谷工房・スタジオKUKU訪問(長野県小諸市)〜木工事例調査より
木工事例調査で長野県にある谷進一郎さんの工房と、奥様である恭子さんが主宰されているスタジオKUKUを訪ねました。木工家第一世代である進一郎さんは私達にとって雲の上の存在です。どんな方なのか、内心ドキドキ?怖々?でした。正直、一人ではとても辿りつけない場所でビックリしました。はじめて見た谷さんの工房の外観は思ったより素朴な感じでした。中にお邪魔すると、どこか懐かしい気がしました。後で気づきましたが、この懐かしさは木の校舎で小学生時代を過ごした私ならではの感覚かもしれません。きっと、そんな時代にこの工房は建てられ、ずっと大切にされてきたのだろうと思います。
谷さんが自分の作品を見せてくださいました。丁寧で美しいだけではなく何かしら想いのようなものが伝わってきます。釿(チョウナ)で木を削る体験をさせていただきましたが、誰一人として谷さんのように削ることはできませんでした。思っていた以上に重く、自分の足元に向かい刃を振り下ろすので加減が難しかったです。みんなが削ったものはザクザクしていました。谷さんが削ったあとは撫でても気持ちがいい仕上がりでした。槍鉋やスパイラル式の錐、刃の向きが変えられる昔の鋸、どれも実演して見せて下さいました。
所狭しと掛けてある治具や型、最初の原型をとどめないほど使い込んだ鑿の刃、鉋台を半分に削りこまないと使えないほど刃が小さくなっても愛用している鉋、古くても良いものは良いのだと私達に教えてくれているようでした。
私が気になったものは谷さんの手と一緒に写っている豆鉋。大事な仕事道具であるのは分かっていますがとてもキュートでした。もう一つが研ぎ台の流しです。全部木で作ってありました。ステンレスではなく、あえて木を使っているところに木に対する愛着を感じました。私たちも初めて目にする強力な磁石の固定具もありました。木工機械で加工をするときに材をしっかりと固定することが出来るなど、いろいろな場面で役立ちそうな便利な道具でした。変える必要のないものはそのまま大切に使い、新しい役立つものは取り入れる、頭が柔軟で好奇心旺盛な、それでいて後進に託す気持ちのあるちょっとチャーミングな方でした。
恭子さんが主宰されているスタジオKUKUは、自宅の一部がギャラリーとなっていて、そこにはステキな小物や家具がたくさん並んでいました。恭子さんがデザインし、スタッフが制作しています。どう見てもチョコレートにしか見えない遊び心あるものや、アイデア満載のものがいっぱいあります。どれも恭子さん自身のあったらいいなと、お客さんからのあったらいいなが反映されていました。
中でも特に印象に残ったものを紹介します。例えば椅子でもただの椅子では無く、座るときに心地よい高さと、靴を履いたりするのに便利な高さを両方兼ね備えています。椅子の形に合わせた収納式の足置きが必要なときだけ使用出来るように工夫されていました。
もともとアクセサリーデザイナーだった恭子さんが作ったペンダントは、首の後ろで付け外しをする通常のタイプが難しい人でも使えるよう考えられていました。首の前で、小さな磁石を使って簡単に付け外し出来る上、はずそうとしない限り外れにくい作りになっており、見た目の美しさと機能性がしっかり備わっていました。
また、恭子さんは木だけでなく、ガラス製品や陶器、布や金属などもお好きで、自分が実際に使ってみて良いと思ったものも一緒に並べられていました。そして、それらをつくっている作家さんとの関係も大事にされていました。そうした中から、和紙を貼った鉄を座面にしたスツールを作るなど、新しい発想が生まれるのだなと感じました。
更には、ものを作るたびに改善を繰り返しながら記録を残し、誰がいついくつ作っても同じ品質のものが出来るようになっていました。手に取ることが多い小物は実感を大事にされ、とても丁寧に仕上げるとおっしゃっていました。実際手に取ってみるととてもスベスベ滑らかでそれだけで癒やされました。
ものを作るときに、ただ魅力的なものを作るだけでなく、使う人のことをまず考えてデザインをしたり、作る過程でも常に工夫を加えて改善されている所もとても印象的でした。
とてもエネルギーに満ちた恭子さんはお話も面白く、こちらからも次々質問が出ていました。恭子さんからは、一見自分の分野と関係なさそうなことでも、後々、ときには何年も経ってから何かにつながる事があるため、アンテナを張っていると良いというアドバイスを頂きました。
数年後には何か新しいことを始める計画があるとのこと。きっと何か面白い事をして下さるだろうと楽しみにせずにはいられません。
貴重な見学の機会を下さりありがとうございました。
クリエーター科木工専攻(亀山宏美・長屋紀子・山路今日子)