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2024年07月20日(土)

【アニュアルレポート2023】土砂崩れ跡地に植栽されたケヤキ人工林の現況

岐阜県立森林文化アカデミー活動成果報告2023より

准教授 大洞智宏

目的

 これまで岐阜県では、広葉樹の造林がほとんど行われてこなかったため、広葉樹人工林の面積は県森林面積の1%に満たない。このため、広葉樹の造林、育成技術についての情報は十分蓄積されているとはいえず、成長過程における樹種による振る舞いの違いや成長に必要な樹冠の大きさについても十分解明されていない。また、広葉樹人工林の成林事例についてもほとんど紹介されていないため、目標となるような広葉樹人工林の存在も知られていない状況にある。本調査では、成林した広葉樹人工林の概況を把握するためケヤキ人工林において樹冠サイズ等の測定を行った。

 

調査方法

 調査は、郡上市八幡町のケヤキ人工林で行った。この林分の施業履歴は残っておらず、正確な植栽年は不明であるが、切り株の年輪数から林齢は30年程度と推測された。調査地を設定した斜面(図1)には明治時代に土砂崩れが発生した記録が残っている。
 調査地(約0.26ha)内のケヤキ(73本)の樹高、胸高直径、枝下高、樹冠幅を測定した。樹冠幅は斜面に対して上下左右の4方向について測定した。各方向の樹冠の端から山側の根元までの距離をレーザー距離計(BOSCH GLM500)を用いて測定し樹冠幅とした。

結果の概要

 調査地内のケヤキの平均樹高は18.9mであり(表1)、同程度の林齢の事例(片倉ら1989)とほぼ同程度であった。樹高階分布は18-20mの階級にピークを持つひと山型の分布を示した(図2) 。胸高直径階分布も25-30cmの階級にピークを持つひと山型の分布を示した(図3) 。
 調査林分では、針葉樹の一斉人工林と同様に胸高直径と樹高に比例関係が見られ、枝下高と樹高や胸高直径には関係がみられなかった(図4)。
 樹冠幅の平均値と胸高直径には比例関係が見られ、樹冠幅の広い個体ほど胸高直径が大きくなる傾向が見られた(図5)。このことは、谷口(1998)でも報告されており、同様の傾向が見られた。
 胸高直径の上位20個体の4方向それぞれの樹冠幅の平均値と下位20個体の平均値を比較すると(図6)、すべての方向で上位20個体の樹冠幅の平均値が大きくなっていた。下方向の樹冠幅に比べ上方向の樹冠幅の比率が低い傾向は共通していた。このことは、斜面上側には樹冠を広げにくいことを示しており、密度管理をする際には斜面上方の個体との距離により注意を払う必要があると考えられた。
 ケヤキの胸高直径と樹冠幅については、林分管理の指標となる「樹冠幅管理図」(谷口ら2001)が作成されている。しかし、個体管理をする際に必要な個体同士の競争などに関する情報の蓄積は十分ではないため、今後もデータの収集が必要である。

 

 

図2 樹高階分布

 

図3 胸高直径階分布

 

図4 胸高直径と樹高、枝下高の関係

 

図5 平均樹冠幅と胸高直径の関係

 

図6 胸高直径上位、下位の平均樹冠幅

引用文献

 片倉正行、奥村俊介(1989)ケヤキ人工林の成長.長野県林総研究報告第5号、14-22

 谷口伸吾(1998)針広混交林の造成技術に関する研究(Ⅳ) – ケヤキ-スギ混交林における周囲木がケヤキの樹形と成長に及ぼす影響 – .兵庫森林技研報46、8-12

 谷口伸吾、矢田豊、今井三千穂、石川実、小谷次郎、涌嶋智、西村芳久、前田雄一(2001)ケヤキの樹高と樹冠幅の関係による直径成長の予測.森林応用研究10、89-92

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