってお客様がトレーサビリティできるように発信して伝えていくことが、良い物をその物に見合った価格で販売する上で重要なのだと感じました。
大人数で見学する私たちに一つ一つの工程を分かりやすく丁寧にお話くださった熊澤章宏社長、康平様貴重なお時間を頂き、ありがとうございました。そしてこの貴重な経験をさらに意義のあるものにすべく今後の学生生活に活かしていきたいと思います。
(有)丸サ熊澤製材所
https://kisohinoki-kumazawa.jp
文責:森と木のクリエーター科木工専攻1年
鈴木 みなも、内藤 光彦