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2020年03月09日(月)

気密測定&ラコリーナin近江八幡

木造建築専攻では、実務を実践的に経験する機会があります。そして、辻先生の下で最先端の環境性能設計を学ぶことができます。今回は、実物件で行った気密測定についてのレポートです。

 

N邸の気密測定

「気密性能」は、辻先生の環境性能設計の授業で学んだ4つの温熱性能(※)の内の1つです。

昨年12月に上棟式に参加させていただいたN邸が完成間近となり、気密測定を実施しました。完成後ではなく完成直前に測定する理由は、気密性能を確認すると同時に、気密がとれていない部分を発見し手直しを行うためです。より性能の高い住宅を施工するために必要な作業です。

※4つの温熱性能:(1)断熱性能、(2)日射制御性能(日射遮蔽と日射取得)、(3)気密性能、(4)防露性能

・気密性の指標

気密性はC値で表します。C値(相当すき間面積)とは、床面積1㎡当たりの外皮(外部に面する壁、床、天井や屋根)のすき間の総面積(c㎡)を指します。つまり、C値が小さいほど高気密ということになります(一般的には、C値2.0未満で気密住宅、1.0未満で高気密住宅というくらいが目安です)。

なぜ気密性が必要なのでしょうか。気密性能が低いと、すきま風が至るところから入ってきて、計画通りの換気経路が形成されず十分な換気ができないこと、断熱性を高めても目指す室温や体感温度が達成できないこと、などの問題が生じるためです。

・測定方法

測定機器はファンと測定機本体で構成されています。1ヵ所の開口部にファンを設置し、プラスチック段ボールで周りのすき間をふさぎ目張りをし、その他の開口部はすべて閉めます。ファンで排気して室内を減圧し、排気量と室内外の圧力差からすき間面積を割り出します。

・測定結果
N邸の測定結果(1回目)は、C値=0.6c㎡/㎡。とてもよい数値が出ました。
(床面積S=227.49㎡、総隙間面積αA=14.4c㎡)

更に性能をアップするために、室内を減圧している状態ですき間をチェック。特に壁と床、天井と壁などの取り合いや、照明などの配線の取り出し、コンセントなどを確認。手で風を感じたり、ティッシュ片をかざして揺れるようなら、すき間があり漏気が発生しているので手直しを依頼します。
測定2回目(すき間チェック、修正後)の、総すき間面積は、14.4c㎡/㎡ => 13.5c㎡/㎡に減少しましたが、そもそも値がかなりよい数値なのでC値は変わりませんでした。

・気密工事のポイント

ボードタイプの外張り断熱材のつなぎ目を気密テープ処理、その上から張った透湿防水紙のつなぎ目にも気密テープを張ることで、施工誤差や劣化による性能の低下対策をします(2重気密)。サッシや管周りには、気密性を確保しつつ雨漏りを防ぐ部材が使用されています(写真はフクビの「ウェザータイト」)。
ちなみに、気密テープは2タイプあり、ブチル系は曲面やサッシ周り、アクリル系は面材に適しており、適宜、使い分けます。
また、防水紙にも2タイプあり、1つは薄いフィルムに補強材を裏打ちしたもの、もう1つは不織布の単一素材。前者はフィルムが紫外線により劣化しやすく、後者は劣化しにくい。つまり、多少高価でも後者を使用すべきであり、国内唯一の単一不織布タイプである「タイベック」一択となります。

高い気密性能を確認し気をよくして、以前から気になっていた「ラ コリーナ近江八幡」へ。

ラ コリーナ近江八幡

近江八幡の老舗和菓子「たねや」グループの本社およびショップの複合施設。
設計は藤森照信氏。建築史の研究者でもあり、自然素材を用いて有機的なデザインが作風の建築家です。ラコリーナもひと言で表現すると、とても「有機的」。ジブリやムーミン谷の世界観を連想させます。
・配置

広大な敷地の中心に水田が作られ、それを囲むように分棟形式でメインショップ「草屋根」、本社屋「銅屋根」、カステラショップ「栗百年」が配置され、それらを「草回廊」がつないでいます。来場者は「草屋根」から入り、敷地を一周して再び「草屋根」へ戻ってくる回遊動線となっています。

