学びの祭典!令和6年度「課題研究公表会」(林業専攻)
森林文化アカデミーは2年制の専門学校ですが、2年間の間に自分たちで感じた課題を研究し、それらをとりまとめる課題研究(大学の卒業研究に相当します)があります。今回は先日開催された課題研究公表会の様子をお届けします。
課題研究公表会は涌井学長の挨拶からスタートしました。学長からは「学生諸君の渾身のこもった発表を非常に楽しみにしている」と挨拶いただきました。発表を控えた学生たちは、学長の言葉を聞いて緊張した様子を見せていました。
挨拶をする涌井学長
森林文化アカデミーのクリエーター科は、林業、森林環境教育、木造建築、木工の4つの専攻に分かれています。今年は、1日目に林業専攻、森林環境教育専攻、木工専攻、2日目に木造建築専攻学生の計22名が発表しました。
発表のトップバッターは、林業専攻の梅村成美さんによる「川上と川下が繋がり、森の価値向上のために必要なことを探る」です。
梅村さんは、川上(木材を生産する人)との交流を通じて「森林整備に意欲を持てるだけの収益が山主さんに還元されていない」という話に課題を感じました。そこで、「川下(木を使う人)に森を知ってもらえば、山の経済的価値が上がるのでは」という仮説を立て、木を扱う木工家向けの森の体験会を実施しました。その結果、木工家の森への関心が高まり、製品を通じてエンドユーザーに森づくりについて伝えたいという意識付けをすることに成功しました。さらに、製品を売るときに森の話を交えることで製品の購買意欲が高まることもアンケートで明らかにしました。
終始笑顔で課題研究について語る梅村さん
2番目は、林業専攻の紀平いずもさんによる「長い間放置されてきた山林を引き継ぐ」です。
紀平さんは、ご自身が相続することになった山林を自分で管理したいと思い、アカデミーに入学しました。いざ自分で実践したときに、相続した自分の山に辿り着くことができない、たどりついた山林の場所が違ったといった苦労話、体験に基づいた山林の境界確定~伐採・搬出までの流れ、将来的に相続する子どもへの思いを丁寧に発表してくれました。
緊張した様子でしたが、発表が進むにつれて表情が柔らかくなる紀平さん
3番目は、林業専攻の栗林綾香さんによる「わらび地区における住民と中山の交流」です。
栗林さんは、地域の山と人とのつながりを深めるために、岐阜県美濃市蕨生地区の「中山」に注目しました。かつて地域の交流の場だった中山ですが、今では訪れる人が減少してしまったとのこと。栗林さんは地域住民への聞き取りを行い、その歴史や思い出をまとめた冊子や登山マップを作成しました。これにより、中山への関心を高め、再び地域の人々が山とつながるきっかけをつくりました。卒業後は、就職先で山と人を結ぶ取り組みを展開していく予定です。
発表には地域の方も応援に駆けつけてくれました
4番目は、後藤里花さんによる「山林所有者の“山への愛ある意思”形成に対する「お手伝い」の検討と実践」です。
後藤さんは、山林所有者が山に前向きに関わる「山への愛ある意思」を育むための支援について研究しました。美濃市の共有林管理組織と連携し、課題整理や他地域の事例調査を実施しました。また、現地調査等を通して山林の未活用部分について道の設計や木材販売を試算した事業プランを作成し、地域の関係者を集めプランの説明会を行いました。説明会を通して、山への理解が深まり、経営の可能性が示すことができました。後藤さんは、所有者への丁寧な寄り添いと情報提供が、山と人をつなぐ鍵であること、今後も山と地域の幸せな関係づくりを目指していくことを宣言しました。
その時その時の思いを表情豊かに語る後藤さん
5番目は、小林健太さんによる「事実と数値の積み重ねで山主の意識を変える!井尾集落での山守活動の紹介」です。
小林さんは、岡山県真庭市井尾集落で「集落の山守」を目指し、山主の山林管理に対する意識改革にについて取り組みました。現地の森林についてデータを取得し、作業道開設や表土流亡の調査を実施。地域住民に対して座談会を開き、山の現状を共有した結果、山主の意識は良い方向に向上し、森林管理の相談も増えてきました。数字と事実を示すことで、山への関心と管理の必要性を伝える重要性を明らかにしました。卒業後は山主と連携し、「稼げる里山」を目指して活動(個人事業主:コバウッズ)を続ける予定です。
この発表を通してコバウッズファンが増えたかも!?
6番目は、佐藤雄一さんによる「ヤマハンノキ林業の可能性を探る」です。
建材メーカーに勤めていた経験から、家具や内装材で扱われている広葉樹はほとんどが輸入に頼っていること、そしてその状況を何とかしたいと在学中は広葉樹施業に関する知見をたくさん集めていました。課題研究では、早生樹として知られている「ヤマハンノキ」に着目し、ヤマハンノキの林業利用の可能性について調べました。市場調査や植栽地調査を通じて、ヤマハンノキの材としての有用性や造林コスト削減の可能性や、供給量の不安定さや収穫時の売上額がスギに比べて低いといった課題などを提示してくれました。
広葉樹の材の話になるといつも嬉しそうに語ってくれる佐藤さん
7番目は、瀬下真弘さんによる「演習林におけるシダ植物と地位の関係」です。
このタイトルにある地位とは、その場所で樹木がどれくらい成長するのかを判断するための指標になります。瀬下さんは、アカデミーに隣接しているシダ植物の種類を把握し、シダ植物を用いて地位を算出できるのか検討してくれました。実習などで確認した樹木は、いつも丁寧に画として記録し、学生への説明も細かな部分まで教えてくれる瀬下さんらしい発表でした。
専門的な用語についてもかみ砕いて説明してくれる瀬下さん
8番目は、村田くるみさんによる「林内路網の減災対策への一歩について考える」です。
村田さんは、岐阜県内の林内路網(森林内の道)が崩壊リスクを考慮して作られているかについて調査しました。調査結果によると、作業道は地形データを活用し、崩壊リスクを検証しながら丁寧に作設されていることがわかりました。一方で、集材路とよばれる道は伐採事業者が単独で計画・施工しており、崩壊リスクの検証が不十分であるため、行政が関与する仕組みが必要であると結論付け、県・市町村・伐採事業者が協力して崩壊リスクを検証する勉強会の開催を提案してくれました。
自身の経験からどうすれば災害が減るのかと常に考えながら学んできた村田さん
林業専攻の最後は、森日香留さんによる「未来の森の植生を明らかにする」です。
森林文化アカデミーでは、開学20周年記念事業の一環として演習林の一部にて「未来の森づくり」プロジェクトが始動しました。このプロジェクトは、持続可能な森づくりを目指し、林業専攻が中心となって活動しているものです。森さんは、この未来の森の植生を明らかにし、それらを踏まえた今後の活用提案をしてくれました。調査結果から、演習林の約8割の樹木が確認され、多様な環境が植物種の多様性を生んでいること、また野生動物による影響は現時点で深刻ではなく、適度な撹乱を生んでいる可能性があることをデータとともにしめしてくれました。未来の森の活用提案では、古い書籍から未来の森で確認された樹種の活用方法を現代語訳して冊子としてまとめてくれました。
全演者の中で一人だけ壇上に上がり聴衆の反応を確認しながら発表する森さん
林業専攻の皆さん、お疲れさまでした!
林業専攻 中森