木工事例調査R6冬③ 匠頭漆工
木工や素材生産などの事例見学をする木工事例調査。今回は1泊2日で富山県と石川県に足を運びました。その時の様子を、学生のレポートでご紹介いたします。
木工事例調査2日目の午前中は、石川県加賀市の「株式会社匠頭漆工」さんを訪問し、お話をうかがいました。木地師である久保出貴雄さんにご対応いただき、作業工程や木地の乾燥方法、仕上げ挽き、塗装方法などについて説明していただきました。
日本の伝統工芸である山中漆器は、分業制で多くの職人の手を経てつくられます。匠頭漆工さんでは、粗挽きされた木地を乾燥し、仕上げ挽きで器を形作る工程、塗装を担っています。
まず、工房内の乾燥機を見せていただきました。乾燥機には1,500個もの木地が積み上げられ、冬場には2週間程度乾燥させたのち、仕上げ挽きをします。山中漆器は「縦木取り」という丸太から切り出す方向に特徴があり、直径1mくらいの木材から芯の部分を避けて木地を取ります。縦木取りは木が歪みづらいという長所がありますが、器の底の面が割れやすくなるため、縁は薄く、底を厚めに挽く特徴があります。使用される材はケヤキ、ミズメ、トチ、サクラなどが多く使われますが、径の大きい材が必要なため、人気があるサクラはなかなか手に入らないとのことです。時代により、好まれる材も変わり、材の確保の難しさ、大切さを改めて実感しました。
つぎに、仕上げ挽きの工程を見学させていただきました。同じデザインを大量に成形できる鉄鋼旋盤を使用して、あらかたの形を挽き、最後に職人の方が仕上げ刃物できれいに整えます。職人の方にお聞きしたところ、1日に100から150個は仕上げるとのことで、熟練した手さばきで各工程を担当されていました。また、使用する刃物も樹種に応じて形状や研ぎ方を変える工夫をされていることもご説明いただきました。
塗装については、伝統的な漆塗装だけでなく、木の素材感をできるだけ活かすため、研究を重ねられて辿り着いたナノグラスコーティングも使用されています。山中漆器では、伝統的に塗装工程も分業制になっており、下地処理の上に漆を数回塗布しますが、匠頭漆工さんでは、塗装工程も自社で行うことができ、『「木」は人間と同じ。一つとして同じものはない。』という理念のもと、様々な塗装方法により商品を仕上げられています。形は同じでも、塗装の違いにより、木の良さがさらに際立つと思いました。
匠頭漆工さんでは、木地師として山中漆器を支えるだけでなく、木の自然素材としての魅力を伝え、木地師の仕事内容を多くの人に知ってもらうために、2018年から自社ブランドを展開されています。工房に併設されたショールームには伝統的な漆器から現代的なデザインや塗装の商品まで数多く展示されており、手に取って見ることができます。自社ブランド商品のデザインは、自社で考え、製作されています。そのうち「IPPONGI」という自社ブランドのワイングラスについて、数種類のデザインの違いや製作過程での課題改善などをご説明いただき、独自に一つの商品を作り上げることの難しさや意義を感じました。
最後に、伝統工芸としての山中漆器を受け継いでいくとともに、新たな取り組みによりさらに伝統工芸の幅を広げていくことの重要性をお聞きしました。多くの伝統工芸で職人不足が問題となっている現状を多角的に考えるきっかけをいただきました。
ご多忙の中、お時間をさいて丁寧に対応していただき、本当にありがとうございました。
文責 森と木のクリエーター科木工専攻1年 横井清、増岡拓弥