森林文化アカデミー・木工専攻とは(オープンキャンパス資料)
8月22日(日)に予定しているオープンキャンパスが、新型コロナウィルスの感染拡大に伴い、県外からの参加ができなくなりました。当面の間、県外の方向けにはオンラインで情報提供したり、個別相談を行ったりすることになります。22日に説明する予定の内容をここにも掲載しておきますので、県外の方はご覧いただき、進路検討の参考にしてください。
森林文化アカデミー・木工専攻についてご説明します。
みなさんは木工に関心を持ち、木工を仕事にしたいと考えて森林文化アカデミーの受験を検討しているのだと思います。では、木工とはどんな仕事のイメージでしょうか。「緑豊かな場所に木工房を構え、家具やスプーンなどを作る」、そんなイメージでしょうか。
もちろんそれも木工ですが、実際には木工の仕事はもっと幅広いのです。
・椅子やテーブルなどの現代的な家具を作る
・スプーンやボウルなどの食器を作る
・曲げわっぱ、お椀、桶、樽などの伝統的な生活道具を量産する
・地域材を使った商品開発をする
・自治体が新生児に配布する木のおもちゃを作る
・木工教室で受講生に木工を教える
・子どもたちに木に親しんでもらう木育の活動をする
・木工家のために、材料を販売したり道具を製作したりする
・・・まだまだ、たくさんあります。
そして、どんな立場で仕事をするイメージでしょうか。
・作家として、個人で工房を持ち、デザイン、製作、広報、営業などすべて自分でこなす
・職人として工房に所属し、作ることに専念する
・組織に所属し、木工製品や木材流通の企画や営業に携わる
・木工を教えるNPO法人のスタッフとして働く
・自ら会社を起業し、人を雇って製品を作る
木工を学ぶ前から将来の仕事をイメージするのは難しいかもしれませんが、なるべく多くの人や本などに接し、具体的なイメージを持つことをお勧めします。それは、どんな仕事をしたいかによって、木工を学ぶべき場所も変わるためです。
木工を学べる場所はいろいろありますが、内容は大きく異なります。大別すると、大学、職業訓練系の学校、木工教室に分かれます。
▼大学
富山大学(芸術文化学部)、武蔵野美術大学(工芸工業デザイン)、京都美術工芸大学・京都伝統工芸大学校(同じ学校法人)など。
芸術系の大学では、実用的な小物や家具の制作もありますが、芸術表現、自己表現に重きを置くところもあります。
デザイン系の大学では、制作よりもデザインに重きが置かれ、木は様々な素材の中のひとつとして扱われます。そのため必ずしも木工を集中的に学べるところばかりではありません。
美術工芸、伝統工芸の継承者を養成することを目的とした大学もあります。
▼職業訓練系(公立・家具製作系)
岐阜県立木工芸術スクール、長野県立上松技術専門校など。
いわゆる職業訓練校です。高等技術専門学院、テクノスクールなど呼称は都道府県ごとに違います。1年制がほとんどですが、北海道の旭川など2年制の学校もあります。費用が安いのが魅力です。地域の木工産業への人材供給が目的であったため、木工産業の衰退とともに全国的には統廃合が進んでいます。
公立の職業訓練校のカリキュラムは、どこも家具製作に重きが置かれています。
▼職業訓練系(公立・その他)
石川県挽物轆轤技術研修所、井波木彫刻工芸高等職業訓練校(富山県)、大分県立竹工芸訓練センターなど。
公立の職業訓練校は家具製作に重きを置く一方、昔ながらの伝統的な木工技術、たとえば挽物(木を回転させながら削ってお椀などを作る)、曲物(薄い板を曲げて容器を作る)、箍物(たがもの・細い板をたがで締めて桶や樽を作る)などの後継者育成は、職人自身に任されてきました。そのためこれらの技術を学ぶには弟子入りするしかないのですが、中には自治体や職人組合が学校を設立しているところもあります。上記の3校がその例です。たとえば石川県の挽物轆轤研修所では、お椀やお皿の製作だけに特化しています。
