教員お気に入りのアイテム1:「しなる竹尺」松井匠
毎年恒例になりつつある森林文化アカデミー教員リレーエッセイ。今日からはじまるシリーズ第3弾は「教員お気に入りのアイテム」!
林業・森林環境教育・木工・建築は、常に傍に「現場」があります。その現場で、いつも手放すことのできない便利な道具、自分が世話になった思い出の道具、誰かから受け継いだ大切な道具、専門分野への想いの詰まったマニアックな道具……など、個性豊かなアカデミー教員たちが、自分のfavorite itemをエッセイにして紹介します。教員の人柄や人生観が見えるかも?
教員お気に入りのアイテム1:「しなる竹尺」
アイテムのデータ
素材:竹
販売元:不明(100円ショップの竹尺を加工)
紹介している教員:松井匠
僕が12年前に設計事務所に入社した際、最初に「作れ」と言われたのがコチラ。「しなる竹尺」です。
建築関係者といえば「三角スケール」をパタンパタンと転がして縮尺に合わせて測るのが一般的な所作に思えますが、ぼくの入った設計事務所では三角スケールの他に、この「しなる竹尺」も必須品とされていました。(正式名称が存在していたら教えてください……)
「3D CADの時代に、ずいぶんアナログな道具を持たせるなあ。懐古主義的だな?」などと、ぼくの悪い癖でひねくれた感想を抱いていたのですが、使ってみるとなるほど、意味を理解しました。便利、且つ、自分の感覚を効率よく鍛えるための、実に合理的なアイテムだったのです。
まず、この竹尺、よく見ると端から端でぴったり30センチにしています。わざとそのように加工しているわけです。買ったままの竹尺は両端5ミリずつくらい余分があるのですが、そこを切っています。だから「30」の数字が「3」になっていますね。目盛りの真ん中に2桁の数字を揃えているのでこうなります。
これを使っていると「30センチ(300ミリ)」の”スケール感”が身につきます。自分の竹尺を思い出すと、その長さが正確な300ミリというわけです。
建築では300ミリという長さは多用されます。これは日本の「尺貫法」による「一尺=約303ミリ」が基本スケールだからです。ボードや中部地方の畳の規格寸法は「3尺(909)×6尺(1818)」となっており、俗に「サブロク」などと呼ばれます。
さらに、手描きで図面を引くときにこの竹尺一本で測って引くと、もっと”スケール感”が身につきます。1:50の図面を引くときに三角スケールを使えば1:50の列の目盛りを読むだけで測ることができますが、竹尺は「実際は1800ミリだから……50で割って36ミリか……」という変換が必要です。面倒ですが、慣れれば一瞬できるようになります。これを繰り返すと「いつも現実の原寸に変換して考える」癖がつくわけです。
こう書くと「スケール感というのが身につきそうなのはわかったけど、それがなんの意味があるの?」と思うかもしれませんが、何もないところに何かをつくろうというのがクリエーターであり、建築の仕事なので、空間のサイズを正確にイメージできる能力は、とっても大事なのです。
こうして、本棚や古民家の仕口穴に竹尺を差すと、奥行きを測れます。300ミリまでですが、メジャーより楽ですね。
薄いので「しなり」があり、紙にペタッと吸い付きます。使ってみるとこれが大変便利。
つくり方は簡単です。
1、数字の目盛りのついた「竹尺」を買ってくる
2、縦半分に割る
3、小刀やカッターナイフで、裏から削って薄くしていく
4、裏面に紙ヤスリをかけてすべすべにする
5、両端0と30センチの目盛りのところでカットする
はい完成。竹尺は両側に目盛りがあるので、これで二本できます。
裏面。紙ヤスリで研磨するほか、セロテープを貼って滑りをよくするなど、人それぞれのカスタマイズが可能です。15センチタイプのものを筆箱に入れている方もいました。ぼくは0ミリ側を少し角を落として、裏からでも、触っても0ミリ側がわかるようにしています。
注意点としては、薄い方が「しなり」やすいものになりますが、あまり薄く攻めすぎると、使っているときに割れます。
このように、「しなる竹尺」は非常にアナログな道具なのですが、同時に自分の感覚を研いでくれる、頼もしいアイテムです。ぼくのは12年使っていますが、まだあと100年は使えそうです。
今の建築実務はCAD全盛で、手描きは建築士試験でやるだけという人も多いと思います。ぼくもCAD世代で、CADが好きでいつも便利に使っています。精度の高い図面が手早く引けるし、データの共有も楽です。インターネットの普及で遠隔地からでも仕事ができるのは素晴らしいですね。
ですが、手描きと比べた時のCADの弱点として「拡大縮小しながら描くので、スケール感覚が身に付きにくい」ということが挙げられます。ですので、おさまりや簡単なスケッチはできるだけ手描きにして、スケール感覚と絵の技術を養い、理想的には手描きとCADを両方できる設計士を目指すのが良いのだと思います。現場では手描きのスケッチで大工さんと打ち合わせしますし、建主さんも手描きスケッチの方が喜ばれます。
あなたもつくって見ませんか?「しなる竹尺」。
松井 匠 | |
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「現代木組の家づくり」 「古民家の再生」 「美術の基礎」 |
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研究テーマ | 空き家利活用プロジェクト 建築とものづくりの美術教育 |