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2020年03月12日(木)

第18期生の卒業式を開催しました

3月9日(月)は森林文化アカデミーの卒業式。

森と木のクリエーター科19名、森と木のエンジニア科18名、合計37名のみなさんが2年間の学びを終え、無事卒業式を迎えました。

(今回は、新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、来賓の方々の出席をご遠慮いただき、規模縮小、時間短縮して開催しました)

この2年間、楽しいこと、つらかったこと、いろいろなことを経験されたことでしょう。

その思い出を映像で紹介しながら、ひとりひとり名前が読み上げられました。

映像を見ながら、時々笑い声が起こりましたが、充実した学生生活を送った証でしょう。

そして、各科の代表者に学長から卒業証書が手渡されました。

また、学内外で優秀な活躍をされた学生には表彰状が授与。

学長からは、アカデミーを卒後しこれから社会で活躍する学生に、厳しくも暖かい励ましの言葉が送られました。(最後に学長の式辞全文を掲載しています)

そして、卒業生の答辞では、これまでの学生生活が思い出されたのか、感極まって涙ぐむ場面も。

最後は、みんな笑顔で記念撮影です。

クリエーター科のみなさん

エンジニア科のみなさん

卒業生のみなさん、卒業おめでとうございます。

卒業してからも、時々アカデミーを訪れてください。

ドイツからアカデミーに来ている留学生もお祝いに駆けつけてくれました。

事務局 舟橋

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岐阜県立森林文化アカデミー令和元年度卒業式式辞

 本日ここに令和元年度岐阜県立森林文化アカデミーの卒業式挙行に当たり、卒業生諸君への祝意を申し述べます。

なお本来は、本学をご支援いただいているご来賓の方々をお迎えするところではありますが、コロナウイルスの感染拡大を防止する観点から、非常に残念ではありますが、今回ご参列頂けないこととなりました。

本日、本アカデミーは、平成13年に岐阜県立林業短期大学校を改組し、岐阜県立森林文化アカデミーとして開校して以来、数えて第18期目にあたる学生の「森と木のクリエーター科」19名、「森と木のエンジニア科」18名、計37名を卒業生として社会に送り出させて頂くこととなりましたことをご報告申し上げます。

さて卒業生諸君。

毎年申し上げているように、諸君の2年間は、学びの喜び、そして学び以外の場における多くの人々との出会い等、楽しい時間を過ごしてきたこととは思いますが、その一方でさぞかし他人には語れぬ悩みと独り向き合わざるを得なかったことも多くあったことと推察します。中でも、社会人を経験した上で、本学に就学された学生諸君は、ご家族との関係、そして経済的課題など様々な葛藤を乗り越えた2年間であったことでしょう。

そうした本学就学への志を持てばこその悩みを克服し、本日を迎えられたことに対し、学長として心からの敬意を表したいと思います。諸君の志とは、一般的な社会の潮流にいたずらに身を任すのではなく、森と木を愛するが故、学びたいという自己実現に決然と向き合った姿でしょう。そうした志を共にした仲間と共に、自分で身を立てる上で必須の専門的知見を本学で学んだ2年間は、諸君の未来に必ずや大きな宝をもたらすものと信じてやみません。

今や世界には、300年前の産業革命以来の「トランスフォーマティブチェンジ:社会益大変容」が起きようとしています。日本政府はそうした世界の胎動に対し、society5.0、つまり情報革命を超えた技術革新によって、持続的未来をより確実なものとするためにSDGsをその手立てと位置付けています。

しかし考えてみてください。情報革命の必然であるデジタル情報とは、簡便に伝える手立てとしては極めて有効でありながらも、2進法の宿命が働き、かなりの情報が捨てられてしまいます。こうしたシステムの特性が、アナログな生命体である人間に、例えば心療内科的不適合を起こすことは良く知られています。

振り子は大きく片方に振られれば振られるほど、大きく反対方向に戻るものです。それと同様、デジタルな社会、つまり仮想的社会が進行すればするほど、逆にスーパーリアリズムつまりアナログな方向に戻ることが予見されます。あのデジタル経済の牽引車であるGAFAと呼ばれるグーグル、アマゾンなどの企業群の本社を見ればそのことがよくわかります。すべてのGAFA系の企業が、まるで森のような執務環境を当然のように整備しているからです。つまり数量化とは真反対の生命体のみが持ち得る「感性」を触発できる環境があってこそ、人間の心は安定し、創造的発想が浮かび、心も体も健康を維持できるのです。結果そうしたことがデジタル系企業の生産性を獲得できることが分かればこそ、あえて就業環境をアナログな自然に近い状況として整備しているのです。

まさにそうした時代がやってきます。しかもデジタル系の技術に強い人材の教育機会も相対的に増加する結果、そうした方面の人材は多く輩出しながらも、人間生活の基盤である自然についての科学や技術を身に着けた人材は極めて限られた存在でしかありません。

