木工事例調査 in 中津川 ①岐恵木工・吉田
6月27〜28日の2日間にわたり、森林文化アカデミー・木工専攻の学生16人、教員2人、非常勤講師1人の計19人が、岐阜県中津川市内の木工所5ヶ所と木曽ヒノキ備林を見学する「木工事例調査」を実施しました。今回の調査は、木材関連産業の人材育成や確保を課題とする中津川市と、学生の就職支援に力を入れている森林文化アカデミーが、それぞれメリットのある取り組みとして連携したものです。中津川市役所・林業振興課の方に事前に入念にご準備いただきました。木工産地・中津川の奥深さ、幅広さを体感してきました。数回にわたり、学生によるレポートをお届けします。
6月28日、中津川市付知町の木工事例調査で訪問させて頂いたのは、『岐恵木工・吉田』さんです。朝8時からという早い時間にもかかわらず、代表の吉田清さんに工房での商品製造過程の見学案内と商品についてのご説明をして頂きました。
『岐恵木工・吉田』さんの見学で私たち学生が最も興味を持ったのは、『岐恵木工・吉田』さん独自の技術である、スギの接合板で作られたキッチンや食事周りのアイテム(お弁当箱など)や、「WOOD TEXTILE」として販売されているアクセント内装材です。スギの赤と白を組み合わせることで生まれた幾何学的模様はとても美しく、しかも表面は光沢を放っていて、改めてスギという素材の美しさを感じさせられました。しかし、すべてのスギがこのように美しいわけではなく、この地域で育てられる長良スギの質の良さと、その中から吉田さんが選びぬいたスギを用いることから生まれるのです。
スギの木を一般的に使われるような板とせずに、このような斬新なデザインの商品に変えていく加工技術や商品開発の経緯などに私たちの興味は集まるのですが、お話しを伺う中で、代表の吉田さんのものづくりに対する哲学的な考えを知ることになり、大変感銘を受けました。
感銘を受けた点の一つは、この製品の原材料となる木へのこだわりです。
私たち学生がこれから目指そうとしている木工や木造建築など、木を使ったものづくりをする業界では、商品の原材料として仕入れるのは、丸太から製材、あるいは乾燥まで行った、すぐに使える状態の木材であるケースが多いのですが、吉田さんはこの中津川市付知地域で切り出されたばかりの丸太の状態の長良スギを、長年の経験で培われた目で選び、仕入れます。
そして製材は地域の製材所にお願いするのですが、その作業にも吉田さんがつきっきりで行うのです。また、白太の白を美しく保つため、色がくすんでしまう人工乾燥はせず、3~4ヶ月の天然乾燥を行っているそうです。
なぜ、材料に対してここまでこだわり、手をかけるのか。
写真でご覧頂いても分かるとおり、吉田さんの製品はスギの赤色(木の「赤身」と呼ばれる心材)の部分と白色(木の「白太」と呼ばれる辺材)の部分が規則的に織りなす美しい模様に一番の特徴があります。
人工の幾何学的模様にも見えますが、この幾何学的模様を作り出しているのは、自然が生み出したスギという木材の天然の色です。自然の造形物なので、当然一本一本の木に違いがあります。仕入れた丸太から木の節の部分が混ざってしまうこともあり得ます。節の部分が混ざったり、色の規則性が崩れてしまったりすると、吉田さんの製品は美しい物としてできあがりません。そのため、丸太の仕入れから製材、乾燥までこだわり、材の管理をしっかりとされているのです。
また、一本の丸太の木口を視るだけで、どう模様として構成できる素材に作り上げていくかという目利きの力とデザインセンスが無いと、美しい幾何学的模様はできないのです。
この模様のデザインをどうやって考えるのかということについて吉田さんにお話しを伺うと、「一本一本の木の表情の違いをどう模様にするかということは、長く木を扱ってきたから判断できるのだ。身体で覚えるものだ」というお答えが返ってきました。
斬新で現代的なデザインでありながら、それを生み出す技術は、頭で考えたものというよりも、長年の身体でおぼえられた経験と勘によるところが大きいという点が、大変驚きであり、感銘を受けたところです。
もう一点感銘を受けたのは、代表の吉田さんの、ものづくりの仕事への姿勢です。
この接合板の技術と商品は、スギの木の中でも価値が低いとされる辺材(「白太」)の活用検討の中から考案され、さらに外部のデザイナーさんにも協力をもらって現在の商品になっています。
商品として売り出す平成25年まで、さまざまな方とのやりとりがあったものと思われますが、吉田さんに開発の経緯について伺うと、「一生懸命提案してくれた人があったからこそであって、そうした一生懸命な提案をしてもらうと、私の意見を言うことはあるけれども、提案してくれた人を人として否定するようなことはしない。私は、人と人との付き合いがあって、今の仕事をしている」というお話しが返ってきました。
そして、商品を市場に出すときも、「子どもを嫁に出すようだ」という言葉に象徴されるように、一つ一つのものに対して真摯に向き合い、丁寧にものづくりをされている姿勢が、非常に印象的でした。
また、地域では獣害の問題が大きくなり、動物が連れてくるヒルがいるために川にも入れなくなっているそうです。そのような山のために自分が出来ることをしたいという思いもあり、この接合板によって地域材に付加価値をつけようとされています。手間もかかり、大変なことも多い接合板によるものづくりですが、地域の山や木材への思いがあるからこそ、スギが持つ魅力を引き出し、質の高い商品作りが続けられるのだろうと思います。
この工房見学とお話を伺う中で、美しいデザインを作り出す高い技術やセンスに感銘を受けたのはもちろんですが、吉田さんの木やものづくりの仕事に向き合うときの心構えについては、私たち学生が卒業後にものづくりや、あるいは地域でいろいろな方と関わって仕事をしていくにあたっての非常に重要な教訓になったと感じています。
大変ご多忙な中、作業の手を止めて、早朝から多くの学生を迎え入れて説明や質疑応答に応じて頂いた代表の吉田清さん、本当にありがとうございました。
森と木のクリエーター科 木工専攻一同
文責:山路今日子(2年) 輪竹剛(1年)