【アニュアルレポート2023】高知林業大学との木造建築合同研修
高知林業大学との木造建築合同研修
准教授 松井匠
目的
県土の森林率が一位である高知県は、木材利活用の観点から人材教育機関に木造設計コースを設置し、林業とつながりを意識した設計者の育成を行なっており、森林文化アカデミー木造建築専攻では、高知林業大学の木造設計コースとの合同研修を2022年度から実施している。森林率二位の我が県、及び本学と同じコンセプトで設置された高知林大と連携することで、学生と教員が一年毎に高知と岐阜を行き来し、気候風土や地域性の表れた優れた建築の見学、お互いの学びを高め合う合同ワークショップの開催を通し、その時その場所ならではの深く多層的な学びの機会を得ることができる。
概要
参加者は、本学建築専攻8名と教員3名、高知林大木造設計コース学生7名と教務課2名+ティーチングアシスタント1名の計21名である。
今回の研修は高知県で実施した。研修の舞台は一年毎に交代しており、2年制の本学学生は、高知と岐阜の両方での研修を体験できることになる。主な内容は「県内の優れた木造建築の見学」と「合同設計ワークショップ」である。
■高知県内の優れた木造建築の見学(2023年12月11日-19日)
・かたつむり山荘(長岡郡大豊町葛原73−1)山本長水(風憬舎改修)設計
溝渕氏説明.。放射状の垂木が特徴の上質な山荘(住宅特集1999-11P65)
・大豊学園(長岡郡大豊町中村大王1057)艸建築工房 設計
横畠氏説明。CLT貫構造と登り梁+方杖の17mスパン(新建築2023-4 P90)
・高知林業大学校(香美市土佐山田町大平)細木建築研究所 設計(CLT工法)
・高知駅(高知市栄田町)内藤廣建築設計事務所 設計(木造耐火建築物)
・桂浜公園 本浜休憩所(高知市浦戸)上田建築 設計(RC造+木質化)
・道の駅なかとさ(高岡郡中土佐町久礼8645ー2)
・美馬旅館(高岡郡四万十町本町4-41)相坂氏、松崎氏説明
県産材の小径木を有効利用、WOOD DESIGN賞 建築設計群無垢 設計
・清水高校武道館(土佐清水市加久見893−1)上田建築 設計
重ね梁による屋根架構と木造フライングバットレス(新建築1996-12 P247)
・海のギャラリー(土佐清水市竜串23−8)林雅子 設計
黒井氏説明。鉄筋コンクリート折板構造、国の登録有形文化財
・宿毛商銀信用組合(宿毛市宿毛5511) 艸建築工房 設計
11.4mスパンをCLT210mm+張弦梁(スチールM27)で無柱空間
・宿毛まちのえき林邸(宿毛市中央3-1-3)早稲田大学建築学科古谷誠章研究室
林有造邸を保存復元したコミュニティスペース(新建築2019-3 P80)
・UETA LABO(須崎市桐間西95)艸建築工房 設計
高知県産ヒノキのCLTパネルで三角形の建物(新建築2022-10 P132)
・梼原町町役場(高岡郡梼原町梼原1444−1)隈研吾都市設計事務所 設計
・高知県立牧野植物園(高知市五台山4200)内藤廣建築設計事務所 設計
・竹林寺 納骨堂・本坊(高知市五台山3577)堀部安嗣建築設計事務所 設計
竹林寺・海老塚氏(代理)案内
見学先は、開催地となる学校がコーディネートする。今回は高知林大の教務課が、各物件の関係者も同席するように調整してくれたことで、専門的な解説付きの見学が実現し、学びが深まった。地域ごとに異なる木造建築文化に触れてから、この後の設計ワークショップに臨むことが肝要だ。
■合同設計ワークショップ「檮原町移住定住空き家改修設計ワークショップ」(2023年12月15日-18日)
合同設計WSは、学生がお互いの知見を発揮して学び合える貴重な機会である。成果物の完成度はもちろん、相互に刺激し合うプロセスも大切なため、WSでは教員による事前の段取りが重要になる。
設計WSは架空の物件ではなく、実際に存在する設計案件に学生が入っていくことが最も大切で、そのために案件探しから始まる。今回は、高知林大の教務課に調整をお願いし、檮原町のメインストリートに隣接した空き家を移住用に改修提案する運びとなった。クライアントは檮原町まちづくり推進課で、町内に3泊4日してヒアリングから調査、設計を行い、プレゼンをする。
1、学生のグループ分け
