「土の洞窟」と針葉樹を燃やせる薪ストーブ(morinos建築秘話18)
morinosには「土の洞窟」という、ちょっと奥まったスペースがあります。かっこいい薪ストーブがあって、なかなかいい雰囲気でしょう。
薪ストーブは国産「AGNI-CC」。岐阜県岐阜市で開発・製造されているものです。開発元は450年以上の歴史ある鋳物メーカー。日本で売られている薪ストーブは95%以上が外国製なのですが、「AGNI」は日本の森林事情に合わせ、針葉樹の間伐材を燃やしても問題ないように設計された、メイドイン岐阜の逸品です。
「針葉樹を燃やせる薪ストーブ」と聞くと「え?スギもヒノキも針葉樹だけど、普通は使えないわけ?」と思いますよね。多くのストーブは「針葉樹は使用しないでください」とされています。
理由は、針葉樹は広葉樹と比べて高温燃焼になるので
1、早く燃え尽きてしまう。
2、高温すぎて本体や煙突を痛めてしまう。
という2点の問題があり、敬遠されてしまうのです。
「AGNI-CC」はこの問題を克服しました。
1、早く燃え尽きてしまう。
→ ハイブリッド燃焼方式で二次燃焼を行い、針葉樹でも長時間燃焼できるようにする。
2、高温すぎて本体や煙突を痛めてしまう。
→ 鋳物で厚くつくることで熱で割れない強度を確保する。
アカデミーの演習林からはスギやヒノキが、じゃんじゃん降ろされます。また、森林利活用のための学校なので間伐材利用も大きなテーマのひとつです。「AGNI-CC」、アカデミーのmorinosにぴったりですよね。しかも二次燃焼のさせるときに煙が浄化される仕組みなので、大気汚染にもしっかり配慮。
……と良いところずくめですが、建築的に気をつけなくてはいけないのは「火事」です。火源があるわけですから、壁や天井を燃えにくくしなくてはいけません。建築基準法でもストーブの周りは内装制限がかかります。火は天井を伝って広がっていきますから、ストーブの直上は燃えにくいものにする必要があります。
ここでも設計時に苦心がありました。morinosは一体空間なので、一室とみなして全部の天井を不燃材料にすることになってしまい、それだと天井を木にできないし、直上だけ不燃材にして区画するためには「50センチ以上の垂れ壁」が必要です。「morinosの勾配天井に垂れ壁か……圧迫感が出るし、天井に要素が増えるとうっとおしいから、嫌だなあ……」と悩みます。
ですが辻先生の考案で、北側に土壁で覆われた洞窟のようなスペースを設けることにしました。これなら不燃認定を受けた土壁で実現できます。しかも天井区画のための「垂れ壁」が効果的に視線を遮って、落ち着く空間になります。よかった。
さて、法律の内装制限とは別に、ストーブ周りに壁が近いときは「遮熱板」が必要です。普通は、金属や石を立てて壁との間に隙間を開けるのですが、小さな土の洞窟の中に、広葉樹のベンチとストーブとエッチングガラス、さらに別の金属や石が見えると、お互いの良さを潰しあってしまいます。
ですので「土壁のそのものに遮熱性能を持たせるように設計しよう。」ということでメモしたのがこちら。
要するに躯体に熱を伝えないように、仕上げと下地を不燃材で作って、空気の通り道を作ればいいのです。
で、できたのがこちらの壁。
上下のスリットが壁を浮かせて軽く見せる効果も狙い、うまくいきました。
「土の洞窟」は壁も天井も床も、土を使って左官で仕上げています。ベンチがあり、座ると「垂れ壁」で少し視線が遮られることで、こもるように気持ちの落ち着く場所です。
ベンチは「名栗仕上げのカバノキ」。この空間には包容力が欲しいので、厚みを持たせてどっしりとした印象にしています。足元は薪置き場にする時に脚が邪魔にならないように、また、重々しくなり過ぎて主張しないように、鉄で持ち出して脚のないデザインにしました。
床は設計では石だったのですが、隈研吾氏と涌井学長が現場に来られた際「ここは同じように土でやっては?」とアドバイスされ、急遽基礎をかさ上げしてもらい同じ色の土間になりました。確かに、床も土の方がいいですね。
くつろぐ場所は、要素があまり複雑にならない方が、心地よく過ごせます。
実は、スクリーン掛けの鉄棒を巻き取る金物や、換気計画の給気口、コンセントなども、目立たず邪魔にならない位置をよく検討して設置してあります。morinosにお越しの際は、探してみてください。なるほどと思う位置にありますから。
以下、morinosマニアック----------------
…………ストーブの上の変な形のファン、これはなんでしょう?
これ「エコファン」といって、ストーブの上に置いておくと発電してファンが回り出すのです。
「エコファン」がなぜ発電できるのか。それは「ゼーベック効果」といって、温度差を与えることで電位差(起電力)を生じさせて、コンセントも電池もなく自ら発電してファンが回るのです。 躯体の下部と上部が分かれており、下部は熱され、上部は冷えていると、その温度差が大きければ大きいほどファンの回転スピードが上がります。85〜345℃が作動温度ですが、上部がそれなりに冷えていないと温度差が生まれないので、真ん中に置くと全体が熱くなってしまい無回転になります。ですので端っこに置いておきます。
冬のmorinosでこれが高速回転していたら、天板が熱い証拠です。触らないように気をつけてね。