丸ノコ名栗と圧縮杉の取っ手(morinos建築秘話16)
morinosの南入り口の建具。いい感じで外部につながっているでしょう。
見ていただきたいのは、ペアガラスがはめ込まれた木製建具です。
実はmorinosには1つも既製品のアルミサッシや樹脂サッシは使っていません。全て建具屋さんにスギ材で1本ずつ製作していただきました。
今回の話題は、建具の中でも、その取っ手。
下の写真の取っ手をよく見ると、子供でも大人でも、しっかりと持てるように長い木の棒になってます。
近寄ってみると、ベンチと同じカバノキの取っ手。(下の写真)
表面に、「丸ノコ名栗」が施されています。いい感じでしょう。
常に目に触れ、手で触る部分ですので、手触りと見た目を重視して、またまた大工さんに丸ノコで加工していただきました。
ベンチの共木(ともぎ)で作っていますので、対面するベンチとの相性もいいです。(共木とは1本の同じ木から採った材料のこと。)
黒く塗られたスチールの取っ手も、見た目は木との相性抜群ですが、冬はやっぱり冷たい。触りたくなくなります。
ここは日常的に手で触れる部分ですので、木にこだわりました。
続いては、収納部分の取っ手です。
下の写真は、収納部分を遠景に見たところ。全体が木の箱のようにスッキリ納まっています。左右が建具やガラスのため、より箱のように見えます。
建具は両開きで上下で分割され4枚でできていますが、ここでも床と同じように(morinos建築秘話8を参照)木目はつながっています。今度は建具屋さんにお願いして作っていただきました。
この建具の取っ手はというと。下の写真のように、建具を掘り込んで、別パーツの取っ手を取り付けています。
実はこの材(少し濃いめの材)は、外部デッキに用いた圧縮杉です。
取っ手の穴の部分がぎゅーと圧縮されて指を入れる隙間ができたようにデザインしています。
取っ手部分は、常に触れる部分ですので、少し固めの圧縮杉が適切で、遠目に見ると、同じ素材のため、目立ちすぎずにいい感じに納まっています。
以下、morinosマニアック----------------
今回紹介した建具の取っ手は断面の大きさを決めるのに、いくつかの原寸大模型を使って確認しています。
大人の男性と子どもでは、手に取る高さや手のひらの大きさがかなり違います。取っ手をどの高さまで下げてくるか、大きさはどの程度が適切か、実際に握って感触を確かめながら決定していきます。
さて、もう一つの収納の掘り込み取っ手はというと、トラブルと試行錯誤の連続でした。
当初計画では、左のスケッチのように、建具の合わせ目の表面を掘り込んだ細長い取っ手の予定。morinosの直線的なデザインに合わせてすっきり納めたものでした。
ですが、現場に行くと、「・・・・・・」
左のような丸い穴が開いていて、建具屋さんから「プッシュつまみ(押したらツマミが出てくるもの)をつけようと思うんですが。。。」(ちょっとショック(´;ω;`))
工事の最終局面、ほんとに多くの職人さんたちが、慌しく動いているなかで、意思疎通がうまくいってませんでした。
建具屋さんもシンプルにつくろうとした意識は伝わってきます。
建具自体は、木目も通って丁寧につくられています。
さすがに、作り直しはもったいない。
ですが、ここで既製品のピカピカの取っ手はあり得ない。
しかも、相談されたのはちょうど課題研究公表会の昼休み。学生集大成の発表会で私たち教員も緊張感たっぷり。
ですが、現場は待ってくれません。
現状の建具を活かしつつ、その場で方向性を決める必要があり、松井先生と、いろいろなアイデアを出し合いながら、morinosの直線的なデザインも入れつつ、こっちの方が良かったねといえるものにしようと、試行錯誤を繰り返します。
「四角く穴を開け直しそうか」
「いやいや、幅3cmの穴は大きすぎて不格好だよ」
「カバノキの広葉樹でアクセント的に出っ張らす?」
「摘まみにくいかな?」
「じゃあ折衷案で、掘り込みも活かしながら広葉樹のアクセントで取っ手を作っともらおうか」と、、、
その場で課題研究公表会要旨集の表紙にスケッチをして、カバノキを左のように加工して修正お願いしますと、現場に渡して昼休み終了。
ですが次の休憩時間に、カバノキの端材も建具の取っ手に使い切ってすでになく、どうしようと考えていたときに、スギの圧縮材で作った方が一体感があるよねということで、今回の最終形になってます。
このブログの上に貼った収納建具の取っ手をみて、いかがでしょう。
圧縮された杉が一体感を持ってmorinosらしい建具になったと思いませんか。
准教授 辻充孝