・メインショップ「草屋根」
駐車場から生け垣のアーチをくぐると、笹畑の中の道が「草屋根」に向かって延びるアプローチ。

長い回廊の軒先には基本的に樋はなく、人が通る部分にのみ銅製の樋が取り付けられています。軒先高は2,000mm(一部1,200mm位)と低めです。

雨の日はベンチに座って、軒先からの雨垂れを眺めるのも風情がありそうです。素材は粗いテクスチャーの土壁や節あり丸太の列柱などで構成され、素朴な印象の空間です。

内部空間で最初に目を引くのは、炭の欠片がちりばめられた天井。ワークショップでスタッフさんも参加して施工したとのこと。藤森氏のコンセプトはわかりませんが、個人的には星空の反転(白と黒が逆)という印象を受けました。

主要構造は鉄骨造やRC造ですが、仕上げは、屋根が草と木、外壁は土壁。内装は壁と天井が漆喰、床は大理石。全体的にアイボリーの色調で統一された空間に、天井の炭や階段手すりなどの鋳鉄の黒がアクセントとなっています。

照明は土壁を生かした淡い光の間接照明です。いわゆる新建材といわれる素材がほとんど見当たらず(機能優先のバックヤードには使われているとは思いますが)、温もりある空間を創出しています。

・「草回廊」

「草屋根」同様に丸太柱。素朴に仕上げられた製材の梁の連続が、奥行き演出しています。

回廊の脇には、フードコートやギフトショップがあり軽食やお土産も購入でき、飽きさせない工夫があります。回廊の終点には小さな扉があり、中へ入ると小さな部屋で、もう1つの小扉があります。

扉をくぐって外へ出ると正面にあらわれる不思議な形状の土塔にも、更に小さな扉。子どものみならず、大人も楽しくなる遊び心ある仕掛けです。

・「栗百年」

主要構造は鉄骨造。軒の深い回廊は木造であり小屋組をあらわしとし、隅の柱は栗の変木を大胆に使用、その他の柱は丸太柱を傾けた列柱です。

軒先高さ1,500mmですが、身長が159cmの私にとって低さは気にならず、ヒューマンスケールな安心感があります。

内部のカフェは、曲がりをそのままに釿(ちょうな)で粗く仕上げたような栗の柱が林立した空間。

・本社屋「銅屋根」

波板のような銅で屋根と壁を連続的に葺いた展望塔が異彩を放っています。オフィスだけでなく、最上階にはミュージアムがあるようです(今回は入りませんでした)。

・メンテナンスと管理、運営

自然素材を多用し曲線で構成された建築の場合、まずメンテナンスが気になるところです。ましてや草屋根は雨漏りのリスクがかなりあります。しかし、今回は問題のありそうな目立った不具合は見受けられませんでした。日常的にきちんとメンテナンスがなされているという印象があります。

・変化と発見

2月の平日のわりには、近隣の観光地よりも集客数できていると思われます(ゴールデンウィークなどは、かなりの人が訪れるようです)。これほどまでに人々を引きつける魅力はどこにあるのでしょうか。他の一般的な建築とどこが違うのでしょうか。その理由として「自然」というテーマがあると思います。季節ごとの変化に加え、樹木は生長もしていきます。敷地中央の田んぼに水が張られ、稲の生長で季節の移ろいを感じられる。田んぼの作業を皆で行うことで、場に愛着がわく。お菓子企業の施設として、商品と原料である米を結びつけたというのも、とてもよいアイディアだと思います。

また、建築物がすべて完成してからオープンしたのではなく、今なお敷地内増築しているようでもあります。建物のデザインもオリジナリティがあり、規格された材料を用いず、現場で職人さんや一般の人たちの手で作り上げたことが、伝わってきます。

来場者にとっては、訪れる度に新たな発見があり、季節ごとの体験を通じて、再び訪れたくなる仕掛けが複数ちりばめられているのではないでしょうか。

今回は冬の曇天日で、風景としてはベストの条件ではありませんでしたが(写真が暗めになってしまいました)、十分に興味深く楽しい体験ができました。水田に水が張られ景色が映り込んでいる様子を見に、また、草屋根の緑が鮮やかな季節に再び訪れてみたいと思います。

木造建築専攻 松岡 利香