山岡 直樹 ~技術者として治山事業をとおし健全で豊かな森林をイメージする~
技術者として治山事業をとおし健全で豊かな森林をイメージする
プロフィール
1978年生まれ 岐阜県出身 森林文化アカデミー6期生
林野庁 中部森林管理局 勤務
大学卒業とともに岐阜県内の建設コンサルタントへ入社。4年間、治山・林道事業の測量設計に従事。森林・林業についてもっと現場レベルでの知識・技術を身に付けたいと思い会社を退職、森林文化アカデミーへ入学。卒業後、林野庁へ入庁。以降、国の直轄治山事業に従事。
質問1)今の仕事内容を教えてください
現在は長野県伊那市にある南信森林管理署に勤務し、南アルプス、中央アルプス、八ヶ岳山麓を管内とする国有林内で直轄治山事業の実施に従事しています。豪雨や台風などにより発生した山腹崩壊地や荒廃渓流に、治山ダムや山腹工を計画し工事を発注、監督員として現場の管理も行っています。入庁間もないころは監督員として現場に出ることが多かったですが、現在は監督の傍ら、事業の全体計画の立案や関係機関などの外部対応が多くなっています。
質問2)今の仕事で「キツイな~」と思うこと、やりがいに感じることを教えてください
入庁1年目の平成20年9月、東北地方を中心に山間部で大きな被害が生じた岩手宮城内陸地震の復旧応援として、岩手県の森林管理署へ異動を命ぜられました。入庁してわずか半年での異動であり、まだ新人の自分にいったい何ができるのか不安でしかありませんでしたが、コンサル時代の知識をたよりに災害の復旧事業に約1年従事しました。復旧の道半ばでの帰任となりましたが、その後の進捗を見聞きし復旧・復興が進んでいることを実感すると行って良かったとやりがいを感じました。
一方で現在、組織として業務を進める体制を見ると、ベテラン技術者が退職等で減っている中、若手職員に技術や知識を確実に継承していくことが急務となっています。私はちょうど橋渡し的な世代になりますが、最近はいわゆるZ世代と呼ばれる若手とのコミュニケーションに難しさを感じたり、思いをうまく伝えられないことなどがあり正直キツイなと感じることがあります。
質問3)今の仕事を通して社会にどんな貢献をしていると感じますか?
近年頻発する土石流や山腹崩壊などにより下流域の安心が脅かされるようになってきています。それら危険の発生源で森林土木工事として対策を行っているということに、使命感と重要性を感じています。
質問4)森林文化アカデミーに入ったきっかけは?
コンサルで測量や設計の仕事をしていた時は激務が続き、これを続けながら今後の自分の幸せな人生を描くことは無理だと思っていたので、どこかで方向転換の舵を切る必要があると感じていました。それと同時に受注者として仕事をする立場ではなく、発注者として政策や計画に携わりたい、それも専門的な技術と知識を持った技術者として、という思いが強くなりました。そうであれば近くに森林・林業に関してもっと深く広く学ぶことができるアカデミーがあるではないか、と思い入学に至りました。
質問5)アカデミーで得た学びは何ですか?
川上から川下まで見るだけでなく実際に経験するという機会が多くあり、森林・林業に関して広い視野で俯瞰することができるようになったと思います。ただ単に「知っている」や「見たことがある」だけではない、さらにそのバックグラウンドまで学べたことは、行政としての仕事をしている中で重要な土台として活かされていると思っています。
質問6)アカデミー入学前の仕事が、今に活きていると感じることはありますか?
主に机上で図面を書く仕事から現地で施工管理を行う仕事に変わったわけですが、施工をするうえでなぜこの場所で、どうしてこの構造でといった設計思想が理解できるので、前職で培った知識や経験は非常に活かされています。
質問7)今の仕事をしていく上での「モットー」。これからこの道を目指す若者へのメッセージ
治山事業というのは現場だけを見れば山や谷の中に人工構造物を建設する森林土木工事です。しかし、その真の目的は構造物をきっかけに土砂の移動を止め、安定した土壌を造成し、豊かな森林を復元することにあります。時折、深い森の中で遠い昔に設置され地山と同化した石積みや筋工などを見つけることがあります。このような構造物を見ると、森林の造成という目的をしっかりと果たしていると実感し感激します。
私が今の仕事をする中でモットーとしていることは、今自分がやっていることの真の目的を見失わずいつも意識するということでしょうか。構造物の設置、工事の完了という目先の目的に集中するあまり、その背景にある森林の造成という意識が失われていないか。豊かな森林をイメージし、そのために必要となる森林土木工事を行う。この意識を常に持ちながら仕事をすることを心掛けています。それを実現するためには、森林土木の知識だけでなく森林生態系や林業の構造を知っておくことも必要でしょう。つまり、技術者として森林、林業全般に関するオールラウンダーであることが重要であると思っています。そして、アカデミーはそれを学ぶことができる環境が整っていると思います。
国有林(林野庁)は行政機関の一つとして事務職中心のお役所仕事というイメージを持たれているかもしれませんが、まったくそんなことはありません。広大なフィールドへ出て技術と知識を如何なく発揮できる現場実践主義のお役所、そう思ってもらって興味がある方は是非門を叩いて欲しいです。