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2024年07月20日(土)

「聴く」から「訊く」へ(コミュニティ・コミュニケーション)

<2024.6.10-6.11> クリエーター科2年生向けの科目、「コミュニティ・コミュニケーション」を開講しました。

この科目は、人口減少になった中山間地域が持続していくために、そこに住み続けてきた人や外から入ってくる人など、多様な人々が混じり合う新しいコミュニティのありかたを「コミュニケーション」の視点から考え、探究しようというものです。

外部講師として、岐阜大学教育学部 教育講座 心理学コース 板倉憲正(いたくら・のりまさ)准教授のご協力のもと、2日間にわたる集中講義を開催しました。

今年は、シェアオフィス「WASITA MINO」のコミュニティ・マネージャー 橋元麻美さんにご協力をいただき、美濃市で開講しました。1日目は橋元さん、そして美濃市出身のマッグラー里絵さんにご協力いただき、インタビューの実践をさせていただきました。

今回のインタビューの目的は、コミュニティ支援です。
インタビューがなぜコミュニティ支援になるのか?・・・それは、「一人ひとりが健全であることが、良質なコミュニティの基本」と考えるからです。

「人は誰しも、様々な課題を抱えます。課題を解決するのは大変ですが、それでも一歩一歩前に進むには、自身の強み、すでにできていることに本人が気づくことが大切です」と板倉先生。そのための他者への支援には、周りの人々ができることがあるとのこと。

「それは、”訊く(きく)”ことです」

対話においては、「聞く」から「聴く(傾聴)」という姿勢がは大切です。
板倉先生の示す「訊く」は、より一歩踏み込んで「相手が話しやすいように”きく”」という意味が込められているとのことでした。さらに「訊く」ためには、相手への関心、そして敬意を持つことが大切だということが述べられました。

「図形の問題」「リソース探し」「コーピング・クエスチョン」など、「訊く」練習を事前に実施したアカデミー生たちですが、実際にはやってみないとわかりません。

板倉先生のお手本の後、学生のみなさんもインタビューに挑戦しました。

板倉先生のインタビューを受ける橋元さん

***

インタビューが終わり、
橋元さんからは「楽しかった。もっと聞いてほしかった」、
里絵さんからは「聞いてもらったことで、新しい気づきがあった。元気になった」
という感想をいただきました。

学生のみなさんからは、
「人をエンパワーするコミュニケーションの方法について知り、実践できた」
と、今回の演習について実感を得られたようでした。

 

こうして1日目の講義と演習が終わり、板倉先生からは次のことが述べられました。

「コミュニティ支援には、カウンセラーなど専門家だけではなく、”非専門家”の役割も重要で、できることがあります」

ここに、”コミュニティを支えていくためのコミュニケーションのあり方”、そのヒントがありそうです。

学生のインタビューを受ける里絵さん(左手前)

 


 

<2024.6.11>

2日目は、橋元さん、里絵さんにも参加いただき、講義とディスカッションです。

まず、板倉先生から「コミュニティ形成に必要なこと」と題した講義をいただきました。
「不登校」「家族」「夫婦」「児童虐待」「自傷行為」「薬物依存」「孤立・孤独」などの社会問題から、表面だけでは捉えられない、課題の本質について認識を深めていきます。

こうした社会問題に共通するものとして、「相談する場所がないことが、問題を長期化させる」と板倉先生は指摘します。さらには、「相談件数が増えている。専門家だけで何とかできるレベルではない」とのことでした。

「支える側が誤った見立てをしている場合がある。起きている問題について、個人の自己責任論だけで終わらせてよいのでしょうか?」

板倉先生が示す事例とその本質的な要因から、問題の表面だけでは分からない社会の構造が見えてきます。わたしたちが問題の本質を理解するには、その問題を抱えている人の言葉を聞くことが大切で、そのためには相手が自分が受け入れられていると感じられる「安心できる関係性」を築く必要があると、板倉先生は述べられました。

先に示した社会問題は日本全体で起きていることですが、人口が少ない中山間地域では問題がより顕著で深刻になります。そして人が健全に生活できる地域環境は、その地域の将来に大きく影響します。例えば子育て環境について、板倉先生からは次のような指摘がなされました。

「安心して『子育てがうまくいかない、出来ない』といえる相手、支援者が必要です。カウンセリングルームの一歩先には、コミュニティがある。日常の中で、つながりがある、助けてくれる人がいると、カウンセリングの効果が上がりやすいのです」

互いにSOSが出しあえる関係づくりは、子育てに限らず、様々な人々にとっての”生きやすさ”につながるのではないでしょうか。人口が小さなまちで十分な数の専門家を配置することは困難ですが、「訊く」ことができるコミュニケーション力をもった「非専門家」を増やすことはできるかもしれません。

そして「人と人が支え合う、応援し合うまち」は、多様な人々が互いに認めあえる「生き心地の良いまち」になっていくのかもしれません。こうした観点は、次週に開講した「教育のまちづくり」に直結するものでした。

森林環境教育では「伝える」ことを通して、働きかけた相手の行動変容を目指しています。そして、環境問題などにアプローチするスペシャリスト(専門家)としてだけではなく、森林を抱える地域を育む人にもなってほしいと願っています。

自身と、住む人々が幸せになるために、他者の「光」を見出し、引き出す、「訊く」というアプローチをさらに深めていきたいと感じた2日間でした。

今取り組むべき課題は学校の中ではなく、まちの人々といっしょに学び合うからこそ、多くの気付きや多角的な視点を得ることができます。板倉先生、そしてご協力いただいた橋元さん、里絵さん、本当にありがとうございました。

森林環境教育専攻 小林謙一(こばけん)