1 自然科学の知識
自然と付き合うために必要な自然科学の知識・技術
アカデミーはすぐ近くに演習林があり、また周辺にはかつて里山であった広葉樹やアカマツの林、田んぼ、水路、さらには長良川など様々な自然環境が存在しています。林業は森林という自然と直接向き合う産業であり、森林環境や樹木に関する基本的な知識、森林の調査技術は身につけておかなくてはなりません。森林資源を利用するための知識や技術も大事になります。さらに森林はその周辺の自然環境と様々な形でつながっています。そのため森林だけでなくその周辺の自然環境について知り、そこから様々な情報を読み取る力をつけておくことも大切です。ここでは森林や樹木、周辺の自然環境について学ぶ実習の様子をいくつかご紹介します。
樹木同定実習
森林のことを知るには、まずは樹木の見分けがつかないといけません。特に林業の現場では植栽木とそれ以外の木を判別できないと仕事になりません。スギやヒノキなど針葉樹の造林地では植栽木の区別は比較的容易ですが、広葉樹の造林地ではそうはいきません。また、かつてなんらかの形で使われていた樹種が再び利用され始める場面があるかもしれませんし、役に立たないと思われてきた樹種でも思わぬ利用価値が出てくる可能性もあります。このように様々な状況において対応するために、山で樹木を見分ける(同定する)技術は重要になってきます。また木材を扱う際にも木材のことだけを知っていれば良いのではなく、生きている時にどのような樹木だったのか、どこに生えていたのか、知っているに越したことはありません。このようなことからアカデミーではクリエーター科の全学生を対象に樹木の同定実習を行っており、アカデミー周辺の身近な樹木70種について、その見分け方、分類、用途などについて学んでいます。さらに林業専攻の学生は、四季を通じた同定技術や異なる植生帯の樹木についても学び、幅広く森林の樹木に関する知識を身につけていきます。
生態学の基礎
すべての生物は生物的・非生物的環境の影響を受けたり、逆に影響を及ぼしたりして生活しています。生態学は生物が自然の中でどのように暮らしているのかを明らかにする学問です。この授業では、樹木や昆虫、哺乳動物などを例に挙げて、個体数の増加や種間関係、分布様式、進化などに関する生態学の基礎理論について学びます。生態学の基礎理論を理解すると、自然を理解しやすくなります。ぜひ、見える世界が変わるのを実感してみてください。
樹木の形態と生理
樹木の形態には、そのたどってきた歴史(系統)と機能が反映されています。例えば、針葉樹の多くは針や鱗状の葉を持っています。また、一個体の中でも日の当たりやすい所の葉(陽葉)は重なり合いを避け強い光の下で効率よく光合成するために小さく分厚い形態を、日の当たりにくい所の葉(陰葉)は木漏れ日を拾うために大きく薄い形態をしています。樹木の形態や生理、それらの関連性について学ぶことで、樹種や個体間にある違いを意味あるものとして捉えることができるようになります。
森林調査法
森林管理、計画において、対象となる樹木の位置やサイズといった情報を正確に把握することは重要です。正確なデータを得ることで初めて、根拠に基づく森林管理、計画が可能となります。この授業では森林調査の基本的な技術、道具の使い方、データの解析について学びます。森林の構造、植生についても調査で得られたデータを通して学びます。
森林病虫害
森林や林木に被害を与える病害、虫害について学びます。病虫害の発生要因、主要な樹木の病虫害、病原体の生態などをきちんと把握しておくことは、病虫害が発生した際にどのように対処したら良いのか考える際に有効です。スギ、ヒノキの病虫害のみならず、里山で問題になっている松枯れやナラ枯れについても、現場で観察、調査をしながら理解していきます。
特用林産物実習、有用植物実習
森林から得られる資源は木材だけではありません。特用林産物と言われるきのこ類や、山菜、薬用植物なども立派な林産物です。アカデミーでは周辺の豊かな自然環境を生かして、それらについて実地で学ぶ実習を行っています。きのこ類についてはマイタケなど木材腐朽性きのこの栽培技術や野生きのこの同定技術について学びます。特に野生きのこについては、自分自身で採取、同定をすることで、それぞれの生態、発生する森林との関係についてより深く理解します。山菜類、薬用植物についても、それぞれの植物の利用方法、生態などについて実地に学びます。タラノキなど主要な山菜類については、自然環境における生態を理解した上で、その増殖技術について体験的に学んでいます。
昆虫・魚類同定実習
アカデミーの周辺環境に生息する昆虫類や魚類を含む水生生物について学ぶ実習です。森林空間には、いわゆる害虫だけでなく様々な昆虫が相互に関係を持ちながら生息しています。また山、川、海は物質循環、生物の行き来など、様々な形で連関しています。集水域の森林環境の変化が、下流の河川環境やそこに生息する生物に影響することもあります。身の回りの水辺環境にどのような生物が生息しているのかを把握しておくことは、林業という自然環境に関わる生業の立ち位置を確認する上で有効になるかもしれません。この実習ではアカデミー周辺のさまざまな環境において昆虫や魚類を観察し同定することにより、その生態やそれらの生物が住む自然環境について、自分たちの暮らしや営みと関連づけて理解することを目的としています。多様で豊かな自然環境に囲まれたアカデミーだからこそできる学びです。