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2024年12月25日(水)

プチ林業事例調査in佐渡島(3)吉井木材工業(株)さま見学(2024/10/16)

林業の現場見学に続いて、佐渡島の製材事情について学ばせていただくため、島内の製材所を訪問させていただきました。
かつては島内に40社程あった製材所も今は7社しかなく、おそらく毎日稼働している工場はもっと少ないようです。島内にそれだけの製材所があったことも驚きですが、製材所が減少していることはどこの地域も同じですね。

見学させていただいた吉井木材工業さんは1948年創業の会社で、2015年からは建築リフォームも手がけるようになりました。社長の水野さんは元々建築士をされており、佐渡から製材が無くなると困ると思い9年前に入社、その4年後の2019年に代表取締役に就任された情熱のある方です。そんな水野社長が、佐渡の林業事情と製材所の幅広い取り組みについて生き生きと話してくださいました。

水野社長写真

吉井木材工業(株)の 水野社長

吉井木材工業では、スギ、アテビを佐渡島内から、本土から米松を入荷して、製材し建築まで行っているそうです。

佐渡島内でどれだけの住宅が建てられているのか尋ねてみたところ、2022年度の島内の住宅着工戸数は62戸で、2003年の150戸に比べると減少しているそうですが、島内でそれだけの新しい住宅が建設されていることに驚きました。そのうち吉井木材工業では年間3~4棟を建てられているとのことでした。

丸太の購入については、佐渡島内には現在市場機能はなく、森林組合や事業体から直接購入しているとのことでした。
地域ごとに特徴があるそうで、「大佐渡は風が強く、曲がりもある。小佐渡は風が少なく、曲がりも少ない」とのこと。できれば小佐渡の材を使いたいけれど、時期やタイミングによっては大佐渡の木を使うこともあり、質によって森林組合と価格交渉をしながら佐渡産材を活用しているとのことでした。

しかしプレカット工場は島内にはなく、構造材のプレカット材は本土から入荷しているため、プレカット材で家を建てる際は、どうしても佐渡産材を使用することができません。そのため、建築までで考えると70〜80%が本土の新潟県産材で行われていることになるそうです。しかし近頃は燃料費の高騰などでプレカット材で建てる住宅の坪単価が10,000円近くになってきており、島内で手刻みで行う時の坪単価18,000円~20,000円と差が少なくなってきました。佐渡市産材活用の補助金を入れるとさらに差がなくなり、今後はより一層佐渡産材の活用を進めることができるのではないか、と水野社長はおっしゃっていました。コストや燃料を考えると、佐渡島内で地産地消を行いたいですね。

そして、吉井木材工業では、佐渡市の木として指定されている「アテビ」の活用を進めていきたいと話されていました。「アテビ」は、和名をヒノキアスナロといい、新潟県ではそのほとんどが佐渡に分布しています。江戸時代から佐渡の特産として植林が盛んに奨励されました。ヒノキに匹敵する高級建築用材で、耐久性・耐水性に優れ、シロアリにも強いそうです。曲げ強度はアテビは805 kgf/cm2で、ヒノキの750 kgf/cm2、スギの650 kgf/cm2と比較すると高く、土台や柱に使われているそうです。吉井木材工業では年間原木消費量として、スギ180㎥に対し、アテビ43㎥を活用しているとのことでした。

さらに水野社長は、端材の活用にも力を入れているとのことでした。
レーザー加工機を導入し、3月よりオーダーを受けて制作をされていたり、かんなくずを利用したリースづくりをしていたりするそうで、次々にそれらの製品を社員の方々がとても楽しそうに見せてくださったことが印象的でした。

レーザー加工された木材

かんなリース

女性社員の方が制作された、素敵なかんなくずリース

そして、最後に木材乾燥庫を見せていただきました。木を使用するために乾燥は必ず必要な工程ですが、佐渡島内で木材乾燥機能を持っているのは、吉井木材工業を含めて2か所のみだそうです。佐渡の木材産業全体を見て必要なことにチャレンジする吉井木材工業はとてもかっこいい製材所でした。

乾燥庫の写真

木材乾燥庫

さらに、自社の建築以外でも佐渡産材を使ってもらえるようになればとの思いがあるそうで、ほかの工務店やDIY好きの一般の方が乾燥木材を購入できるように、ホームセンターのような木材販売をしたいともおっしゃっていました。

幅広い知識と情熱に満ち溢れた水野社長のお話を伺い、とにかく佐渡の木を活用して森を豊かにしたいという強い思いを感じました。そして、何より楽しそうに次々とチャレンジされている姿があり、それが会社の雰囲気にもつながっているように思いました。

新潟大学の学生さんは、製材というものを初めて見た人も多かったようです。
初めて出会う製材所の方が水野社長だったとしたら、製材というものが「なんだか楽しそう!」と感じてもらえているのではないかと思いました。

今回の実習中に、佐渡の人工林の木はあまり良い木ではない、と何度か耳にしました。
しかし、私たちは今あるものを使って森を良くしていくしかありません。森から木材の活用まで幅広い知識を持ち、熱い思いを持って面白がりながら仕事をされている水野社長は、佐渡の中でも重要な存在なのではないかと感じました。

話を聞く学生

製材にまつわる貴重なお話を聞き入る新潟大学とアカデミーの学生たち

水野社長には、多くの質問に快くお答えいただきました。さらに帰り際には2Lの袋いっぱいのアテビのチップを持たせてくださいました。大切に岐阜まで持ち帰ってきたことを、ここでご報告させていただきます。

この度は貴重なお時間をいただき、本当にありがとうございました!

最後に今回の授業を担当していただき、島内の絶景ポイントや観光名所へ案内していただいた梶本先生をはじめ、今回の実習を紹介してくれた相原さん(アカデミーOB)、共に授業を受けた新潟大学の学生の皆さん、大変ありがとうございました!

(報告:林業専攻2年 梅村)

(林業専攻教員 津田)