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2024年08月05日(月)

【アニュアルレポート2023】アカメガシワを用いたヒラタケの簡易な原木栽培

岐阜県立森林文化アカデミー活動報告2023より

アカメガシワを用いたヒラタケの簡易な原木栽培

教授 津田 格

目的
 きのこの原木栽培は里山の資源利用として各地で取り組まれている。特にシイタケ生産などでは長さ1m前後のナラ類の原木にドリルで穴をあけて植菌する普通原木栽培が行われている。

 一方、ヒラタケなどでは短木断面栽培が簡易な栽培方法として以前から行われてきた。これは原木を15cm位に短く玉伐りして重ね、重ねた木口面に種菌を挟んで接種するという方法である。普通原木栽培と比べると原木は短く、ドリルで穴をあける必要もないが、接種後に移動させるのが難しく伏せ込み場所で接種を行う必要がある。

 短く切った原木を用いた、さらに簡易な栽培方法がアラゲキクラゲについて開発されている(山梨県森林総合研究所 2015)。これは原木をチャック付きの袋に入れて砕いた種菌を木口面に振りかけて接種し、袋の口を閉じてそのまま培養し、菌糸がまわった頃に袋から取り出して伏せ込み、子実体を発生させるという方法である。アカデミーの学生実習ではこの方法をアラゲキクラゲ以外のきのこにも応用し、その発生について試験を行ってきた。ヤマザクラ、イヌザクラを原木として複数種のきのこを栽培した結果については2021年度のAnnual Reportにおいて報告したが、今回アカメガシワの原木について同様の方法でヒラタケの種菌を接種し、さらにより手軽に取り組むために露地ではなくプランターに伏せこんでの栽培を試みたため、ここにその結果を報告する。

概要
 今回の栽培試験では、森林文化アカデミー構内において接種作業直前に伐採されたアカメガシワ1個体を原木として用いた。伐採後、長さ約15cmに玉伐ったものを原木とした。原木は22本得られ、その末口直径は約3.5〜7cmであった。接種試験に供試したヒラタケは以前の試験で用いたものと同じ岐阜県内で採取した野生菌株(2008年12月19日に各務原市で子実体採取、菌株分離)である。菌株は実験室でPDA培地で継代培養してきたものであり、広葉樹オガコと米ぬかを主体とした菌床培地で菌糸を培養して調整し、種菌とした。原木は短時間の浸水処理を行なった後、表面の水を切って大きめの透明ポリ袋(500×1000×0.08 mm)に入れ、木口面が上になるように立てて並べた。その後、木口上面に砕いたヒラタケ種菌をふりかけるようにして接種した。また下面の木口からも菌糸が侵入するように、袋の底にも原木の隙間や側面から種菌がこぼれ落ちていることを確認した。接種した種菌量は450ccであり、原木1本あたりに換算すると約20ccである。接種後、ポリ袋をやや膨らまし気味に空気を入れて口を縛った。原木を入れた袋はコンテナボックスに入れ、直射日光が当たらないようにブルーシートをかぶせて実験室内においた。これらの接種作業は2023年2月22日に行った。その後、菌糸の伸張を観察しながら室温で管理、培養した。

 接種から約4ヶ月後の2023年6月28日にヒラタケの菌糸が原木全体に蔓延しているのを確認した。特に雑菌と考えられるものの汚染は確認されなかったため、クリエーター科の学生実習において伏せ込み作業を行なった。ポリ袋からほだ木(菌糸が蔓延した原木)を取り出し、プランターに伏せ込んだ。プランターは幅50×奥行40×高さ18 cmの容量20Lのものを用いた(写真1、(株)アイカ 菜園プランター500浅型)。プランターの底には水捌けを良くするため軽石(小粒)を約2cm敷きつめ、その上に赤玉土(小粒)を投入し、ほだ木の下約三分の一が埋まるように埋設した。その際、ほだ木の上下は室内における培養時と同じ方向になるように注意した。その後、トンネルパッカーを用いて寒冷紗で庇蔭し、ほだ木が乾燥しないように管理した。伏せこみから2023年12月にかけて子実体の発生がないか適宜観察を行った。

写真1 栽培に用いたプランター

用いた菌株は12月に採取した子実体から分離したものであったあため、子実体発生は晩秋以降であると見込まれた。2021年の栽培試験では11月17日に最初の発生が確認されたが、今シーズンは気温の低下が遅れたためかそれより子実体の発生が遅く、12月に入って子実体の発生が見られた(写真2)。発生した子実体は12月20日に採取し、重量を測定した。その収穫量を表1に示す。また原木一本あたりの平均体積を求め、その体積あたりの子実体重量を原木1本あたりの収穫量として示した。

写真2 プランターに伏せ込んだほだ木から発生したヒラタケ子実体

表1原木体積、子実体収穫量

また2021年度の栽培試験ではヤマザクラとイヌザクラを原木として用い、露地に伏せ込んだが、その際の接種後1年間での収穫量はイヌザクラの方が多いという結果であった。今回の原木の体積を用いて原木1本あたりの収穫量を計算すると、イヌザクラは6.5 g/本、ヤマザクラは1.8 g/本であった。一方、今回用いたアカメガシワの場合は62.3 g/本であり、9倍以上の差があった。もちろん、それぞれの年度での気象条件や栽培条件も異なるため単純な比較はできないが、アカメガシワはヒラタケ栽培の原木としては早期に多くの収穫が期待できるものとして適した樹種であると考えられる。

教員からのメッセージ
 以前も報告しましたが、この接種方法は原木栽培の中でも最も簡単で取り組みやすいものです。アカメガシワは道沿いや伐採地などにいち早く侵入するパイオニア樹種ですが、成長が早い一方で現在では雑木扱いで用途がほとんどありません。ヒラタケは幅広い樹種を原木として用いることができるという特性が以前から知られていますが、この簡易な接種方法と組み合わせることにより、他に用途がほとんどなく雑木として扱われがちなアカメガシワの有効利用として、気軽に取り組める方法としてお勧めできます。伏せこみまではほぼ密閉したポリ袋で培養するため雑菌や虫の発生などによる周囲への汚染も無く、袋の外側から菌糸の伸長していく様子を観察することもできます。庇蔭と灌水などにより乾燥しないようにすれば、今回のようなプランターを用いることにより家庭のベランダなどでの栽培も可能です。少量であればより安価なプラ鉢も利用可能でしょう。このような方法できのこを栽培することは、里山の資源利用というだけでなく、理科教育、環境教育の材料としても活用できるものであり、一般の方々の家庭での栽培やきのこの栽培講座などでも積極的に取り入れてもらえればと考えています。

参考文献
山梨県森林総合研究所(2015)アラゲキクラゲの簡易原木栽培法.森研情報 No.42: 2-3
津田格(2022)きのこ類の簡易な原木栽培の試み.岐阜県立森林文化アカデミーAnnual Report 2021 Vol.5: 6-7