ドイツ&スイス&イギリス森林教育視察 実況報告④(ドイツ編)
視察4日は、いよいよアカデミーが連携協定を結んでいるロッテンブルク大学にて、森林環境教育指導者のサーティフィケートがとれる科目を学生たちと一緒に履修しました。
今日のテーマは、「教育を目的とした手道具による木の伐採」の実習です。
作業としてして考えればそれほど効率の悪いものはありませんが、手道具による伐採作業には、「チームビルディング」「伝統技術の体験的な理解」「責任」「コミュニケーション」「五感をつかった活動」「林業現場の理解」「文明の理解」「学校カリキュラム(国語・算数・理科・社会・物理など)」などたくさんの要素が詰まっています。
そうした作業を今日はまず参加者の気持ちで体験しつつ同時に技術や気をつけなければいけないことを学んでみようという実習です。
また、森林教育というと、とかく子供向けのプログラムが多い中、こうした作業は若者も興味を持って体験してくれるというメリットもあります。事実、普段チェンソーでしか木を伐った経験のない学生さんたちも、今日の授業では楽しみにしている感じでした。
講師は、ギオーク・シュプルンさん。彼は、昨日訪問したラインラント・プファルツ州の森林教育専門のフォレスターで、長年こうした活動を続けてきている大ベテラン。ドイツの森のようちえんや森林教育の関係委員会の理事も務めていらして、つい最近、州から特別な賞を受賞もされたそうです。
朝9時に授業開始。14名の学生が集合した中に一人日本人の学生が!?と思ったら、アカデミーと同じく連携をしている鹿児島大学からの交換留学生。たった3ヶ月しか語学学校通ってないそうですが、しっかりとドイツ語で授業を受けてます。ガンバってます。
さて、話は戻りまして、授業はまず部屋の中からスタート。「手道具を使って木を伐るメリットは?」「幼児と若者に向けてこのプログラムを実施する際の違いは?」などについて、グループに別れて意見交換。みなさんいろいろな意見が出てきます。こうして機械的に教えるのではなく、「なぜ」とか「ゴール」を明確にしてから実習を始めるあたりもとても大切なことです。
そしていよいよ学内の演習林に移動。小雨が降っていたのでまずはタープを張ってベースキャンプを作ることに。みんなあ〜だこ〜だ言いながら今ここにあるモノでベースとなる拠点を作ります。ギオークさんは、あまり口出しはしません。というのもこういう作業もまたチームビルディングの良いきっかけだからです。つまりプログラムはすでに始まっているわけです。
拠点ができたら、まずはみんなで1本の木を手道具で伐採する体験をします。今日伐採するのは、直径40〜45cmのモミの木です。(日本ではこんなに大きい木を一般の人に伐ってもらうことなんてまずないですね。)
木を選んだら今度は伐倒方向を決めます。なぜこの木を伐るのか、なぜそちらに倒すのか、観察をし、考え、話し合います。そうしたこともしっかりと学びになります。
方向が決まったら目印になる黄色いテープをまいた棒を地面にさします。そしてお次は伐倒方向に向けてどのくらいの距離まで安全を確保したら良いか。枝を使って木の高さを測り、どこまで木が倒れてくるか予測します。これ算数ですね。
お次はその伐倒方向に倒せるように木の幹にマークを入れていきます。根元に近い部分の材が無駄にならぬよう、低い位置に構え、折尺を使って、先程作った伐倒目的地となるリボンをつけた枝に向けて方向をしっかりと見定め、その角度になるように受け口のラインを正確に書き込んでいきます。この作業の中でも「チームビルディング」「コミュニケーション」「普段よりずっと低いアングルからの森の観察」「算数」などなどいろいろなことが含まれます。
そしていよいよ伝統的な手道具、2人挽きのノコギリの登場!物を見るだけで使ってみたくなるような圧倒的な力がある道具です。この2人挽きのノコギリでまずは受け口の底の部分を切り込んでいきます。二人で息を合わせないとうまく切れないところがミソ。コミュニケーション力が試されます。切り込む深さはその木の直径の4分の1程度。ここにも算数が出てきます。
お次は斧の登場。ギオークさんが斧のタイプ、使い方、持ち方などをひと通り説明した後は、それからみんなで斧の素振り練習。そして実際に倒木を利用してまっすぐ斧をふる練習をし、その後は斜めにふる練習。。。ここでは見たものを真似するという目と手の強調作業が入ります。
そしていよいよ斧を入れます。木を挟んで奥側を削っていくと安全に削れるため、実は右利きと左利きがいるとかなり便利です。普段少数派だった左利きの人が活躍できる良いチャンスとなる訳です。受け口ができると再度報告を確認。念入りに調整します。
そしていよいよ追い口を二人で息を合わせて切っていきます。目印のところまで、あと何センチか、お互いに声を掛け合います。木の音にも耳を傾けます。そして目印までいったら、クサビを入れて叩いていきます。この時も木の揺れとリズムを合わせて叩いでいく訳です。音楽が入りますね。そして大きな木の場合は3本クサビを入れて打つことで重さが分配されていきます。これもまた算数ですね。
を見ながらクサビを入れていくとやがて大きなもみの木がゆっくりと倒れ「ズシーン」という衝撃と共に地面に伏せました。なんとも言えない瞬間です。倒れた木は、見事目印をつけた棒の角度で倒れました。
こんな具合に、「ゆっくり」「見える化」「協力」「共有」しながら1本の木を伐倒。「午後はチームに分かれて同じことを自分たちでやってみる時間だよ。」とギオークが伝えて遅めのお昼ご飯となりました。
すると学生たちはお昼ご飯をさ〜っと食べると自主的に各自チームに分かれて先ほどの体験を思い出しながら伐倒を始めました。言われてから動く、とか時間だから動くではなく積極的に学んでいるからこそのロッテンブルクの学生たちの行動にただただ感激しておりました。
というわけで、夕方になるまで自分たちで伐倒をしてみては、学生たちは学んだことを自ら確かめていました。途中、倒れた木を観察しながら、どうしてここがこうなってしまったのか、とかどうして予測通りにいかずにこの向きで倒れたのか、など真剣にギオークさんに質問している学生もいたのが印象的でした。
長〜い1日でしたが、とってもためになる、そして日本でも試してみたい体験ばかりでした。ロッテンブルクの学生の皆さん、ギオークさん、そしてコーディネートしてくださったフックス教授、ありがとうございました。
お次はいよいよイギリスです。お楽しみに。
なんちゃって先生 萩原ナバ裕作