活動報告
最近の活動
月別アーカイブ
2024年07月16日(火)

【‘24夏 木工事例調査①】スーパー生木ラボ

 木工やものづくりの事例見学をする木工事例調査。今回は1泊2日の行程で、滋賀県、京都府、大阪府へ行ってきました。その時の様子を森と木のクリエーター科木工専攻の学生がレポートで紹介します。

 木工事例調査1日目の午前は、滋賀県米原市にあるスーパー生木ラボを訪問しました。工房を案内してくださったのは、代表の鈴木孝平さんです。鈴木さんは生木(製材乾燥する前の、伐採してから日数の経っていない水分を多く含んだ木材)を用いて食器やカトラリーをはじめとする、様々な生活用具を製作されています。

工房内にて代表の鈴木さんにお話を伺う

工房内にて代表の鈴木さん(右)にお話を伺う

鈴木さんは、もともとは地域おこし協力隊として京都府から滋賀県に移住され、移住当初は自伐型林業に従事していたそうです。伐採した丸太を木工製品にするには、通常は時間のかかる「乾燥」という工程が必要です。しかし、地域おこし協力隊としての任期も限られる中で、伐採した木材で短期間に収益を上げていくにはどうすれば良いのかと考えた末に、「生木のままでは使えないのだろうか?」と思い至ったのだそうです。

グリーンウッドワークとは、生(green)の木(wood)から生活用具を製作する木工(work)のこと。鈴木さんは地域おこし協力隊の任期終了後、キャンプ場や営農組合でお仕事をする傍らグリーンウッドワークを続け、徐々に現在のお仕事へ移行されていきました。

製作物の数々①

作品の数々

工房で使われている作品

工房で使われている作品

 木材の調達は、地元の業者で買い付けをされたり、地域おこし協力隊時代に知り合った仲間から譲っていただいたり、私有林の整備をした際に出た木材を、許可を得て分けて頂いたりと、その都度出てきた木材を集めストックしているそうです。地産地消という言葉がありますが、鈴木さんの活動はまさにその言葉通りで、地域で伐られた木が、その地域に住む人の手によって付加価値が付けられていく、とても良いシステムになっているなと感じました。

そのような木材の調達をされているため、鈴木さんは、製作に使う樹種には特にこだわりがないとのお話が印象的でした。針葉樹や広葉樹に関係なく、木材にどういった付加価値を付けられるかが鈴木さんの課題であり、それを解決することが山の資源を無駄なく活用できる良い方法の一つだとおっしゃっていました。常に感謝と敬意の気持ちを持って製作活動されている鈴木さんの姿は、学生としても見習うべきものだと思いました。

工房前にある、集められた丸太

工房前にある、集められた丸太

 鈴木さんの作品が売れるようになったきっかけの1つに、飲食店の知り合いを通じて食事会兼展示会を開催したところ、お店のファンだったお客様に作品をご購入頂き、2日間でかなりの収益を上げられたそうです。この事をきっかけに、「作品作りで生活をしていけるのではないか」と考え、その後の製作活動に熱が入ったそうです。鈴木さんのお仕事の売上は商品販売とワークショップ体験が主となるそうですが、オンライン販売が多様化している時代にあっても、実際に見て・触れて・製作者とお話しして購入する方の割合が圧倒的に多いとのお話を聞き、プロモーションも大切な戦略の一つだと改めて感じました。

 最後に、器作りのデモンストレーションを見せて頂きました。今回は木工旋盤に使用する刃物(ガウジ)の研ぎから始まり、直径30センチ大のムクノキの塊からサラダボウルを挽く様子を見せて頂きました。鈴木さんの刃物の研ぎ方は、アカデミーで学んだ研ぎ方とは異なり、すでに木工旋盤を履修済みの2年生や教員からも驚きの声が上がっていました。

実際に挽き始めると、ものの数分で器が完成し、そのスピードに圧倒されました。また、私達に見せたいものがあると持ってきて下さったのが、大きな木の壺でした。学生全員が順番に手に取って見せて頂いたのですが、圧巻の大きさと重量感にまるで赤ちゃんを抱いているかのような姿勢になりました。壺のように中心を深く大きく切削したいときには、既製品の刃物では届かない部分があるため、自ら道具を改造する工夫も見せて頂きました。アカデミーで学ぶ内容は基本中の基本であり、将来自分が何を製作するかで、使う道具も発展させる必要性を学びました。

直径30センチ大の木材を挽く

直径30センチ大のムクノキを挽く

大きな木の壺を抱く学生

大きな木の壺

 生木は製材されていない分、その表情(木肌、質感、色)は様々で、加えて鈴木さんのおおらかで、初対面の私達にも、気さくにお話しして下さる人柄が、作風にも現れているような気がしました。今後については、身近な木材を使って生業とする人を増やすための活動を考えており、YouTubeやオンラインサロンを活用して、ご自身の活動を多様な角度から発信することに尽力していくそうです。

 今回の調査では、常に笑顔を絶やさずお話ししてくださった鈴木さんから、木工に携わる上での大切な視点を学びました。この学びを今後の活動に活かしていきたいと思います。ご対応いただきました鈴木さんに感謝いたします。ご多忙の中、貴重なお時間を割いていただき、本当にありがとうございました。

 

レポート:森と木のクリエーター科木工専攻2年 若田拓也 / 1年 浅野由佳梨 橘明広