活動報告
最近の活動
月別アーカイブ
2021年08月03日(火)

林業事例調査2021(4)(2021/7/27)

林業事例調査3日目。

最初の訪問地は長野県南佐久郡佐久穂町の町有林です。アカデミーのある岐阜県美濃市付近の人工林といえばスギかヒノキというのが定番です。しかし人工林面積(民有林と国有林の合計)全国3位の長野県ではカラマツ林が多く、民有林面積の52%をカラマツが占めています。

ということで「きれいに手入れされたカラマツ林を見てみたい」という願望の元、長野県庁林務部の日詰究さんにご相談したところ佐久穂町の町有林を紹介していただきました。

佐久穂町を含む佐久地区では2017年(平成29年)にカラマツの利活用を推進し、持続的な林業振興を図ることを目的に「~信州カラマツの故郷~佐久森林認証協議会」が設立されました。同協議会設立の目的はFMグループ認証(森林管理)を取得して、CoC認証(木材の流通・加工)と連携し、カラマツ資源の安定供給及び信州カラマツのブランド化の推進だそうです。佐久地区(11市町村)の民有林面積は7万6386haで、その中で佐久穂町の民有林は1万1296haと約15%を占めています。佐久は全国のカラマツ(ニホンカラマツ)のルーツで、北海道のカラマツも明治初頭にここ佐久地区から持ち込まれたものだそうです。

この佐久穂町のカラマツ林を町役場産業振興課林務係の土屋潤さんと、長野県佐久地域振興局の泉川尚久さんに案内していただきました。

まず向かったのは2018年(平成30年)と2020年(令和2年)にカラマツの伐採、地拵え、植栽が行われた現場です。

 

H30年の植栽写真

平成30年の植栽地

令和2年の植栽写真

令和2年の植栽地

 

佐久穂町のカラマツは6100haで民有林全体の55%を占め、その多くが10齢級(50年生、1齢級は5年生)から13齢級(65年生)と伐期を迎えている木だそうです。町ではまずは町有林4536haの主伐・再造林を行うことを決め、防災面や経済的条件からゾーニングを行って、カラマツ林1071haを主伐適地として選び、ここを毎年約21haずつ50年かけて主伐・再造林していくそうです。

上の写真の隣り合う2か所の植栽地ではおもに機械で地拵えし2300本/haのカラマツを植えたそうです。現場に到着した際には丘の上に親子のシカがいましたが、土屋さんによると「まだ大きな被害は出ていない」とのことでした。

機械地拵えにより地面を深く掘り起こし、植林して1年目の下草刈りの必要がなくなりコストカットが実現。また植栽されたカラマツ苗は2年生の裸苗の大サイズを使用。コンテナ苗は高価なため「そこまでお金はかけられない」ということでした。植栽は秋(11月)に行ったようです。岐阜ではヒノキの秋植えを過去に行った際に活着率が悪かったようですが、佐久穂のカラマツでは「活着不良はない」ようです。

さてカラマツの使い道ですが合板としての利用が最も多く、集成材のラミナ等でも使用されます。また土木用材として杭や矢板に使われ、現在も東京湾の埋め立て支柱に使用されているそうです。建築用材としてはカラマツ材が硬いことやヤニが出ることから使われることは少ないそうですが、東京五輪の体操会場となった有明体操競技場(東京都江東区)には南佐久郡の木材が使われています(もちろん1998年の長野五輪の際にもスピードスケートが行われたエムウェーブに集成材としてカラマツが利用されました)。

次に見学したのがカラマツの伐採現場です。現場に到着するとグラップルでカラマツが運ばれていました。この現場では斑(まだら)に伐採を行っているそうです。見学の最中にもチェンソーの音が響き渡り、立木の倒れる音が聞こえました。

 

カラマツ伐採写真

グラップルで伐出されるカラマツ材

 

カラマツ材を初めて見ましたが赤みがきれいで、この材で作った家具が欲しくなりました。

 

カラマツ山積の写真

山積みされたカラマツ材

 

材木に刻印が見えますが、これが前述した認証材の証(あかし)です。木材価格が上がることを期待してのブランド化ですが、現状では佐久穂町にとっての宣伝効果にはなっているもののまだ価格上昇への影響は少ないそうです。今後に期待がかかります。

 

このスタンプで認証材の刻印が押されます

 

この日は雨が降っていたのですが、シカの足跡を発見しました。

 

しか足跡写真

シカの足跡

 

佐久穂町のカラマツ林を後にして茅野市の神長官守矢史料館(じんちょうかんもりやしりょうかん)を見学しました。ここは諏訪上社の神長官(上社の神事の秘事を伝える神社の事務長格の役職)を古代から明治の初めまで務めた守矢氏の資料を治めた博物館。東大助教授で工学博士(当時)だった藤森照信氏が1991年に設計を行った史料館の建物も含めて興味深い見学地でした。

 

史料館の外観写真

神長官守矢史料館の建物

 

建物に入るとシカの首やイノシシの首、さらには串刺しにされたウサギが飾られ少し不気味な感じがします。これは江戸時代に行われた諏訪上社での御頭祭の様子を復元したもので、現在でも毎年4月15日にシカの頭を供える御頭祭(別名酉の祭)が行われているそうです。

 

史料館の内部写真

神長官守矢史料館に飾られたシカやイノシシの頭

 

 

実習の最後の見学地は諏訪市にある古材と古道具を販売する建築建材のリサイクルショップ「リビルディングセンタージャパン」。同所を見学(ショッピング?)して長野の地をあとにしました。

 

今回の実習では雄大な自然を見て、未来につなげる新しい形の林業事業体を見学。さらには広大な敷地を持つ林業家による未来を見据えた森づくりの話を聞きました。さらにはカラマツの持続的な林業振興を図る自治体の取り組みについて学ぶといったバラエティに富んだ実習となりました。来年どこに行けるのか今から楽しみです。

(クリエーター科林業専攻1年 岩屋良明)

【林業事例調査 2021年夏季実習の報告はこれでおわります】