資源は自然、そして人(ローカルビジネス3<現場から学ぶ>)
<2024.1.29> 森林環境教育専攻の「ローカルビジネス3<現場から学ぶ>」実施しました。
第2回目の現場は下呂市。216worksさんの「小坂の冬の滝めぐり」を通して、ローカルビジネスとは、を学びます。
この日、ガイドを務めていただいたのはお二人。
米野孝斎(こめの・たかなり)さんは、216works立ち上げ時からのメンバーです。
そして洞将太(ほら・しょうた)さんは登山ガイドとして、またネイチャー・フォトグラファーとして全国で活躍されています。
米野孝斎さん(写真・左)/洞将太さん(写真・右)
アカデミーを早朝5:30(!)に出発して、朝8:00に216worksさんに到着。
ここから車で1時間弱移動。車を停めて装備を準備し、「道なき道」を雪山の中へ出発します。
往復約5時間かけて、この季節だけしか見られない氷瀑を見て、戻ってきました。
氷爆に対面して感動する学生たち(写真提供:洞将太さん)
冬の滝めぐりは楽しい!・・・でツアーは、終わるところですが、講義としてはここからが本番です。
ツアーを終わったばかりの学生のみなさんのふりかえりでは、
・ツアー中の安全管理
・ガイドの参加者への配慮
・トレールの計画、管理
・ガイドのスキル
など、それぞれがツアーを通して勉強になった点が共有されました。
「自然の中に入るツアーは、楽しいがリスクも高い。一度の事故で、二度とできなくなるので細心の注意をしています。複数のガイドの班で動くので、下見やツアーを通して気づいたことは、些細なことでも共有しています。コミュニケーションが大切ですね」
という米野さんのコメントに続き、ローカルビジネスとしての216worksさんの取り組みを伺いました。
もともと小坂では、地元の方々が立ち上げたNPO法人で保全活動や滝めぐりのガイドツアーを実施しています。代表の熊崎さんも米野さんもこちらでガイドもされていましたが、5年前に熊崎さんが合同会社を立ち上げ独立。その後、米野さんも合流しました。
「NPOと法人(合同会社)は両輪なんです。どちらかが倒れると成り立たない、という関係」
地元の学校への教育事業など、非営利事業はNPOで。そして収益事業は合同会社と、地域内で役割を補完し合っているそうです。会社独立後も、二人は理事としてNPOに参画されています。
熊崎さん、米野さんはどちらも地元出身でUターンされました。会社を立ち上げた経緯は、地元で働く若い人を育てるためだったとのことでした。
会社をつくったことで、熊崎さんは地域以外の仕事も手がけるようになります。
「いわば”出稼ぎ”ですね。地域の中だけで完結することは理想ですが、現状、地域で雇用を続けていくには必要なことなんです。また、広く外の動きを知る意味でも重要だと思います」と米野さん。
「地元をHAPPYにする」を基本理念に、216worksさん下呂市、その小坂地区のことを意識して事業を行っているといいます。
例えば、この日のランチは地元のパン屋さんが用意してくれたものでした。保温ポットに入っていて、冬山での温かなスープはとても美味しかったです。
「保温ポットを返しに行く時、今日のお客さんのことなど、パン屋さんとお話をします。パン屋さんはその話を、地域の人にしてくれる。こうして自分たちの活動と、地域の人たちをつないでいます」
小坂は良質な温泉で人気の宿もあります。216worksさんのツアー参加者が地元の旅館に泊まるという、着地型観光にもつながっているそうです。
「おさかのパン ひこまさ」さんのパンランチをいただく
こうして着実に事業を定着させていった216worksさんですが、2020年からのコロナ禍の影響は大きかったといいます。しかし、これをきっかけにツアーのあり方も変えていったそうです。
「冬の滝めぐりは、参加費を見直し、少人数制にしました。結果、売上は変わらず、お客さんとのミスマッチがなりました」
冬の森に入るツアーは、服装や体調管理など、参加者側の十分な理解と準備が必要となります。それがきちんと伝わらないと、リスクにもなります。事業側も運営が大変だったそうです。
コロナ禍で催行が少人数となり、顧客ときめ細かいやりとりができるようになったことで、ミスコミュニケーションがなくなったそうです。参加費はあがりましたが、逆に顧客満足度は上がったそうです。そして満足度が高い顧客が、SNSに発信することで、それを見た新規顧客の獲得につながる、といったサイクルが生まれているとのことでした。
森林空間を活用したレジャーには「伸び代がある」と感じる一方、米野さんからは、
「人を育てるのは時間がかかる。一朝一夕ではガイドはできない。
自分たちで終わっては意味がないので、人を増やす、人を育てるのがこれからの課題」
という、ビジネスを回すことと人材育成のバランスの難しさをうかがいました。
要所要所で森の魅力を伝える米野さん
洞さんは、山のガイドになりたいと、仕事を辞めて新潟のi-nac(国際自然環境アウトドア専門学校)に就学されました。その時のインターンシップ先で216worksと出会い、今でも定期的に小坂で”助っ人”をされています。
全国の様々な場所で活躍される洞さん。ネイチャー・フォトグラファーとしてテレビなどの仕事も多忙ですが、御嶽山、そして小坂の滝には愛着があるといいいます。
「好きなところは、写真や映像に残したい。そこは、一番時間をかけていることろです。
時間をかけると、ますます好きになります」
「その場所が好きということは、熱意が持てる場所だということ。熱意がガイドや写真など、ビジネスにもつながっています。他の場所でやろうと思っても、できないですね。自分の素直な気持ちでしか動けない」
そして、216worksは自分のスタイルでガイドができ、居心地がいい、と洞さんは言います。
「くまさん(代表の熊崎さん)に言われたことがあったんです。<自分なりのガイドでいい>、と。お客さんもいろいろあるし、そこを大事にしてあげようと言われて。あまり無理せず、自分のスタイルでやっています」
安全を確認しながらガイドをする洞さん
「ガイドのキャラが違うし、ガイドによってツアーの雰囲気は変わります。資源は自然であり、人です。そこにファンがつきます。こういう循環が、”地域が長持ちする”という秘訣なのでは、と思います」
という米野さんに、最後に「ローカルビジネスとは?」を質問しました。
「”自分がローカルに溶け込んでいる密度”ですかね。地元に住む、地元にコミットする――地元に溶け込んでいる濃度によって、やれることのパファーマンスが違ってきます。自身の愛着とそこから生まれる熱意、それがローカルビジネスの原動力ではないでしょうか」
自然体験プログラムの実践も学ぶ、森林環境教育専攻のみなさん。
帰路のふりかえりでは、プロガイドのスキルに感動しつつ、ツアーの発着場所への往復の途中で、米野さん洞さんそれぞれと、人生観やご自身の自然とのつながり、そしてキャリアの話など多岐にわたりじっくりと話を聞けたことがとてもよかったという感想が全員からあがっていました。
また「ガイドの個性を尊重している」という話には、大きな組織で働いた経験がある学生には驚きだったようで、法人のありかたそのものもインパクトがあるものだったようです。
アカデミー生のふりかえりを聞いて、「学びは人と出会うこと」だということをあらためて実感しました。貴重な機会をいただいた、216works 熊崎さん、そして素敵なガイドとお話をいただいた米野さん、洞さん、ありがとうございました。
(森林環境教育専攻 小林(こばけん))
(写真提供:洞将太さん)