学びの祭典!令和6年度「課題研究公表会」(森林環境教育専攻・木工専攻)
前回の続きです。
森林環境教育専攻のトップバッターは、加藤大成さんによる「嫌われがちなクモの魅力を伝えるプログラム実践からみえてきたこと」です。
幼い頃から虫好きだった加藤さんは、中学時代にクモを助けたことで逆に拒絶された経験から、虫好きの自分に蓋をするようになりました。課題研究では、一般的には嫌われがちなクモの印象や伝承を調べた上で、実際にクモの魅力を伝えるプログラムを実践してくれました。プログラムでは、ぬいぐるみを使ったり、自ら触って見せたりすることで、参加者の意識が変わることを実感したと報告してくれました。卒業後も、河川環境楽園自然発見館にてクモをはじめとする虫たちの本当の魅力を伝えてくれる予定です。
全身を使ってクモの魅力を語っていた加藤さん
2番目は、北倉裕美さんによる「竹の伐採プロセスを活用した企業研修プログラムの提案~アイデアを自由に発言できる活気のある職場を目指して~」です。
「職場でアイデアが出しづらい…」と苦しんだ経験ある北倉さんは、アカデミー入学後アイデアを自由に出すのが当たり前な環境で学ぶ中で、自然の中でこのような場をつくりたいと思うようなりました。北倉さんは、竹の伐採作業!?から上記の課題を解決するヒントを見つけました。竹の伐採過程で自然と会話が生まれ、自由に意見を交わせる雰囲気に気づいたとのことのです。そして、このプロセスを企業研修に活用し、活気ある職場づくりを目指すプログラムを開発しました。今後も、人と人がつながる場をつくるファシリテーターとして活動していきたいと力強く語る北倉さんでした。
開口一番、「学長、副学長、教職員の皆さん、会議の中でアイディアを出せていますかー?」と大きく声を上げ、会場を盛り上げる北倉さん
3番目は、野田恭子さんによる「東白川村越原(おっぱら)における里山の保全と自然体験への活用」です。
野田さんは、「地域の里山を守りながら、人々の感覚を取り戻す場をつくりたい」そんな思いから東白川村越原の森林を対象に、里山の保全と自然体験への活用を探る研究を実施しました。現地では、植生調査を行い、適切な管理方法を検討するとともに、自然体験の可能性を模索しました。試行した草木染ワークショップでは、参加者が自然に触れながら創造の楽しさを実感する声が多数!卒業後は地域と協力しながら、持続可能な里山保全と活用を進め、環境保全や地域活性化につなげていく予定です。
合気道の経験から思考と身体感覚のバランスの重要性について語る野田さん
森林環境教育専攻の最後は、葭田周作さんによる「もう一度子どもと家畜をつなげるために~里山の家畜「ヤギ」の飼育実践から見えたこと~」です。
発表開始と同時に「メ~メ~」とヤギたちの声が聞こえてきます。会場に駆けつけてくれたヤギ「サクラ」と「モモ」の声を聞いた瞬間、葭田さんの目には涙がたまります。現代では学校での家畜飼育が減少し、子どもたちが命と触れ合う機会が少なくなっているそうです(私の小学校では、インコを飼育していました)。そこで、アカデミー内でヤギの飼育を実践、子どもたちが命の存在に気が付き、生き物に親しみを持つ可能性について探りました。ヤギの世話を通じて、子どもたちは好奇心を膨らませ、自己肯定感を高め、仲間とのつながりを深める姿が見られた一方で、学校での飼育は課題も多いため、地域ぐるみの飼育や体験型プログラムなど、新しい形で子どもと家畜をつなぐ方法を提案してくれました。
協力してくれたみんなへの感謝を伝えながら発表する葭田さん
木工専攻のトップバッターは、鈴木達也さんによる「木材のCNC加工における適切なパラメーターの選定について~樹種毎のデータベース作成とその共有~」です。
鈴木さんは、CNC(コンピューター数値制御)を使った木工製品をいくつも制作しています。木のお弁当箱展では筆者も鈴木さんのお弁当箱を購入したことがあります。このCNCという技術は、高精度な加工が可能ですが、樹種ごとの適切なパラメーターが明確でないため試行錯誤が必要になります。例えば、全部同じ数値で機械を動かすと木材が欠けてしまったり焦げてしまったりするそうです。そこで、20種類の木材を用いて切削実験を行い、「荒れ」「欠け」「焦げ」を評価し、最適な条件をデータベース化してくれました。このデータはWEBで公開し、CNCの普及に役立てることを目指しているとのことです。
樹種ごとの特徴について丁寧に説明する鈴木さん
鈴木さんが試作したCNCの切削サンプル
2番目は、矢持達也さんによる「広葉樹で作る曲げわっぱ弁当箱~その製品化の可能性を探る~」です。
広葉樹の材は樹種による表情の違いが針葉樹と比べて大きい印象があります(筆者の印象)。矢持さんは「広葉樹で‘曲げわっぱ’は作れるのか?」そんな疑問から研究をスタート!曲げわっぱは、従来スギやヒノキが主流でしたが、北海道の豊かな広葉樹を活用し、新たな可能性を探りました。17種類の木材で試作を行い、曲げやすさや商品化に向けた課題を検証しました。モニター調査では「木目が美しい」と高評価を得ました。さらに店舗調査でも販売の手応えを感じた矢持さんは、商品化に向けた道筋について示してくれました。卒業後は、地元の北海道で北海道産の広葉樹を活かした新しい作品を制作される予定です。
にこにこと曲げわっぱについて語る矢持さん
矢持さんが試作した曲げわっぱ弁当
3番目は、横井清さんによる「シェア工房経営に適した木工旋盤でのものづくりプログラムの考案~木製品を「つくる」「使う」「観る」の観点から~」です。
木工旋盤とは機械に取り付けた木材を回転させながら、それを刃物で削って作品を作る木工機械をさします。横井さんは在学中、木工旋盤を使った木軸ペンや一輪挿しをするためのワークショップを開催していました。課題研究は、木工旋盤でのものづくりプログラムを「つくる」「使う」「観る」という観点から考案してくれました。卒業後は愛知県豊川市でシェア工房を開業予定です。
ワークショップ中の安全管理の重要性について語る横井さん
横井さんが試作した木の一輪挿し
木工専攻の最後は、若田拓也さんによる「ハンデキャップのある方々に対する木育プログラムの提案〜福祉分野での木工と遊びの実践〜」です。
医療機関で勤務されていた若田さんは、障がいや病気を持つ方々にも木のぬくもりを感じてもらいたい―そんな思いから、木育(木工)活動を通してハンディキャップのある方が心身ともに豊かになれる体験プログラムを考案してくれました。スプーン作りやバランスゲームを通じて、参加者の笑顔や会話が増え、五感が刺激される貴重な体験に!木育は福祉の現場でも大きな価値があることをしめしてくれました。今後はさらに専門性を高め、ゆくゆくは医療分野でも活用できるよう挑戦を続けるとのことです。
考案したプログラムやおもちゃの説明をする若田さん
若田さんが考案したプログラムと木のおもちゃ
森林環境教育専攻と木工専攻の皆さん、お疲れさまでした!
林業専攻 中森