昆虫・魚類同定実習 2018|魚類編
昨日「昆虫・魚類同定実習」の魚類編を昆虫編に続けて実施しましたので、報告します。
魚類はアカデミーで学んでいる森林とは直接的な関係はないように思われるかもしれませんが、身近な魚はいわゆる里山環境に多く棲息しています。林に隣接する谷津田、水路、ため池、あるいは平野部の用排水路などそれぞれの環境に多様な魚類、さらにはカエルやイモリなどの両生類、水生昆虫、甲殻類なども棲んでいます。両生類や水生昆虫の一部は、生活史を通して見ると水辺だけでなく周辺の森林なども棲息環境としています。つまり里山環境の生物たちをきちんと把握することは、多様な環境要素で構成される地域の生物多様性をどう保全するか、どのように自然と関わっていくかを考える第一歩となるのです。また山−川−海の連関を考える上でも水の生き物に関する知識は重要となってきます。
フィールドに出る前に、魚類についての概論、生息環境、魚類などの採取に関連する法律(文化財保護法、種の保存法、外来生物法など)について講義をしました。概論では例年通り魚の絵を描いてもらいましたが、なかなかこれだという魚を描ける人はいません。ヒレの数、位置、形などがどこかおかしい…。魚は食べものとして身近な存在ですが、その実体をきちんと把握していないことが描くことで実感できたようです。それらの絵を元に、同定のポイントとなる魚の形態について説明しました。
その後、近くの水路に移動して、中に入ってたも網で魚を採取しました。ある程度採れたところで、皆で観察、同定。
オタマジャクシのように見えますが、ナマズです。「お〜たまじゃくしはカエルの子〜、ナマズの孫ではないわいな〜」という童謡があったように思いますが、確かに似ています。ですがやはりナマズ、よく見ると頭にヒゲがあります。ヒゲの数を数えると6本でした。そのうち2本は成長過程でなくなり、成魚(今回も目撃しましたが、捕獲できず。残念!)では4本になってしまいます。ナマズは本来氾濫原の浅い水辺で繁殖していたようですが、人間が氾濫原を開拓し田んぼなどに利用し始めると、川から水路を通って田んぼに入り込み、そこを繁殖場所としていました。かつては多くの田んぼでこのようなナマズの赤ちゃんが見られたようです。しかし今ではそのような田んぼはほとんどありません。田んぼと水路の構造が改変されて落差が大きくなり、水路から田んぼへの侵入が不可能になってしまったからです。他の氾濫原の魚たちも同様の状況で、かつてより減少しているものが多いと考えられます。今回のナマズはどうやら田んぼではなく水路の中で繁殖したもののようです。
ナマズは貪欲になんでも食べますが、観察中にも他の小魚やエビを飲み込む様子が観察できました。果ては同じナマズの小さい個体まで…。観察が終われば早々に水路に帰しました。
他にもヌマムツ、カワムツ、アブラボテ、ヤリタナゴ、カネヒラなどの魚を採取、同定しました。このうちカネヒラは元々は岐阜にはいなかった国内外来種です。他の水産魚種に混入して放流されたか、釣り人、愛好家による放流により入ってきたことが考えられます。どのように侵入したのかは想像にすぎませんが、他の種と競合する可能性もあり、良い状況ではありません。また国外外来種のアメリカザリガニも採れました。他の甲殻類では、ミナミヌマエビと思われるものが多く取れました。在来種のミナミヌマエビそのものかもしれませんが、釣り餌や観賞用として中国などから輸入されている近縁種が定着した可能性もあります。
その後、少し移動して素堀りの水路を見学しました。昔ながらの田んぼと水路の高低差がない環境で、ニゴイ、フナ類、ヌマムツの幼魚などを観察することができました。
さらに移動して、私や一部の学生も関わっている無農薬耕作の田んぼに行きました。そこではコオイムシやコガムシ、ヒメガムシなどの水生昆虫、ヌマガエル、ナゴヤダルマガエルなどを観察することができました。
今回の実習を通して、魚などの水生生物の同定能力だけでなく、普段気にも留めていなかった身近な生き物について知るきっかけができ、自然をみる視点を増やしてもらえたのではないかと思います。樹木の同定もそうですが、分からない種を自ら図鑑で調べると格段に同定能力が上がり、それに伴って足元にある自然が生き生きとして見えるようになります。野生の王国は遠い国のサバンナやジャングルだけにあるのではありません。もっと身近なところにも多くの野生生物がすみ、我々と共に暮らしています。身近な自然を見つめる眼差しをもつこと。それは将来自然と密接な生業に関わっていくであろうアカデミー生にとって、必要な能力であり、きっとそれが活かされる場面があると思っています。(教員 津田格)