エゴノキプロジェクト2024 これまでの経緯と新たな取り組み
今年も和傘部品の「傘ロクロ」の材料エゴノキをみんなで収穫するイベント、エゴノキプロジェクトを実施しました。全国から50人余りの参加者が、美濃市の瓢ヶ岳(ふくべがたけ)中腹の「新田の森」に集まりました。今年で13回目になります。
「みんなで収穫」と書きましたが、例年は収穫した木を囲んで集合写真を撮るのに今年は1本もありません。実は今年は初めて1本も収穫をしなかったのです。その理由を、これまでの経緯、今回の作業、今後の方針などに分けて説明します。
▼これまでの経緯 シカ食害で更新進まず
エゴノキプロジェクトでは、2012年度から瓢ヶ岳で毎年2mの長さに切ったエゴノキの幹を200〜300本収穫してきました。特に新田の森(かつて棚田だったエリア)ではエゴノキが密集して生えていて、良質のエゴノキを安定的に収穫することができました。この森を初めて見た傘ロクロ職人の長屋一男さんは、「ここは奇跡の森です」と言ったほどです。
和傘部品に必要なエゴノキは直径4〜6cmと細いため、切り株から萌芽すれば10年前後で新しいエゴノキが育つと想定していました。しかし、ほとんどがシカに食べられてしまったのです。
スギやヒノキの苗に被せるような幼齢木保護チューブを被せてみたりしましたが、うまく生育しませんでした。そうこうするうち、新田の森のほとんどのエゴノキを伐り尽くしてしまったのです。
▼代替地を探すも難航
代替地を探す取り組みも、ここ数年続けてきました。しかし、数本生えているような所はあっても、数百本がまとまって生えている、車でアクセスできる、50人ほどのメンバーが同時に作業できる、などの条件を満たす場所は見つかりませんでした。
一方、新田の森に生えていたエゴノキが非常に良質であったことから、時間はかかっても新田の森でエゴノキを育てていこうという方針が固まりました。
そこで2021年度から、新田の森の一部をシカ防護柵で囲い、エゴノキの切り株からの萌芽を育てたり、育てた苗を植えたりする取り組みを始めました。2021年度はS-1、2022年度はS-2エリアを、それぞれシカ防護柵で囲っています。これらの費用は、「清流の国ぎふ森林・環境税」などの補助金で賄ってきました。
▼イベントの準備
ここ数年、エゴノキプロジェクト実行委員たちは春に苗採り、秋に種採りに新田の森へ出かけています。新田の森で生まれたエゴノキを育て、柵の中へ植え戻すためです。苗は実行委員が2年間育てます。一部は和傘生産が盛んだった岐阜市加納地区の小学校で育ててもらっています。
そして11月のエゴノキプロジェクト当日に備え、新しいエリアを皆伐しました。この作業はNPO法人杣の杜学舎が請け負っています。ちなみに杣の杜学舎は森林文化アカデミー1期生が立ち上げた団体で、現代表の藤吉智志さんはプロジェクトのメンバーでもあります。
▼今年のイベントは柵の設置と植樹
11月のエゴノキプロジェクト当日、これまで参加経験のある常連さんは今までとまったく異なる広々した光景にびっくりしたはずです。普段ならうっそうとした雑木林なので、このように見通しが利く状態ではありません。。
小班に分かれ、実行委員が準備しておいた資材を使って、2つのエリアにシカ防護柵を設置していきます。
そして柵内には350本の苗を植えていきました。
なお、今年は日本財団の補助金をいただくことができたため、これだけ広範囲なシカ防護柵を設置することができました。
▼新メンバーの加入
今年はエゴノキプロジェクト実行委員会に新しいメンバーが2人加わってくれました。郡上里山株式会社の杉浦義隆さんと、中濃森林組合の前場治佳子さんです。2人とも森林文化アカデミー林業専攻の卒業生です。当日は前場さんは他の仕事のため不参加でしたが、杉浦さんは班長として作業を率いてくれました。普段からシカ防護柵の設置や植樹を業務として行っているプロフェッショナルなので、本当に頼れる即戦力でした。
▼最後はみんなで円陣を組む
予定通り作業を終え、恒例の参加者全員での自己紹介。「和傘を支えたい」という同じ思いで全国から参加してくださっていることが伝わってきます。伝統工芸の職人さんの中に、技術を継承するという重荷を1人で背負わされている状況をよく見かけますが、このように同じ思いの仲間がいることで肩の荷が少し軽くなるのではと思います。
歌舞伎の小道具を扱う会社から毎年参加してくださる方は、東京の歌舞伎座で和傘の特別展示をしたことを紹介してくれました。
▼今後の方針
2021年度に柵を設置したエリアでは、順調にエゴノキが育っています。あと7〜8年で使える大きさに育つはずです。
今後はシカ防護柵をさらに地図のB、Dエリアにも広げていきたいところですが、「清流の国ぎふ森林・環境税」などの補助金が今後も継続されるかどうかは、まだ不透明です。
また、植樹したエリアではしばらくの間、エゴノキの苗の生育環境を保つための下刈り作業が必要です。これまで地元の森林ボランティア団体「山の駅ふくべ」のみなさんにご協力いただいていますが、柵を広げれば広げるほどマンパワーも必要になるので、適切なバランスを考えながら柵のエリアを広げる必要があります。
一方、新田の森でエゴノキが育つまでの間、他で材料も確保しなければなりません。報道などを見て県内の方が100本単位で伐って提供してくださる事例もあります。エゴノキがまとまって生えている新しい情報があれば、実行委員会が確認に伺います。wagasa@egonoki-project.com までご連絡ください。
エゴノキプロジェクト実行委員会ではエゴノキの他にリョウブとシロモジの2樹種を収穫し、岐阜和傘協会がそれらの傘ロクロで和傘を試作しています。今年度中に耐久性の試験を行い、実用に耐えるかどうかを確認します。
▼他の産地の参考に
エゴノキプロジェクトのこれまでの活動は、他の伝統工芸の原材料確保の参考にもなると思います。もし詳しい情報を知りたいということがあれば、お問い合わせください。
今夏、東京文化財研究所が主催したシンポジウム「森と支える知恵とわざ〜無形文化遺産の未来のために」では、エゴノキプロジェクトが優れた取り組みの1つとして紹介されました。
▼ゴールデン匠賞
今年は、エゴノキプロジェクトの取り組みが「三井ゴールデン匠賞」を受賞しました。
1月の贈賞式でエゴノキプロジェクトを紹介するため、東京から事務局の方たちが現場に動画撮影に来られて、翌日は傘ロクロを製造する長屋木工所も撮影して行かれました。後日Youtubeにも公開されるそうです。
ゴールデン匠賞では、最終5組の中から投票で「オーディエンス賞」を選考中です。みなさんの投票で順位が決まりますので、よろしければ以下のリンクから投票をお願いします(12/6まで)。(投票者の方に抽選でギフトカードが当たるそうです)
https://mgt.mitsuipr.com/about/winner_05.html#mp_touhyou
久津輪 雅(木工・教授)