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2024年08月23日(金)

プチ林業事例調査in滋賀(4)植物観察編(2024/7/31~8/1)

今回の滋賀県での事例調査では、林業事業体への訪問のみならず、現地の植生観察も行いました。林業専攻2年の梅村と栗林がレポートします。 

一日目に訪れたのは、滋賀県東近江市にある「河辺いきものの森」です。 
事業体のアポイントの合間に時間が空いたため、急遽訪れたのですが、短い時間の突然の訪問にもかかわらず、管理しているNPO法人遊林会の熊木様が快く案内してくださいました。 

 ここはもともと河辺林として存在しており、滋賀県東部を流れる愛知川(えちがわ)の洪水被害を軽減するため、また薪や柴などの燃料や生活で使用する資材を採取するための場所でした。しかし河川の洪水被害がへり、家庭の燃料が薪からガスや電気に代わり、河辺林に人が入らなくなると植生遷移が進み、元々いた動植物たちが姿を消していきました。そんな中、1998年にNPO法人が立ち上がり、市と協同で「木を伐って、森を守る」を合言葉に「河辺いきものの森」として整備されました。 

 NPO設立から26年が経過した今でも活発に活動されており、小規模で皆伐し萌芽更新を図るエリア、あえてカシ類の林を残しているエリア、竹林エリアなど細かくゾーニングされ、ボランティアの方々で月3回保全活動をされています。 

ボランティアの方々で小規模皆伐を行い明るくなったエリアでは、1年でこれだけ旺盛に成長をしていました

昨年竹の花が一斉に咲き、現在は竹林が枯れていました。写真は竹の花の名残です。初めて見ました。

森林の一角には薪炭林として利用されていた森の恵みに感謝し、森を守る神様として野神さまがまつられていました。人と森の文化も学ぶことができる素敵な施設です。 

野神様

 そんな河辺いきものの森ですが、県内の小学四年生が森林体験を行う「やまのこ」事業の委託を市から受け、年間約900人に学習プログラムを行っています。この日は夏休みのため子どもは少なくありましたが、普段平日は校外学習の予約でいっぱいなのだそうです。子どもたちに楽しみながら植物について伝えているというお話を伺い、熊木さんの振る舞いやお話から植物が好きなのだなということがひしひしと伝わってきました。私も自然の面白さや楽しさを伝えられるように知識をつけていきたいと思いました。 

 さらに熊木さんにご案内いただき、ハイハマボッスという草本を観察しました。 

かわいらしい小さなお花です

このハイハマボッスという植物は湿地や山地の池のほとりなどでまれにみられる多年草で、滋賀県では絶滅したと思われていました。しかし、子どもたちがサワガニを観察するためにいきものの森内の小川で遊ぶことが丁度良い攪乱になったらしく、ハイハマボッスが出現し始めたとのことでした。 
偶然であったかもしれませんが、子どもたちの遊びが希少な植物の復活につながっていることを知り、とても学びになりました。人の暮らしが自然を破壊するのではなく、人の営みが豊かな生態系につながっていること、そのような関係の重要性を改めて感じました。

河辺いきものの森は街から近い平地にありますが、山地の樹木は積極的に保全しており、多様な環境を学ぶことができる素敵な施設でした。子供たちが自然のことを安全に学べる場所と、熊木さんのように専門性とわかりやすく伝える力を備えた大人がいることが大切だと思いました。 

 

 

そして二日目には、滋賀県長浜市にある山門水源の森を訪れました。滋賀県最大の湿地があり、かつては炭や薪をつくるために利用されてきた共有林が現在は県有林となっている森です。 

湿地では、遠目ではありましたが滋賀県レッドデータブックで保護指定対象種とされているミツガシワやサギソウ、またアカデミーがある岐阜県美濃市では見ることができないキタヤマオウレンを観察することができました。 

双眼鏡でミツガシワとサギソウを観察しました。

本州日本海側に生えるキタヤマオウレン

セミヤドリガの幼虫に寄生されているヒグラシ

林内のヒノキに、セミヤドリガの幼虫2匹に寄生されているヒグラシがいました。 
名の通り幼虫がセミに外部寄生する特異なガで、2週間ほどでセミの体液から一生分の栄養を取り、木や草の表面などに降りて繭づくりを始めます。このセミに寄生した幼虫がみられるのは7月下旬~8月上旬ごろから始まり、9月中旬までだそうです。植物だけではなく昆虫も季節によってみられるものが違い、四季を感じられますね。 
ちなみに寄生されたセミが弱ることはないといわれていますが、重くなったセミは飛ぶ速度がやや遅くなるとのことでした。たしかに体の1/3ほどの大きさの幼虫2匹に寄生されている姿を近くで観察していても全然動かなく、重たそうでした。 

森の中ではササユリがそれぞれ単木ネットで囲われていたり、広い範囲に獣害ネットが張られていたり、少し歩いただけでかなり手をかけて自然を保全していることが伺えました。今回はご担当者様のお話を聞くことはできませんでしたが、水源の森のHPを見ているとかなりの頻度で湿地の様子や保全活動の様子が更新されており、いきものの森同様に活発に活動されていることがわかりました。HPによると「山門水源の森を次の世代に引き継ぐ会」という団体が2001年に設立され、2022年度は120名の会員を中心に様々な団体が関わり活動をされているようでした。きのこの観察、動植物の観察、保全活動など、会員の方々が楽しんで取り組める内容になっているのではと感じました。 

 

里山を維持していくためには、関わり続けることが何よりも大切です。いきものの森、水源の森に共通して、市民が気軽に楽しんで関わり続けることができる仕組みが20年以上活発に続いているということがありました。林業について学んでいるとついスギやヒノキにばかり焦点を当ててしまいますが、視野を広く持ち、守るべきものを適切に守れるように知識をつけていきたいです。 (2年 梅村、栗林)

(林業専攻教員 津田)