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2018年07月17日(火)

木工事例調査 in 中津川 ⑤然

伊勢神宮式年遷宮のためのご神木を切り出していることでも知られる岐阜県中津川市付知。今回、この自然豊かな地域で木製オーダー家具を製作している工房「然(ぜん)」を訪ねました。

内木勇代表

「然」ではキッチンやテーブルなどのオーダー家具、“asahineko”や“コダマプロジェクト”というデザイナーと組んだ家具作りをされています。現在の「然」の代表である内木勇さんは、先代にあたるお父さんの時代では、今回も訪問させていただいた「ヒノキヤ産業」の下請け業務をされていたようですが、自社製品も開発して売り出していかなければと、この取り組みを始めました。

家具デザイナーの小泉誠さんや村澤一晃さんとの“asahineko”というブランドは、木曽五木である、アスナロ・サワラ・ヒノキ・ネズコ、コウヤマキの頭文字から成り、付知地域に育つこれらの木が使われています。“asahineko”の家具や小物たちは、それぞれの樹種を織り交ぜた針葉樹らしい暖かみのあるフォルムが魅力的です。

小泉誠さんとの出会いが自社製品“asahineko”を作っていくきっかけで、最初はあの小泉さんと認識しないまま話していたそうです。その後も1年ほどは特に何かをするでもなく、小泉さんと色々な事を話しながら、お互いのことを知っていき良好な関係を築いていったといいます。

デザイナーと組むとやりづらいことは無いかと質問を投げかけましたが、内木さんは全くそんなことは無いとおっしゃいました。小泉さんや村澤さんはこれまで多くの木工品の仕事をされてきており、木のことは熟知している。だから無茶なデザインはしないし、作り手のこともよく考えてくれるのだそうです。

 

「木工品は作り手とデザイナーがハートで作り上げるもので、私たちの技術で作ったものを表に出してくれるのが、デザイナーなんです」

 

シンプルながらもスタイリッシュで、モダンなデザインの“asahineko”は、作り手とデザイナーの信頼関係が生み出したブランドだということが、この内木さんの言葉から伝わってきます。

また、中津川市付知町という山あいの地域で、地域の木を使うことにこだわっている「然」は“コダマプロジェクト”にも参加しています。このプロジェクトは、川上の山から川下の街までが繋がったモノ作りをして、使い手さんに地域の山との繋がりを感じてもらい、針葉樹の良さを伝えながら山の現状も知ってもらおうという思いから、名古屋の家具店 「みずのかぐ」が企画されたものです。「然」ではこのプロジェクトの一つ“コダマデスク”で、村澤一晃さんとスギのデスクの製作を担当されています。名古屋の家具店と繋がることで、街の人たちにも「然」の製品を知ってもらえて手ごたえは感じているようですが、まだまだこれからといったところのようです。しかしプロジェクトの一環で建築との仕事も増えたということで、オーダー家具という大きな仕事もあり会社としていい結果にもつながっているということでした。

続いて、“asahineko”について、また「然」の主力商品となっている東濃ヒノキのお風呂椅子とその技法について、「然」の加藤剛広さんから更に詳しくお話を伺いました。

ネズコとヒノキの踏み台

「うづくり」が施された表面

東濃ヒノキのお風呂椅子

“asahineko”の商品の中のいくつかを見せていただくと、使う用途に合わせて木曽五木の中から適切な木を選び製作されていることが分かります。ネズコとヒノキの2種類で作られた踏み台は、ネズコの柔らかさとヒノキの丈夫さによって感触が良く、強度のある物を作り出します。さらに、踏板の年輪の柔らかい部分を削り硬い部分を残すことによって滑り止めの機能を持たせる「うづくり」という技法が用いられており、自然が作り出すものの性質を活かした製作をされていることが分かりました。

また、東濃ヒノキのお風呂椅子は、そこで使われているヒノキを曲げる技法を実際に見て、体験もさせていただきました。ここでは、ヒノキの材に何本かの溝を入れてそこにボンドを塗り、木を曲げる技法を使っており、曲げる時の力加減と感覚を頼りに製作することを学生も体感しました。

曲げを実演する加藤剛広さん

曲げを体験させてもらう学生

これらの商品、技術を紹介してくださった加藤さんのお話を伺っていると、“asahineko”を伝えたいという強い熱意が伝わってきます。前職は商社の営業をされていたという加藤さんが「然」に入ることを決意したのは、“asahineko”を見たことがきっかけなのだそうです。

「木は返事をしてくれる。」

仕事における人間同士の本音での対話の難しさに対し、木はきちんと向き合えるとお話される加藤さん。木材に現れる割れや反りであっても、それも自然の性質として愛着をもって製作に取り組まれる「然」の方々は、日々、木に対しても生き物として人間と同じように真剣に対話をしながら向き合われているのだと感じられました。

 

最後に「然」の細川将志さんから木製のキッチンについて詳しくお話をしていただきました。ちょうど私たちが見学に訪れた時に、工房内でキッチンを製作されており、キッチンの本体にあたる部分(天板や扉板などを除く、シンクやコンロの下の収納スペース)は合板で、引き出しのレールなどの金物は海外製のデザイン性の良いものが使われ、扉板は天然木曽檜の板目の一枚板でこだわりを感じました。そこで私は合板を使っていることが気になり「なぜ合板なのか」と尋ねたところ、「合板も必要に応じて使わなければならない」とおっしゃられました。

細川将志さん

木曽ヒノキの前板

木工製品を作っている小さな会社や工房では無垢材が好まれ多く使われます。それは無加工の木の良さを売りにしていると言えるでしょう。しかし、木材を適材適所に使用すること、触れたり、見えたりする部分には無垢の良さを生かし、見えない部分は、コスト削減やねじれや歪み対策として合板を用いたりすることが必要になります。扉板に使われる天然の木曽檜は年輪の細かい非常にきれいな木目で、このキッチンの完成を想像するとワクワクするような、そんな気持ちになりました。

わたしは「然」を訪れて「木で物事をデザインし生活を創り出している」ということを感じました。与えられた仕事をこなすだけでは未来を創っていくことはできないのでしょう。自身の生活をデザインすること、それに伴った家具のデザインというものが「然」にはあったように思います。だからこそ加藤さんや細川さんが生き生きとした様子で働かれていたのが印象に強く残っています。

 

最後になりましたが、有限会社 「然」の内木勇さん・加藤剛広さん・細川将志さん、非常に大きな学びになるお話をしていただいてありがとうございました。また、大所帯にも拘わらず快く対応していただきありがとうございました。

森と木のクリエーター科 木工専攻一同
文責:寺島壮一(1年)、丹羽茄野子(1年)、山路陽平(2年)