【‘24夏 木工事例調査②】宇納家具工房
木工事例調査1日目の午後は、京都府京北にある宇納家具工房を訪問して、代表の宇納正幸さんにお話を伺いました。
宇納さんは、主に椅子やオーバルボックス(曲木の小箱)などのシェーカー家具と呼ばれる家具を製作しています。シェーカー家具とは、19世紀にアメリカで発展したキリスト教団体・シェーカー教の信者たちが自給自足に近い生活を送るなかで生み出した、シンプルで実用的な家具のことです。その特徴は、簡素であること、軽量化していること、彫刻的な表現はせず、平面的である一方で、その美しい佇まいは、時代を超えて高く評価されています。
到着すると、まず最初に工房を見せて頂きました。工房では、現在修理依頼を受けている椅子のフレームが綺麗に並べられていました。宇納さんが椅子に使う材料は、アメリカで作られたオリジナルのシェーカー家具と同様に、主にメープルを使っています。しかし、メープル材の入手が困難だった頃は、同じカエデ属のヤマモミジ、トウカエデを混ぜて作ったこともあったそうです。色合いがほとんど同じなので材料にした時に見分けがつかず、わかりやすいように一つ一つにクレパスで色をつけるのが大変だったそうです。
次に、椅子の脚を作るための挽物(ひきもの)の道具を見せて頂きました。写真のローラーが3つ付いたパーツは、刃物を当てた時に棒が振れてしまうのを抑えるために使うものだそうです。このような補助具(治具)は、市販されているものもあるのですが、宇納さんは使いやすいように改良したり、パーツを付け替えたりして工夫をされるのだそうです。
次にオーバルボックスの作業スペースを見学させて頂きました。宇納さんは、材料の木目は全て柾目挽きの物を使用しており、そのために材料のメープルを丸太で購入し、特注で挽いてもらっているのだそうです。
「オーバルボックスは木取りの段階でしっかりと見極められると80%は完成ですよ。」と宇納さんはおっしゃいます。それほどまでに、材料の見極めが難しく、曲げに適さない材料では、オーバルボックスを作ることはできないのだそうです。そのため、椅子の材料をとっている時でも、綺麗な木目があればオーバルボックス用に取り分けているのだそうです。
工房見学の後、ご自宅にお招き頂き、京北で工房を構えるまでのお話を伺いました。宇納さんは、インテリアデザインの勉強をした後に、丸太から家具を作り生活するライフスタイルに憧れて就職先を探した際、その工房がシェーカー家具を作っていたのだそうです。その後、北海道の余市にあるアリスファームに移り、オーバルボックスの開発に携わります。しかし、当時は加工方法などの情報も少なく、製品としての完成には至らなかったそうです。その後、渡米して、ジェームス・クレノフさんや、デニス・ヤングさんなどの工房や各地のクラフトフェアを訪ね歩き、多くの刺激を受けて帰国。その後、しばらくしてアリスファームからシェーカー家具を引き継いで製作して欲しいという依頼を受け、本格的にシェーカー家具の製作を始めることになったのだそうです。
宇納さんのお話をお聞きする中で「機械だけでもの作りをすると、責任を機械に預けていることになる。機械まかせでは気づかないことも、手作業でやることで失敗もわかる。そこが一番おもしろいところかもしれない。」という言葉がありました。工房で見せて頂いた治具の中には、夜通し考え続けて朝方に思いつき完成させたものもあると、嬉しそうにおっしゃっていました。また一方で「木工作家と言われるのも小っ恥ずかしいし、かといってプロダクトデザイナーと言われるのもちがう。しっくりくる言葉が見つからない。」ともおっしゃっていました。宇納さんのお言葉に、もの作りに対して真摯に向き合う姿勢と工夫する大切さを学びました。
宇納さんは9月に共同編集されたシェーカー家具の本を出されるそうです。こちらには、シェーカー家具の作り方についても載っているということで発売がとても楽しみです。私達も、ここでの学びを今後の活動に活かしていきたいと思います。このような機会を頂き、誠にありがとうございました。
宇納家具工房 https://www.unoh.jp/
レポート:森と木のクリエーター科木工専攻 1年 ベケット・リンド 2年 矢持達也