森林空間利用の新しいかたち~冒険の森inいとしろ
クリエーター科の「森林空間利用プログラムと事業化」という授業で、郡上市の石徹白を訪れました。人口270人の小さな集落ですが、近年は「小水力発電」の導入で全国的に有名になり、今では移住者数が32名にも上る活気あるムラに変わりつつあります。
そんな石徹白に2015年5月にオープンしたのが「冒険の森inいとしろ」です。森林空間を利用したフィールドアスレチック型の体験コースを設置して、多い日は200人を受け入れています。安全確保もきちんと配慮され子どもから大人まで楽します。約2時間の「アドベンチャーコース」に5人の学生が挑戦しましたが、慣れない姿勢や動きの連続で、森の中に絶叫と笑いがこだましました^ ^。
最初に、本事業を石徹白に導入された大原林産の小森胤樹社長にお話を伺いました。大阪で研究職をしていた小森社長は15年前に岐阜県に移住して林業会社に転職しました。森林経営計画を立て郡上市内の各地で素材生産をされていますが、間伐材を利用した「郡上割り箸」事業立ち上げや「自然エネルギー」の導入など「山に利益をもたらす総合コンサルティング」を目指して積極的に事業展開をされています。「冒険の森inいとしろ」もその一つ。
奈良県で「冒険の森」事業を展開する企業と提携して、石徹白集落の共有林をフィールドに、既に整備されていた林内の散策路やコテージを活かし、樹木を傷めないアクティビティ装置を設置して、わずか1年で開業にこぎつけました。セグウエィを使った森のハイキングコースもあります。これにより都会の家族・若者が気軽に森林空間の中で楽しみ、知らぬ間に森への愛着や知識を身に付けることが期待されます。
昨年からは移住者の若者を中心に「集落まるごとアウトドア」を合言葉に ITOSHIRO OUTDOOR FESTIVAL も始まり、山の集落の森林空間利用は一段と広がりを見せています。
午前中は、石徹白のもう一つのコアである「石徹白洋品店」の店主である平野馨生里さんを訪ねました。こちらでは伝統的な野良着である「たつけ」や「はかま」を現代的に復刻した衣類を製造販売しています。衣食住のうち自分で作ることから最も遠い存在が衣類です。平野さんは「土から生まれる服」をテーマに、衣料の原料となる繊維や染料の生産(原種に近い蚕の飼育、藍の栽培など)にも取り組んでいます。さらに工房を増設するに当たって、古民家の古材を再利用し、宮大工の若手棟梁に頼んで伝統的な工法で建ててしまいました。
衣食住の全般にわたって日本の伝統的な知恵に学びながら、現代人にも好まれるデザインを施し、製品を通じて社会へ発信を続ける平野さんの営みの底には、小森社長とも共通する〈森林や山村から新しい社会の姿を創り出す〉いう確固とした意思が感じられました。学生たちは身心ともに刺激を受けた一日だったことでしょう。ありがとうございました。
担当教員 嵯峨創平(揖斐川町駐在)