快適よりも心地よさを実現しよう!(心地よいエコな暮らしコラム3)
快適よりも心地よさを実現する
人は常に発熱(恒温動物の特徴)しながら体温を一定に保とうとして様々な方法で熱をコントロールしています。この「体内発熱」と太陽や暖房設備からの「受熱」、低い外気温に向けての「放熱」の3つのバランスで、心地よい、暖かいなどの温冷感が決まります。
ニュースや書籍、ネットでも、よく快適な環境とか快適な暮らしというように「快適」という言葉をつけて説明しているのをよく目にします。
目指す温熱環境は「快適」な状態なのでしょうか。これが今回のテーマです。
「快適」という言葉を考えてみると、”快”という字が入っているように、暖かいとか涼しいといった”快感”を伴う気持ちいい状態のことだと考えています。
例えば、炎天下を歩いていて冷房の効いたショップに入った時に感じる涼しい快感状態が「快適」です。ですがそのまま冷房のしっかり効いた空間に長く居て、発熱が治まってくると寒くなってしまいます。
「心地よさ」はそこまでの快感を伴わないもう少しゆるい感じ。
なんとなく気分はいいけど、そこまでの快感はない状態だと考えています。
つまり、発熱(+受熱)と放熱のバランスが取れて、暖かさ、涼しさをほとんど感じず仕事や読書、対話に集中できる「ちょうどいい状態」を「心地よい」、ここから発熱・受熱が少し多いと“暖かい”という快感を得て「快適」となりますが、行き過ぎると“暑い”という「不快」につながります。
さらに不快を通り越して発熱・受熱が多すぎると熱中症などの健康を害する状態になってしまいます。これは絶対にあってはいけません。
温熱環境の究極の目指す姿は「何も感じない」状態と言われることがありますが、これは、発熱・放熱のバランスがピタリと取れた揺らぎのない状態です。
「心地よい」はこのバランスを取りながらゆらゆら揺れているイメージです。日々の時間のなかでなんとなくゴロゴロしたい気持ちい環境です。(下の図)
ランニングを例に、もう少し、発熱と放熱バランスを見てみます。
ランニングをしていると発熱量はおよそ1000Wくらい。ひと1人で、だいたい電気ストーブの強くらいの熱量です。
勉強中は、100Wくらいの発熱なので、10倍近い熱を生み出しています。
ということは同じだけ熱を捨てていかないと、体温が上がって倒れてしまいます。
そのため、いろいろな方法で熱を捨てています。
まずは冷たい外気に放熱します。
効果的に放熱できるようにランニング中は薄着です。
さらに、代謝による汗の蒸発も放熱要素です。
しかもこれらは走っているときの気流でより助長されます。
これらの放熱によって、発熱と放熱のバランスがとられ、走っている間は割と心地よい状態が維持されます。
ですが、ひとたび止まると、発熱量が一気に少なくなりますが放熱は多いままです。
「涼しい快適」を一気の通り越して「寒さ」を感じてしまいます。
そのため、マラソン選手は、走り終わった後体を冷やさないようにガウンなどを羽織りますよね。
また、料理に例えると、
「快適」は高級料理店で味わう食べたことがない美味しさや、こってりラーメンの強烈なうまみ。毎日味わうには贅沢すぎるし常に食べていると体を壊しかねません。
「心地よさ」は家で食べる毎日の美味しいごはん。強烈な美味しさではないですが、毎日食べても飽きません。
とすると、住まいでどちらを目指すかは明確です。
目指すべきは「快適な環境」ではなく「心地よい環境」です。
ですが、これは非常に難しい。
快適は少し効きすぎるくらいに温度を調整すると感じられますが、心地よさは、そこまでいかない微妙な揺らぎが必要。さらに人の生活行動や基礎代謝量、服装などによって感じ方はバラバラ。
つまり「心地よい環境」は、建築的な作りや空調設備だけで実現できるものではなく、住まい手自身の代謝や生活スタイル、生活行為によっても大きな影響を受けるのです。心地よい環境づくりは、住まい手をしっかり見つめることから始まります。
第1回のコラム「自分の暮らしぶりを見つめよう~環境家計簿~」でも住む人の暮らしを読み取るツール”環境家計簿”を紹介しました。
この塩梅を考えるのが温熱設計で、難しいながらもやりがいのある分野です。
今後のコラムでも住まい手の理解を深めるツールを紹介したいと思いますのでお楽しみに。
准教授 辻 充孝
※イラストをたっぷり使った
「無理をしないで心地よくエコに暮らす住まいのルール」を建築知識で連載中。
心地よさの話題は、2020年6月号(第1回)。こちらもぜひご覧ください。