▼職業訓練系(民間)
森林たくみ塾、飛騨職人学舎(いずれも岐阜県)
民間の職業訓練系の学校は、いずれも家具メーカーが設立したところです。森林たくみ塾はオークヴィレッジ、飛騨職人学舎は飛騨産業が母体で、当然ながら家具製作に重きが置かれています。
これらの学校ではメーカーの製品づくりや工場での実習がカリキュラムに含まれ、公立の学校よりも実習時間が長く取られています。
▼木工教室
ソリウッド木工教室、アルブル木工教室、ウッドロード、ナカジマウッドターニングスタジオ、ツバキラボなど、全国各地
もし木工を仕事として、社会的な目的のためにやりたいわけではなく、趣味として、あるいは自分自身の目的のためにやりたいのであれば、学校ではなく木工教室へ通う方が良い場合もあります。木工教室は全国的に増えているので、お近くの教室を探してみてください。
森林文化アカデミーへの入学を検討している方も、上記のような学校や教室をあわせて訪ね、比較検討をすることを強くお勧めします。
先に説明した大学や職業訓練校と、森林文化アカデミーはどう異なるのでしょうか。
木工専攻では、
「地域材を生かした商品の企画・制作や、木工教室の運営など技術で資源に付加価値をつけ、地域を豊かにする」
ことのできる人材育成を目標として掲げています。
つまり地域の森林資源に付加価値をつけ、地域を豊かにすることが目標であり、そのための手段として木工技術を学びます。
家具製作に偏ることなく、指物(板を組み合わせて箱などを作る)、挽物、刳物(塊を削り出す)、曲物などのさまざまな木工技術を、あえて「広く浅く」学ぶようにしています。グリーンウッドワークやデジタルファブリケーションなど、新しい木工技術もあります。学生がその中から、将来自分が軸にしたいと思うものを選んで深めていくようにカリキュラムを組んでいます。
また、木工技術だけを学ぶのではなく、材料となる木を育む森や自然環境について学ぶことにも多くの時間を割いています。
木工専攻は3人の教員が指導しています。それぞれにユニークな経歴を生かした教育活動を行っています。
久津輪 雅(教授)は、主に手工具、グリーンウッドワーク、里山の資源の利活用、情報発信などを担当。
NHKの報道番組ディレクターを務め、31歳で木工に転身。イギリスで5年間の家具職人として働いた経験があります。イギリスで学んだグリーンウッドワークを日本に普及する活動を続けているほか、海外の木工家との交流、岐阜の伝統工芸(鵜飼舟、鵜籠、和傘など)の材料確保や後継者育成に力を入れています。
前野健(講師)は、木工機械、木工旋盤、おもちゃ製作、木材塗装、木育講座の企画運営、写真撮影などを担当。
野外活動団体スタッフとして幼児~中学生までを対象としたプログラムの企画運営に関わりました。個人工房を開業し、「木製玩具」と「工作キット」を2本柱にデザイン・製作を行ってきました。日本グッド・トイ委員会認定おもちゃコンサルタントの資格を持ち、森林文化アカデミーに着任後も、全国の自治体のウッドスタート事業でおもちゃのデザインやコーディネートの仕事に携わっています。
渡辺圭(講師)は、手工具、家具製作、デザイン、デジタルファブリケーション、地域材活用などを担当。
特注家具製作工房、指物工房などで働いた後に独立し、オーダーメイド家具を製作する工房を起業しました。家具製作の傍ら、親子向けのワークショップ、公共施設・自治体・地域振興を手がける企業との協働プロジェクトなども開催してきました。森林文化アカデミー着任後は飛騨市の「広葉樹のまちづくり」事業に関わり、地域材の有効な活用に取り組んでいます。
1年前期では、まず木工の基礎となる手工具、木工機械、電動工具の使用法を中心に学びます。クリエーター科全体の説明にある通り、1年前期では全体の半分程度が共通科目、残り半分程度が木工の専攻科目です。夏休みまでには自分で(教員の付添なしで)木工機械を操作できるようになります。
