笠置山のフモトミズナラ・ミズナラ雑種集団に関する論文が出版されました
教員の玉木です。最近,私達が執筆した,笠置山のフモトミズナラ・ミズナラ雑種集団に関する論文が出版になりました。この研究の一部分は,2016年にエンジニア科を卒業した山田さんと一緒に行ったものです。当時はエンジニア科にも課題研究があり,その中で,山田さんと一緒に笠置山のフモトミズナラ・ミズナラの形態の変異を調べました。その後,DNA分析を行い,形態と遺伝の両方の調査結果をまとめることで,漸く学術論文にすることができました(学術論文というのは,ただ書いたら載るというものではありません。投稿すると2–4名程度の専門家による審査があり,その結果に基づく何回かの修正を経て受理されます。場合に依っては,却下となることも多々あります)。
Tamaki I, Yamada Y (2020) Environmental pressure rather than ongoing hybridization is responsible for an altitudinal cline in the morphologies of two oaks. Journal of Plant Ecology 13: 413–422
この研究で扱っているフモトミズナラというのはミズナラに似たコナラ属の樹木です。東海地方と北関東の一部の低標高のやせ地に分布しています。形態が大陸のモンゴリナラに似ているため,かつてはモンゴリナラと呼ばれていました。種の位置付けがまだはっきりとはしていないのですが,モンゴリナラやミズナラの近縁種であることは確かです。最近では,図鑑にも載るようになってきました。
岐阜県恵那市の笠置山には,標高600 m付近にフモトミズナラが生育しています。フモトミズナラにしては少し標高が高めの場所になります。面白いことにそこから山を上っていくと,少しずつ形態が変化し,そのうち1000 mくらいまで登るとミズナラになるのです。
本研究では,標高600 mから1000 mまで段階的にサンプリングを行い,葉の形態形質を測定することで,形態勾配があることを確認しました。また,可児市と高山市で純粋なフモトミズナラとミズナラの集団(参照集団)からの個体を採取し,形態を測定することで,笠置山の低標高と高標高の個体が,典型的なフモトミズナラとミズナラの形態を持っていることも確認しました。
ここまでの結果からすると,笠置山には,フモトミズナラとミズナラの集団が低標高と高標高の場所にあり,それらが中間地点で交雑帯を形成していることが予測されます。しかし,遺伝解析の結果は,それを支持するものではありませんでした。驚いたことに,笠置山は,低標高から高標高までひと繋がりの集団だったのです。上述の参照集団の遺伝的組成と比較してみると,笠置山の集団は2種の交雑由来の集団で,形成から少なくとも数世代が経過していそうであることが分かりました。
では,なぜ形態の標高勾配が存在するのでしょうか?その原因には環境による自然選択の影響が考えられます。今回のデータからは,まだどのような遺伝子に自然選択が働いているのかはわかりませんが,同じような例は同じ岐阜県の乙女渓谷のホンシャクナゲ × キョウマルシャクナゲの雑種集団(Tamaki et al. 2017)でも知られています。解明を進めたいものです。
Tamaki I, Yoichi W, Matsuki Y, Suyama Y, Mizuno M (2017) Inconsistency between morphological traits and ancestry of individuals in the hybrid zone between two Rhododendron japonoheptamerum varieties revealed by a genotyping-by-sequencing approach. Tree Genetics & Genomes 13: 4