木工事例調査③「STUDIO NAO」 中津川市連携事業
森林文化アカデミーの木工専攻では毎年、全国有数の木工産地の一つである岐阜県中津川市の工房を巡る「木工事例調査」を実施しています。準備と運営はアカデミーと中津川市の連携協定に基づき、中津川市林業振興課にご協力いただきました。
レポート第3弾は、50年ものキャリアを誇る木工作家の早川直彦さんです。
付知川の流れに沿って広がる田園と間近に迫る山並みの風景に、STUDIO NAO 早川直彦さんの工房が現れます。この地で11代目になるという早川さんご自宅(築150年!)、ギャラリー、工房が私たちを迎えてくれました。
ギャラリーで最初に目に飛び込む、大きなベンチ。これは「聖-hijiriⅢ」シリーズ、マンションのエントランススペースにも納入したモニュメント的作品。そして木が生きてきた姿をそのままに生かしたガラストップテーブル。スケールの大きな作品に圧倒されます。
早川さんは1954年生まれで、15歳から木工の道に入り50年。中学校の卒業式翌日から修行先の工房で勤めたそうです。今年65歳になられるのですが、とてもエネルギッシュに、そしてわかりやすく、たくさんのお話をしてくださいました。
■STUDIO NAOの仕事
早川さんのお仕事は非常に幅広く、
①木の力強さ、生命力をテーマにし、時には建築と一体となるようなスケールの大きなモニュメント的な家具
②生活の中で使われるテーブル椅子、照明といった実用家具
③新しいデザインや加工方法を取り入れた小物類
と多彩です。
モニュメント的な家具では、大きなスケールで木の生命力を表現することから、時には原木の調達から始まり、構想から納入まで2年以上をかける作品もあるそうです。表現としての達成感の一方で、納入までの道のりでは貴重な材を使うこと、そして原木の費用負担もする施主の期待への大きな責任が伴うことをお話しいただきました。
一方で工房としての売上を支えるのは実用家具。モニュメント作品のような創作活動を続けるベースとなる仕事です。業界全体としてはネットでの販売が多くなる中ですが、あえてホームページ等での販売促進は行わず、これまでご注文をいただいたお客様や協働した設計者からの紹介や依頼が中心とのこと。早川さんの人としてのお付き合いの広さが感じられました。
■付知の地で木工を続ける
早川さんの作品は広葉樹が使われることから、(中津川市)付知町のある東濃地区産出の主要な樹種であるスギ、ヒノキ材を使うことはありません。
しかし付知で活動を続けることについてそのメリット・デメリットを伺いました。
付知周辺は山からの伐り出しから製材、加工まで木に関わる関係者が集積する。
木製品に関する情報が集まり、また仕事の協力関係が日常的にあることで「新しい取組みができる場所」というのが魅力。
また広葉樹材が全国から集まる各務原、高山への利便性も良いことも重要。
そして何より、仕事からのリフレッシュには付知の自然環境が必要だとお話しいただきました。
一方、デメリットはお客様のいる都市部へのアクセス、建築の打合わせに時間のかかることもあるのが難点。コロナ禍でコミュニケーションの方法が変わって来ていますから、今後は状況が変わるかもしれませんね。
■これから木工の道に進む人へ
森林文化アカデミーで木工を学び始めた私達に早川さんからいただいたアドバイス。
1.目標を決めること。
2.誰もやっていないことにチャレンジすること。
早川さんご自身も100歳までにやりたいことの目標を立てていらっしゃるとこのこと。
「たとえ80歳で終わっちゃったとしても100歳までの目標がある80歳とそうでないのは大きく違うよね」
最近では「ボロボロになった木で何かできないかと考えている。木の存在感、自然体の素晴らしさを生活の場に持ち込むことをしてみたい」とまさにチャレンジ中!
さらに「50年間木工を続ける中で、修行時代に型を学び、次に新しいことに挑戦をしてきた。そして今、全く自分オリジナルにモニュメント的な木工の世界を作りたいと考えている」とのお話も。茶道、武道での修行の段階を「守破離」の言葉で表しますが、早川さんは「離」の領域にいらっしゃるのですね。
3.腕だけでは使われるだけ、腕と発想があって初めて自分のやりたいことができる。
4.業界グループを作ることは良いことだけではないと思う。やりたい事ができた時にチームを組めば良い。
基本的には1人で活動を続ける早川さん。50年のキャリアの中で確固たる「早川直彦ブランド」を築いてこられたご経験から、木工のみならず幅広く仕事への姿勢についての示唆に富んだアドバイスをいただきました。
■訪問を終えて
50年のキャリアをもつ木工作家と聞くと頑固で気難しいおじいさんを想像しますが、早川さんはその正反対。オープンマインドでチャレンジ精神に溢れたとても魅力的な方でした。今回の訪問は、木を深く理解し愛情をもって作品にしていく早川さんのスタンス、そして木工作家として活動を続ける上での「考え方」「心構え」を教えていただくとても濃密な時間となりました。
お忙しい中、個別の質問にも丁寧にお答えいただくなどお時間をいただき、大変にありがとうございました。
文責:渡邉 聡夫(クリエーター科木工専攻1年)