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2021年01月21日(木)

SDGsの上位に位置する「経済圏」レイヤーと「基幹理念」(morinos建築秘話54)

morinos SDGsの最終回は、「経済圏」レイヤーと、「基幹理念」であるパートナーシップの評価です。

SDGsウェディングケーキモデルの「経済圏」レイヤー

活力やイノベーションを生む建物、まちづくり、持続可能なサプライチェーンの構築、外部不経済の最小化等を考えるレイヤーです。

生物圏」「社会圏」の2層によって支えられているSDGsウェディングケーキの上段である「経済圏」には、17のGOALのうち下記の4つが含まれています。

GOAL8.働きがいも経済成長も(成長・雇用)
GOAL9.産業と技術革新の基盤をつくろう(イノベーション)
GOAL10.人や国の不平等をなくそう(不平等)
GOAL12.つくる責任 つかう責任(生産・消費)

「経済圏」では、社会で働く人々の“働きやすさ”や、人や国に対する差別や偏見をなくすことで、国や世界の経済発展につながるとしています。

そのためには、「生物圏」「社会圏」のそれぞれの目標を達成することが必要不可欠であり、経済の発展は環境と社会の上に成り立つことによって実現が可能になります。

まずはGOAL8「働きがいも経済成長も」です。

しっかり取り組めている項目として、利用者の知的生産性を高める室内環境の充実があげられます。暑さ、寒さを感じさせにくい適切な温熱性能や設備選定、積極的な昼光利用に加え照明設備の選定、素材選びや換気設備などで空気質にもこだわっています。
また、長寿命化に備えた取り組みとしても、通気層の設置で躯体と外壁等を切り離したり、内部結露を抑える構成を取り入れたりと工夫は尽きません。

一方、十分に取り組めていない項目として、火災に耐える先進的な取り組みまでは行っていません。

結果としてGOAL8「働きがいも経済成長も」は評価2.7(1~3段階中)と積極的に取り組んでいます。

次に、GOAL9「産業と技術革新の基盤をつくろう」です。

しっかり取り組めている項目として、レジリエントデザインとしての、十分な耐震性や耐風性によって、内部設備を守っています。また、コミュニケーションやリラックススペースはしっかり確保できています。

一方、十分に取り組めていない項目として、先端的な取り組みはそこまで入り込んでいません。例えば、創エネ設備や免震・制震装置、非常用電源の確保、機械配管の支持の信頼性向上などです。このあたりは予算との兼ね合いで実装できなかった部分も含まれます。

結果としてGOAL9「産業と技術革新の基盤をつくろう」は評価1.8(1~3段階中)とまずまずの取り組みにとどまっています。

次はGOAL10「人や国の不平等をなくそう」ですが、CASBEEでは、GOAL5「ジェンダー平等を実現しよう」に集約して評価しますので、社会レイヤーの回を参照してください。評価する内容は以下の通りです。

 

「経済圏」レイヤーの最後は、GOAL12「つくる責任つかう責任」です。

しっかり取り組めている項目として、GOAL8でも確認した長寿命化の取り組みや、持続可能性につながる地域材を活用した木材利用やトレーサビリティの確保、解体時に分別の容易性で廃棄物の削減、有害物質を含まない建材の選択などです。

一方、十分に取り組めていない項目ほぼなく、安定した取り組み内容です。

結果としてGOAL12「つくる責任つかう責任」は評価2.8(1~3段階中)と積極的に取り組んでいます。

 

SDGsウェディングケーキモデルの頂点、三層を貫く「基幹理念」

「経済圏」「社会圏」「生物圏」の3層から構成されるSDGsウェディングケーキですが、その頂点にはGOAL17 「パートナーシップで目標を達成しよう(実施手段)」が設定され、三層すべてに影響を与えています。

このGOAL17は、国や企業をはじめとした全世界の人々がパートナーシップを組むことで、持続可能な社会を作り上げることを目標にしています。

そして、GOAL17を達成するためにも、「経済圏」「社会圏」「生物圏」それぞれの層においての役割を全ての人々が理解し、目標達成に向けて一歩ずつ活動していかなければなりません。

GOAL17「パートナーシップで目標を達成しよう」の内容は以下の通りです。

しっかり取り組めている項目として、木材や建築材料などの資源調達時における調達先への配慮があげられます。合法的に伐採された木材、建材の含有化学物質の管理などです。
また、森のようちえんやプレーパークなどの地域コミュニティ活動と連携する取り組みも大きな評価です。

一方、十分に取り組めていない項目として、コミュニケーションを促進するICT環境の整備です。防災情報やエネルギーマネージメント、地域見守りサービスなどですが、morinos活動の性質上、どこまで整備すべきか悩ましいところです。

結果としてGOAL17「パートナーシップで目標を達成しよう」は評価2.5(1~3段階中)と比較的積極的に取り組んでいます。

 

今回書ききれていない項目もありますが、合計で170以上の評価項目をまとめると、「morinosのCASBEE SDGs評価(morinos建築秘話51)」で書いた通り、総合評価は5段階評価の4と、まずまずの結果です。

今回は、竣工後の後付けマッピングとして、評価を行ってきましたが、この取り組みは行った方が良かったかもといった新たな気付きがあったり、また、ここまでは今回の建築計画には必要ないとの再認識もあったりと、考えさせられる内容でした。
建築計画段階で、このSDGs評価を行うことで、設計チームの内部で新たな気付きが生まれ、計画にも反映されることが期待されます。より社会変革に向けた建築になる可能性を秘めています。

今回は4回にわたってmorinosの建築に関するSDGsを見てきましたが、morinosとしての活動はもっと広範にわたっています。SDGsを活用して評価すると、どんな評価になるのか。

morinosの活動については、こちらのホームページで詳しく紹介しています。

 

SDGsは扱う範囲が広すぎて敬遠されている方も、まずは自分たちに関連の深そうなGOALだけでもじっくり評価して、取り組んでみることをお勧めします。

きっと、みなさんの活動にこれまでと異なる視点を与えるきっかけが得られると思います。

准教授 辻充孝

今回のSDGsの評価に関しては、morinosのCASBEE評価がベースにありますので、以下の建築秘話も参照してください。
 
※建物の詳しい説明はmorinos建築秘話シリーズをご覧ください。
morinos建築秘話シリーズ