学生募集というより、未来のスタッフを募集します
木工専攻教員の久津輪です。
いま私は、木工の「新しいビジネスの種」をたくさん作っています。その種を育て、仕事にしてくれるスタッフを、木工専攻の学生から生み出したい。そんな思いで学生募集をしています。
私が目指している木工の仕事は、一言でいえば「製造業ではない木工」なのです。家具や生活雑貨を製造する仕事は、いまやグローバル企業がロボットも使いながら行い、世界へ流通させる時代になりました。でも、そんな時代でも木工の需要はあり続けています。たとえば、木工を趣味として楽しみたい。木を削ることで心を癒やしたい。体が不自由になったので家具を使いやすく作り変えたい。子供にナイフを使わせ自然をリアルに学ばせたい。それらの仕事は、教育であったり福祉であったりして、製造業とは呼べないと思うのです。
私が取り組む大きな柱は「グリーンウッドワーク」です。生の木を、斧やナイフなどの手道具で削って暮らしの道具を作る木工。これは趣味として楽しむこともでき、実用的な物が作れて、自然体験のきっかけにもなります。心の癒やしや体のリハビリのツールとしても有効だと考えています。
2006年から森林文化アカデミーで普及を始めて、いま、全国的に知られるようになってきました。楽しむ人が増えれば新たな仕事が生まれます。これからどんな仕事を生み出したいか、具体的に紹介します。
■講師
グリーンウッドワークの講師は、岐阜でも全国でも求められています。写真は11月にクラフトショップで行なったスプーンクラブ in 東京。参加者から大変好評で、オーナーの方はぜひ定番化させたいとおっしゃっていました。このような都会のクラフトショップやギャラリー、観光スポット、キャンプ場など、さまざまな場所でグリーンウッドワークの体験講座が始まっています。実際に森林文化アカデミーにも各地から求人が来ているほどです。
■道具開発
グリーンウッドワークを楽しむには道具が必要ですが、日本の木工道具の多くは大工用や精密加工用で、趣味で生木を削る道具はまだ多くありません。下の写真はスプーンなどの小物制作に使いやすい斧を、森林文化アカデミーとグリーンウッドワーク研究所で共同開発したもの。作ってもすぐ売り切れてしまうほどの人気です。日本には優れた鍛冶屋さんがいますので、木工技術を身に着けた人が鍛冶屋さんと共同で新しい道具を開発し、販売することが求められます。海外には、グリーンウッドワークの作り手から鍛冶屋や道具販売に転じた人もいます。日本の木工道具は海外で高く評価されていますので、良いものを作ればマーケットは世界に広がります。ストレートナイフ、フックナイフ、銑(ドローナイフ)は、日本製のグリーンウッドワーク用刃物をぜひ生み出したいと思っています。
■材料供給
都会でグリーンウッドワークを楽しみたい人は、道具はインターネットや店で購入できても、生木がなかなか手に入りません。海外では、生木をインターネットで販売するビジネスが既に始まっていて、日本でも森林文化アカデミー卒業生が取り組み始めています。グリーンウッドワーク人口が広がってくれば、スタッフが更に必要になります。森林文化アカデミーは、科学的データを提供するなど卒業生グループに共同研究の形で協力しています。
■出版
2019年8月に私が出版した、日本で初めてのグリーンウッドワークの本です。斧やナイフなどの道具の使い方、刃の研ぎ方、スプーンや小皿などの小物の作り方、などを紹介しています。海外ではここ数年、グリーンウッドワーク関係の書籍がぐっと増えてきました。日本でも、これからいろいろなスタイルの作品づくりの本が出てくると思います。私自身も、椅子づくりなど次々に本を出したいと思っています。このように、木工技術を体系化して文章にまとめる、写真で構成するのが好きな人・得意な人が、これから求められると思います。ちなみに私は20代にNHKディレクターを経験したことで、構成力、文章力が鍛えられました(いまマスコミにお勤めの方、辞めてこちらにきませんか?)。
■翻訳
これはアメリカ人木工家を森林文化アカデミーに招いて5日間のグリーンウッドワーク講座を行い、それをDVD化したものです。英語の得意な人は、このような分野で活躍できるチャンスがあります。海外には優れた木工の本やDVD、動画がたくさんあるので、もっと日本語化して日本に紹介できればと思います。木工技術を翻訳するには、翻訳者自身が木工に親しみ、専門用語を知っておく必要があります。
■英語での木工講師(日本で、海外で)
この1〜2年、日本の木工を学びたいという海外からの依頼が非常に増えているのを実感しています。家具や雑貨の製造が機械化・グローバル化する中で、土地に根ざした手仕事が再評価され、優れた手仕事で世界的に知られる日本に注目が集まっているのです。ノミやカンナなどの手道具の使い方、お盆などの日本の工芸品の作り方、漆塗りの技法、こうした技術を日本に来る外国人向けに、あるいは海外の工芸学校で、教えられる人が求められています。英語を話す人自身が技術も教えるのではなく、プロの木工家と組んで通訳として仕事をすることも可能です。写真は、生木を彫って作る「我谷盆(わがたぼん)」の第一人者・森口信一さんがアメリカの工芸学校で講座を開いた際、私が通訳として参加した時のもの。私自身は30代で飛騨の学校で木工を学んだ後、たまたま紹介されたイギリスの工房で5年働いたことが幸いして、木工の英語力が身につきました。この分野の仕事をしたい人がいたら、アカデミーから海外の工房で修行ができるよう私がつなぎますので、ぜひ志望してほしいです。
■福祉・医療分野への展開
先日、ある海外ドキュメンタリー番組を見ていたら、自閉症の子どもが足踏みろくろで椅子の脚を削っているシーンが出てきました。私自身も以前イギリスで、発達障害を持つ子どもたちにグリーンウッドワークを取り入れている施設を訪問したことがあります。またイギリスでは、スプーン削りがメンタルヘルスにも良い効果があるとして、もっと社会に普及させようという取り組みも始まっています。福祉や医療の分野で、グリーンウッドワークや木工の技術は新しい役割を見つけられると信じています。
■グリーンウッドワークを仕事にできるか
私はグリーンウッドワークを収入の柱の1つにすることは可能だと信じています。上記のことをすべて1人でやるわけではなく、森林文化アカデミーの卒業生や仲間たちと一緒に実践していけば、可能性は広がっていきます。ありがたいことに日本の木工文化は世界的にも高く注目されているので、良い商品(講座プログラム、道具、書籍・・・)を生み出せば、世界がマーケットになります。また、福祉・医療分野など、思いもしなかった分野が新たなマーケットになり得ます。
ではグリーンウッドワークを仕事にするには、グリーンウッドワークだけを学べばよいかというと、そうではありません。森林や木材の性質などについての知識が必要ですし、講座の道具類を作るには木工機械の使用法、新しいプログラムを開発するには家具製作技術などを知っておくと役に立ちます。森林文化アカデミーでの2年間の学びは、グリーンウッドワークのような木工を仕事にする上で最良のものになるはずです。
私はこれからも小さな「新しいビジネスの種」を生み出し続けようと考えているので、大きく育ててくれる人にぜひ学生として入ってきてほしいです。
久津輪 雅(木工・准教授)