セルロースファイバー 断熱材の選択(morinos建築秘話20)
今回は、morinosで使用した断熱素材のはなし。
断熱材は、名前の通りに熱を断つわけではなく、移動をゆっくりさせるもの。いわば保温材です。
この断熱材は竣工後のmorinosからは全く見えませんが、壁や屋根、床の中にあって冬の寒い外気や、夏の猛暑から室内空間を守ってくれます。
断熱材にもいろいろあり、最もよく使用されているのが、費用対効果の優れるグラスウールです。それ以外にもロックウール、現場発泡系ウレタンフォーム、押出法ポリスチレンフォーム(XPS)、ビーズ法ポリスチレンフォーム (EPS)、硬質ウレタンフォーム、フェノールフォーム、セルロースファイバー、羊毛断熱材など断熱材には色んな種類があります。
それぞれの断熱材にメリット・デメリットがありますが、morinosで使用している断熱材は2種類。一番メインとなる壁と屋根には「セルロースファイバー」、基礎コンクリートには「フェノールフォーム」です。
なぜmorinosではその2つの断熱材を選択したかを紹介します。
メインで使用した「セルロースファイバー」は、天然繊維(パルプ)で作られた断熱材です。新聞紙をリサイクルして作っています。
新聞紙自体も、新聞紙のリサイクルが多くエコな素材ですが、そのカスケード利用の最終段階がセルロースファイバー断熱材というわけです。
morinosで使用したセルロースは岐阜市の三輪工場で製造し、そのまま現場に搬入(輸送エネの削減)しています。
選択理由はいろいろあります(下のmorinosマニアックを参照)が、なんといっても製造・廃棄過程で負荷の少ない自然素材系の中でも古くから使用され品質と施工に安定感のあることです。
断熱性能以外にも、吸放湿性、防音性、防火性、防虫効果といろいろな付加要素があるのも大きいです。コストパフォーマンスはグラスウールに劣りますがそれ以上の価値があります。
注意点としては、施工には計画性が大切ということです。
セルロースファイバーは専門職の方が不織布で目張りし、専用の機械で吹き込んでパンパンに施工します。あとからやり直しがききません。
掃除機を反転したような専用の機械で、セルロースをどんどん屋根の中に押し込んでいきます。
事前に配線を終え、天井や壁内の仕事が無いことを確認して、一気に施工する必要があります。
上の写真は屋根面に吹き込み終わって下地材の石こうボードを張りかけている写真ですが、断熱材の中から配線が出ているのが見えると思います。
今回もきっちり大工さん、電気屋さんなど複数の職人さんを現場監督さんが仕切って段取りをして、断熱職人さんが現場に入りました。
専門職が丁寧に施工しますので、複雑な部分にも対応できます。
例えば、エッチングガラスのデコボコ穴や、筋交い廻り、斜めに伸びる方づえ周辺など、ボード状やマット状の断熱材だときちんと入れるのは至難の業です。
ここでも吹込みというスタイルのセルロースが活躍しました。
床下にあたる基礎コンクリートにもセルロースファイバーを使用したいところですが、コンクリートは施工後数年は水分の塊。湿気を吸放出する性質を持つセルロースは使用できません。
そこで選択したのは「フェノールフォーム」です。フェノールフォームとは熱硬化性樹脂の一種であるフェノール樹脂を硬化、発泡させて板状にした断熱材です。
1番の特徴は、一般流通している断熱材の中でも最高性能の断熱性能(同じ厚みでグラスウールやセルロースの倍程度の断熱性能)です。
が、これは今回は重要ではありません。(今回の床下は空間にゆとりがあるので、分厚く入れれればどんな断熱材でも性能が出ます。)
選択理由の第1は樹脂系のため水や湿気に強いことです。コンクリートに密着するため重要な性能です。これがセルロースとは異なる大きなポイントです。
同じ樹脂系でも一般的なXPSやEPSはさらに水に強いですが、これらは熱可塑性樹脂のため火災時に燃焼し有毒ガスであるシアン化水素を発生することが大きな弱点です。
その点フェノールフォームは、熱硬化性樹脂という性質上、万が一の火災時にも表面が炭化し燃焼しにくく、有毒ガスや一酸化炭素の発生も他の樹脂系よりもかなり少ないです。しかも今回は床下になるので、火災の熱が行きにくい場所なので、安心して下さい。
morinosマニアック----------------------
セルロースファイバー断熱材のメリットを具体的にあげてみると、
・充填断熱(柱や梁などの構造躯体の間に入れる断熱方法)でも、筋交いや多少の歪んだ空間でもきちんと施工できる(マット状、ボード状のものでは施工が難しい)
・断熱材の中でも蓄熱性が高く、特に夏期天井が暑くなりにくい(夏期日中と夜の温度差は40℃近いですがその影響を受けにくい)
・リユース(一部バージンセルロースを混ぜるので正確にはリサイクルですが)回収システムがある
・製造負荷(製造エネルギーやCO2排出)が一般的な断熱材であるグラスウールや発砲系断熱材に比べて数十~数百分の一程度と非常に少ない
・JIS規格があり製品としてきちんと評価できる仕組みがある(自然素材系断熱材でJIS規格があるのは少ない)
・カーボンフットプリントなどの認証も取得している製品もある
・調湿性能(蓄湿性能)があり、夏型内部結露に対して非常に有効
・ホウ酸(安全性が高く、性能が持続)で処理しているため躯体内の防虫効果が高い
・ホウ酸処理によって、防火性能が高く、表面炭化により燃焼時も有毒ガスを出さない(発泡系は70~130℃で融解、GWは燃えないまでも350℃前後で溶ける)
・密度が高く隙間ができにくいため、外部の騒音(特に空気伝播音)が入りにくい
いかがでしょう。morinosの建物に最適な断熱材と思いませんか。
ただ当然ながら、デメリットもあります。
・コストがグラスウールと比べると同じ性能を出すには高価
⇒断熱仕様は優先順位を高めて、全体のコストコントロールで何とか納めました。
・施工には専門の職人さんと専用の吹込み機械が必要(後で少し足すことが難しい)
⇒工程管理を定例会議を確認しつつ、現場監督さんが頑張ってくれました。
・密度高く吹き込むため、パンパンに膨らみボードなどを張りにくい
⇒今回は真壁部分も胴縁を入れることで膨らみを気にしない納まりにしています。
・密度がゆるいと長期的に沈下して隙間ができる
⇒施工監理でしっかり密度を見ることで沈下を防止しています。屋根は2重断熱で補完。
准教授 辻充孝