2024ドイツサマーセミナー報告②
ドイツサマーセミナー後半の行程について、林業専攻1年の田中よりご報告します。
セミナー5日目(9月19日(木))
Montabaurer高地において、ドイツトウヒの大量枯死と再造林事業について学びました。ドイツでは2018年からキクイムシにより6年間で50万haのドイツトウヒの森が損失したといわれています。Montabaurerは一日2000~3000人が訪れるレクリエーション空間にもなっており、皆伐に反対する住民の声が上がる中、キクイムシ被害の解決のための皆伐の必要性を丁寧に広報し、2019年から森の再生に着手したそうです。
皆伐後は、オークを中心にサクラ、カエデ、ボダイジュ、モミ、ダグラスファー等8種が50本ずつの小グループで植えられました。ドイツには、戦後賠償を木材資源で支払ったため、ドイツトウヒのモノカルチャーが行われた背景がありますが、今回の皆伐を機に、立地条件や土壌のタイプから最適な樹種を選定し、どの樹種の成長がよいか比較しているそうです。
獣害対策は、樹種に応じて施されており、葉が広がるモミ、ダグラスファーには金網を設置してアカシカやノロジカから守っています。イノシシが根を食べるオークには木枠を使用し、カラマツ、シラカバ等には筒を被せ、獣害対策だけでなく株立ちを防ぎ、植林場所をわかりやすくしているとのお話でした。
将来、建築用材に適した針葉樹が不足する懸念もありながら、木材価格や需要よりも、この場所に適した樹種を育て、自然に近い森の姿を取り戻そうとされているドイツの森林管理の姿勢に驚きました。
セミナー5日目(9月20日(金))
続いて訪れたMainzer Sand自然保護区は内陸砂丘になっており、ステップ気候の希少な植生がみられる場所でした。約17,000~18,000年前にライン川から砂利質の粒子が風で飛ばされて形成された特異な地形で、最初に発見された約180種の植物のうち、約4分の1がレッドリストに登録されているそうです。
60~70年前、軍用に使われていた当時は裸地だったのが、今は草が密に生えてきており本来の植生を維持するのが難しい状況とのことでした。二重の電柵で囲い、人による管理とロバの放牧で草が増えすぎないようにしているそうです。ロバは食事の消化に時間がかかるのでフンに栄養が残らないとされていますが、希少な植物を食べてしまうこともあり、まだどのような方法が最適か試行錯誤の段階とのことでした。こちらで特有の植生をできるだけ維持することが重要で、気候変動に適応できる種があるかを観察しているそうです。この自然保護区は近代的な集合住宅などが区域外に見える都市空間にあり、中には木が生い茂る森を求める住民もいるようですが、生物多様性保全の観点からとても重要な取り組みを知ることができました。
最後にご報告するのは、Ober-Olmerの森です。こちらも元は軍の演習場だったところが、現在は人が集まる森の保護と育成の場となっており、企業の研修や子供たちの環境教育にも使われているそうです。軽食や木工品の売店「森のキオスク」があり、内装にも自然に近い形で木が多用されていて、訪問者を歓迎する雰囲気がとても素敵でした。
林内では、森・人・時間の3チームに分かれて木材資源の持続可能性を体感できるようなゲームをしました。また、森林のCO2固定量が視覚的にとらえられるような展示があり、環境教育を多角的に行っている現場を見ることができました。
まとめ
サマーセミナーを通じて、ドイツの人々が森をとても大切にされていて、森に親しむ時間が暮らしの一部になっていることを感じました。日本の急峻な地形と比べて、ドイツの森は平らで歩きやすく、日本より少ない森林面積で約2倍の木材生産量があるのも納得でした。また、生物多様性保全や環境への配慮も日本より浸透している印象を受けましたが、森林先進国でも気候変動による乾燥害や局所的な大雨による水害等、新たな問題にも直面しており、様々な方法が模索されていることを知りました。このような貴重な学びの機会を頂き、関係者の皆様に心より感謝申し上げます。
森と木のクリエータ科1年 田中