1年後期では、木工旋盤(椀や皿)、テーブル、グリーンウッドワークの椅子、引き出し、竹細工、曲げわっぱなど、さまざまな木工品製作を行います。また、木育講座の基礎を学びます。
2年生では、後述する課題研究のために授業の時間数は少なくなります。また、家具や小物を製作する方へ進むか、木工や木育の講座の企画運営へ進むか、など進路によって授業を選択するようになるため、1人1人の学生によって履修する授業が変わってきます。製作系では収納家具や椅子等を、木育系では講座の企画運営を学びます。また、実際の商品をデザイン・製作し、販売までを行う授業もあります。
また、2年生では、進路によって林業・森林環境教育・木造建築など他専攻の授業を積極的に取る学生もいます。
工房は朝8時から夜8時まで、月曜日から土曜日まで、夏休み等の休業期間中も使用できます。授業の終了後や週末に復習をしたり、自主製作を行ったりすることも可能です。
木工専攻では、夏休みや春休みに積極的にインターンシップへ行くことを勧めています。インターンシップ先は、学生が自ら希望する木工房などへ連絡を取り、受け入れてもらうのが基本です。卒業生が営む家具工房、木工教室、林業の6次産業化に取り組む団体など、さまざまな場所で、数日間から数週間のインターンシップを体験しています。
また、高山市の森林たくみ塾は同じ木工系の学校になりますが小物や家具を量産していて、森林文化アカデミーでは体験できない実習であるため、希望する学生をインターンとして短期間受け入れてもらっています。
クリエーター科全体の説明でも述べていますが、1人1人の学生が専門分野の学びの中で現場における課題を見つけ、その解決につながる調査・研究・実践などを行います。
最近の木工専攻の学生の研究テーマには、以下のようなものがあります。
それぞれの研究をA4用紙2枚にまとめたものを、こちらからダウンロードできます。
・五感で感じる木材講座の開発
・木育プログラム開発と場作り
・曲物生産者ごとの道具や技法を調査し、技術交流を図る
・木育とデザインによる地域活性の可能性
・木製キャンプチェアの開発
・アベマキの特性を活かしたおもちゃの開発
・「心くすぐる家具」をつくる
・まちなかのコーヒー店でコーヒーメジャースプーンをつくる
・自作自用から見えた暮らしを豊かにするモノづくり
・福祉施設のクラウドファンディングを木工で応援
これらのテーマは、課題研究、インターンシップ、プロジェクト授業などを通じて学生が課題を見つけ、調査・研究・実践したものが多く、そのまま就職や卒業後の活動につながった人も多くいます。
クリエーター科全体の説明でも述べていますが、30代半ばまでであれば就職の機会はあります。一方、40代以降では就職の機会は減るため、卒業後は自ら起業する覚悟が必要です。
木工専攻の学生の卒業直後の進路では、
・木工房を起業 35%
・木工房に勤務 13%
・木育事業を起業 8%
・木材産業に勤務 7%(製材・木材加工・銘木商など)
・社会福祉工房に勤務 4%
・森林組合・林業事業体に勤務 4%
などとなっています。
木工房の起業では、特注家具もありますが、他にも行灯、下駄、挽物、曲げわっぱ、竹細工など、森林文化アカデミーのカリキュラムを反映した製品での起業も目立ちます。いずれも地域材を使っていることも、特筆すべきことです。
「木工に転職して食べていけるでしょうか」とは、よく聞かれる質問です。
まず、安易に考えないほうがいいということをお伝えしておきたいです。木工技術を2年間しっかり学んで物が作れるようになれば、それで収入が得られると思っている人が多くいます。しかし収入を得るためには、「物を作る」だけでなく「物を売る」ためのさまざまな知識や技術が必要なのです。
