木工事例調査「ニセン工芸」中津川市連携事業
中津川市連携で行われた「木工事例調査」その見学レポート⑦を学生から報告いたします。
木工事例調査2日目最後の見学先は、中津川市の『㈲ニセン工芸』です。
ニセン工芸は、桶・樽を受注生産で製造し、問屋卸をしている会社です。「桶と言ってもピンキリで、小さなものから1メートルもあるものまで、いろいろ作っています」とのお言葉どおり、工場内には、そこかしこに様々なサイズや形の桶製品やその過程のパーツが積み上げられていました。
ご案内していただいた、代表取締役の宮下武雄さんです。「ここにあるのは、全部自分たちで考案した、手づくりの機械です」「道具をまず作らないと、量産できないからね」と仰る宮下さん。桶の制作工程と、それぞれの工程に欠かすことの出来ない、世界でここにしかない機械たちの解説をしてくださいました。
こちらは、桶の側板になる『コマ』を切り出しているところ。1個1個、角度と勾配をつけてカットしていくそうです。「自動的に全て切ることが出来る大きな機械も(他所には)あるけれど、木によって硬い、柔らかいがある。そういう木の性質にスピード等を合わせて、1枚1枚を人が切るとやはり、1番いいものができます」
『コマ』にボンドをつけたものを仮のタガに添わせて桶の形に組み、乾燥させます。
桶の外、内側それぞれ専用の機械で、なめらかに整えています。
タガを締めて、桶の完成です。
銅タガについても、平の銅を仕入れてこちらの工場内で、さまざまなサイズの桶にあわせたタガに溶接して仕上げているとのこと。さまざまな幅のテープ状の銅板を必要な長さにカットし、銀蝋で溶接してタガにしているそうです。
私達が事例調査で木工所を見学させていただく際は、授業で操作したことがある機械を見ると安心し、まだ知らない機械があると「何に使うものだろう」と興味津々になる、という傾向があるのですが、いずれにせよ、”世の中にはこういう機械が売られている。もし自分がその機能が必要になったら、この機械を入手して使うのがよい”と頭のなかにメモしているような気持ちがありました。ところが、こちらのニセン工芸においては、全ての機械が、桶制作のためのオリジナル。治具のみならず、木工機械自体も必要に応じて試行錯誤し、開発してしまう軽やかさに、目から鱗が落ちる思いでした。
また、宮下さんが開発された桶づくりのための機械たちには、「たち」と若干擬人化して呼ぶのが相応しく思えるような、個性と存在感を感じました。それは、『コマ』作りの機械の解説にもあったように、機械を使う人がまるで木と対話するように、ひとつひとつの素材の状態を見て加減しながら操作することができる機械を、まさに「手づくり」で作り上げていらっしゃるからではないかと思いました。
宮下さんは道具のみならず、桶製品自体についても「開発するのが好き」「新しいもの、新しいものと挑戦していくんです」と仰います。その原動力は、我々アカデミー生にとっても深く共感する思いでした。
「なぜかっていうとね。使ってやらなきゃいけない資源がいっぱいあるでしょう」「昭和初めに植林したヒノキの間伐材は、今使ってやらないと」「森を次世代に残していけるよう、一人の力だけじゃできないから。皆さんの新しい力で、守っていってもらいたいんです」
桶という伝統的な製品においても新しい取組へのチャレンジを続ける宮下さんの取組みと、森を守るためにこそ新しい挑戦をし続けるという志に、アカデミー木工専攻一同、学びかつ受け継ぐことができるよう、それぞれの道で励んで参りたいと思います。宮下さんはじめ、お受入れいただいたニセン工芸の皆さま、本当にありがとうございました。
文責:森と木のクリエーター科木工専攻2年
庄司晴美