こうした状況の中で、諸君の学びの社会的活用価値が生まれます。自然、衣食住の全てに亘る生態系がもたらすサービスなくして我々はひと時も生活できません。それでいながら、そうしたサービスつまり自然の恩恵を科学し、技術として自然に取り組み、各々の場や素材の特性が投影した現場に合わせた技能を獲得した人財は少ない状況にあります。

結果として諸君らは競争価値という価値が顕在化する状況下で世に出られるのです。しかも地球規模から自分の故郷に至るまでの持続的未来のためにも価値がある学びであったことを、改めて肝に銘じて欲しいと思います。

そうした社会情勢の変化を前に、幸い国土交通省や環境省において、2020年度を初年度とした「社会資本整備重点計画」や「地域循環共生圏」の政策体系が取りまとめられ、とりわけ自然を社会資本と並ぶ自然資本と位置付ける考え方「グリーン・インフラ」の概念を導入する方向が打ち出されました。

森林の現実を見てください。先の大戦の後、荒れた国土に対し、天皇陛下を先頭に国民一体となった植林運動が、今日の森林ストックに至る成果を得たのです。CO2の削減や生物多様性の維持再生等森林は極めて重要な役割を担う時代になろうとしています。しかしながら時代のいたずらもあって、健康な森林としてストックされているのかと、或いは経済を成り立たせる存在となっているのかといえば、残念ながら必ずしもそうした状況にはありません。

木材生産という基本的な機能に加えて、この時代、一層求められる環境保全機能と、水源涵養や土砂崩壊防備などの国土保全機能など多種多様の公益性を森林は担っています。にもかかわらず不健康な森林が全国を覆っているという状況です。

諸君は各々の進路と立場からそうした森林の現状に果敢に立ち向かい、林業生産現場から木材利用そして森林や担い手の大本である山村社会に至る多様な現場で一隅を照らす努力に勤しんでいただきたいと切望します。

人間の欲望、つまり豊かさを追い求める社会はもう限界が来ているのです。地球が抱えられる環境容量は限界に達しています。この事実は最近の様々な気候変動とそれによる災害の多発などで多くの人々が被害を受けたり、或いは実感として受け止められていると思います。

既に地球には70億人からやがて90億人に達しようとしている人口が、更なる豊かさを求めるだけの容量を持ち合わせてはいないのです。故に森林を含めて、自然と共生しつつ、豊かさを深めることにより幸福を得る方向に大きくパラダイムをシフトせざるを得ません。自然の恵みに感謝し、その自然が自律的に回復する能力を損なわない範囲で自然の恵みを頂くと言う方向に立ち戻ることが求められています。

岐阜県は82%という我国で二番目の森林率を誇り、多くの山村地域を抱える自治体です。こうした県土の特性を背景に、先に述べた豊かさを深めるのにふさわしい社会を実現する一助として、本学の「現地現物主義」の教育理念に基いた、林業・木材利活用・山村社会づくり等の学びの成果は、必ずや就職・就業を通じて地域社会に貢献する事になるでしょう。

森林施業の王道に「法正林」というモデルがあります。この思想は持続的未来を前提にした自然が持つ本質である復元力を我々が手を入れることにより担保されます。それによって、元本に手をつけずに利息の範囲で暮らせるという思想・哲学をどうか諸君の手で高く掲げ、現実化して頂きたいと思います。

今後も、本学で培った多くの仲間と連携しつつ、学びの成果を各々の立ち位置から実践して頂ければ、必ずや自己実現に近づき、且つそれが大きな社会的貢献となる事でしょう。その価値が自身を超え、ある種の社会的共通価値を生み出すということは大いに誇れることであります。本学は今日以降も諸君の永遠のパートナーであります。どうか、諸君が現実の壁に懊悩した折には、僅かな時間でも本学に立ち寄ってください。諸君を振るい立たせる妙薬となることでしょう。

さて、県民と県行政のご理解を得て、本学を取り巻く情勢が一層前向きな方向に大きく変わろうとしています。「森林技術開発・普及コンソーシアム」は順調に上流から下流までをカバーした全国唯一の森林産業群の共同体として成長し、多くの成果をあげつつあります。これからも本学は産業界と手を携え、より一層実学への方向を確立しようと考えています。

またドイツ・バーデン=ビュルテンベルク州のロッテンブルグ林業大学との次の5年の連携もさらに深められる協定がなされ、そして本学から発信した森林教育の体系「岐阜木育30年ビジョン」に基づく都市版の「木育」拠点として、県立の「木遊館」が岐阜市内で4月に開館し、併せて本学構内にドイツと連携した日本版ハウスデスバルデス、つまり森林総合教育センタ―「もりのす」が5月に開設されます。

これらの成果は偏に、卒業生諸君と同様の志を共有し、陰ながら諸君を支えてくれた在校同窓生、そして本学のOB/OGの諸君、そして本校を常にお見守りいただいている先生方や自治体、企業の皆様、地元近隣の方々のご支援の賜物であることを忘れないでください。

改めて卒業生諸君の新たな門出に重ねて祝意を申し上げます。おめでとう。

令和2年3月9日  学長 涌井 史郎