1グループにつき1つの提案となるため、プレゼンを聞く側のクライアントの負担も考慮し、多すぎないよう4つのグループとし、本学学生8名+高知林大学生7名の計15名の混合構成で3-4人のグループとした。
2、クライアントへヒアリング
檮原町まちづくり推進課の移住定住コーディネーターである片岡氏にヒアリングを実施。町としての移住定住に対する思いや現状の課題、空き家改修事業のスキームと改修費に充てることができる工事費(845万円)も聞き取った。
3、現地既存木造家屋調査・実測
既存改修の設計では先ず調査が必要なので、現況の実測野帳作成と同時に劣化診断を行った。今回の物件は南側道路と北側檮原川に挟まれた木造二階建て住宅で、川に向かって傾斜した敷地となっている。北側にはRC造の増築部分があり、基礎RCの立上り部に亀裂が確認されるなど、構造指導担当の小原教授からはそれらを加味した設計条件が提示された。実測野帳は作成を経験している本学2年生に構造図を分担し、初めて野帳を描く高知林大の学生は平面図など学びが
多く難しくない図面を担当させ、過不足なく一式仕上げることができた。
4、グループで設計検討
実測野帳と設計条件を共有し各グループに分かれて設計を開始した。話し合いでコンセプトを練るグループや、各自が一案ずつ出してみるグループなど各々違ったアプローチで、各自の役割分担もされていた。
5、教員からの中間チェック
2日目の昼頃にグループごとに教員向け中間プレゼンを実施。改善点や方向性の確認を行った。学生案は「思いついたことの寄せ集め」になりがちなので、建物全体、町全体で判断するようにアドバイスする場面が多くみられた。
6、梼原町(クライアント)へのプレゼン
18日の午後から、隈研吾設計の檮原庁舎の議場で、まちづくり推進課の方々や檮原町教育委員長へのプレゼンを行った。各グループがスライドを準備し、コンセプト、性能、意匠、事業としての在り方につながる提案がされた。特に、移住者の属性を「林業家」「木工WSをする人」など詳細に設定することで、空き家対策と同時に町の活性化を図れる人材確保に寄与する案や、当該物件は敷地内に駐車場をつくるのが難しいため、町で空き地を準備して「みんなの駐車場」とすることで移住者の負担を軽減できるなど、視点を広く持った案が提案された。まちづくり推進課の担当からは「空き家改修は工事にかけられる予算が小さいため水回り改修ばかりになりがちだが、+αの提案があり非常にためになった。このまま設計をお願いしたい」と激賞され、プレゼン資料を後ほどデータ納品した。
7、教員からの講評
全てのプレゼンが終わったあと、専門家である教員からの講評をメールで共有した。
以上で合同研修のプログラムとしたが、想定していなかったメリットも見つけることができた。事前に設計条件が明かされない課題で、調査を含めて正味2日半程度しかない設計期間だったが、成果物の練度はそれなりのものになっており、本学学生を中心に集中した作業を行ったことが窺え、実測野帳作成時は、短時間で図面にする必要があることを自覚し、指示を待たずに自分で考えて行動し、良い図面をつくろうとしている様子が見てとれた。これは普段の授業よりも高い集中力とモチベーションが発揮された形で、他校の学生と切磋琢磨することで熱意やパフォーマンスに相乗効果があることを、はっきりと感じることができた。今後も他校との合同研修を積極的に行っていきたい。
教員からのメッセージ
スキルは授業で教えることができますが、学生各自のモチベーションや好奇心は、他者には教えることができません。ただ、機会を与え、その機会に導き、熱意が生まれるときを待つことはできます。今回の合同研修では学生自身の旅の疲れも意に介さない集中力を垣間見ることができました。他者との協働が学びに与える影響が大きいことがわかり、合同研修の意義が確認できました。
活動期間
2023年〜
連携団体
・高知林業大学
活動成果発表
・高知県高岡郡檮原町まちづくり推進課、教育委員長へのプレゼンテーション
・森林文化アカデミーHPで活動報告
関連授業・課題研究&関連研修
・木造建築の総合デザイン演習(Cr)
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