作り手はインターネットで直接物を売れる時代になりました。でも、数百、数千人もいる作り手の中から自分の作品を選んでもらうためには、良い写真を自ら撮り、魅力的な説明文を自ら書かなければなりません。ウェブサイトの製作やSNSの投稿などの情報発信も絶えず必要です。お店に作品を置いてもらうためには、営業で1軒ずつ回らなければなりません。他にもすべきことがたくさんあります。
経済は低迷し、物はなかなか売れない時代になりました。さらに労働力の安い国で作られた家具や雑貨が大量に輸入されてきます。輸入品に対抗するため、国内ではロボットが家具を作っているところもあります。そのような環境の中で物を作り、売らなければならないということも意識してください。
でも、10年後、100年後に木工の担い手は日本からいなくなっているでしょうか。私は決してそんなことはないと思っています。「木工で食べていけるか、10年後に木工の担い手でいられるか」は、逆説的ではありますが、「木工で食べていくという決意をするか、10年後も木工の担い手でありたいと願い努力ができるか」が一番大切だと思います。
木工はこれまで、主に生活必需品を作る「製造業」でした。その位置づけが、いま大きく変わってきていると感じています。
たとえば、いま余暇に木工を趣味として楽しみたいという人が増えています。木工教室で教ることができる指導者が求められています。これは製造業というより、教育産業、サービス産業です。
また、生まれてきた子どもに地域材でできた木のおもちゃをプレゼントする取り組みをする自治体が全国で増えています。木に囲まれた環境で子どもと過ごせる木育広場も各地にできています。これらは子育て支援、福祉の分野の仕事です。
活用されない森林を抱える各地では、若手の事業者たちが「林業の6次産業化」に取り組んでいます。さまざまな森の恵みを製品や食品に加工して販売し、さらに木工や食べ物づくりの体験までできる施設があります。単に製造業にとどまらない、複合的な取り組みです。
このような新しいニーズは、社会のあちこちに生まれています。課題に気づき、他者と連携しながら、木工技術を生かして魅力的な解決方法を提示すること。森の魅力、木の魅力を大人や子どもに楽しく、分かりやすく伝えられること。それらはこれからの木工の担い手の大きな役割だと思います。
もちろん技術を学ぶなら早いに越したことはありません。
先に書いたとおり、30代半ばまでは就職の可能性があります。森林文化アカデミーで学んだ後、さらに木工房などに勤めて技術を磨き、作り手として、あるいは森や木の魅力の伝え手として成長することができます。
一方、40代からは就職の道は少なくなります。しかし、それまで社会人として身につけた様々な知識・技術・経験と、アカデミーで学ぶ木工の知識・技術を組み合わせて、仕事を作り出すことは可能だと思います。
製造業を50代半ばで中途退職してアカデミーに入学してきた人は、70代の竹細工職人に後継者がいない現状を知り、在学中に竹細工技術を学んで卒業後に後継者となり、仕事をしています。
40歳で大手企業を辞めてきた人は、グリーンウッドワークを普及するNPO法人の代表となり、全国で講座を開いています。
公務員として定年まで勤めた人は、木育を普及する団体の事務局長として活動しています。
さらに森林文化アカデミーの木工専攻について知りたい人は、森林文化アカデミーのウェブサイトの「活動報告」を見てください。さまざまな授業の報告が載っています。また、アカデミーのSNSアカウントもありますし、それぞれの教員もSNSで情報発信しています。森林文化アカデミーの情報発信量は、他の学校と比べて群を抜いています。
コロナの感染状況悪化により、しばらくの間は県外からのオープンキャンパスにお越しいただけない状況ですが、オンラインでの相談は随時受け付けています。森林文化アカデミーのウェブサイトから申し込んでください。
木工専攻 久津輪 雅