シデコブシやハナノキ自生地の保全について学ぶ
里山は,人が手を加え続けることで長期にわたり維持され続けてきた半自然環境です。人と自然との距離が離れつつある現代では,かつて里山であった環境は姿を変えつつあり,そこに生息・生育する生物たちは絶滅の危機にさらされているものも多く存在します。クリエーター科の実習「里山の自然とその保全」は,そんな里山に生息・生育する生物を観察したり,その利用や保全について現地現物主義の元で学ぶ実習です。
5月には,この実習で東海丘陵要素植物群植物群の自生地を見学に行ってきました。前回は植物そのものを見学してきたのですが,今回はその保全方法について学びました。
午前中は,多治見市の市有地で,私(教員の玉木)が10年以上前から,市民や市役所と一緒にシデコブシやその生育する湿地植生を保全している現場を見学しました。ここは,11年前にシデコブシも含めて皆伐して萌芽・実生更新で再生してきている場所です。
保全対象のシデコブシも伐るの?と驚かれるかもしれませんが,かつての里山利用の中では,シデコブシも伐採して燃料として利用されていました。里山の樹木の大半は伐採しても萌芽再生します。シデコブシも同じで,約96%が生存して萌芽更新します(Tamaki et al. 2021)。萌芽更新させてやることで,傾いてしまったシデコブシの樹形を整え直すこともできます。シデコブシは美しい花を咲かせるので,それを楽しみにしている人もいます。そのため,伐ってしまったら,いつまで待てば花を楽しめるのかというのは,とても重要な情報です。こちらについてもちゃんと調べており,全てが全てではありませんが,3割ほどの個体は,2年目の夏には花芽をつけ,3年目の春には開花します(Tamaki et al. 2018, 2021)。また,シデコブシも含めて皆伐することで,林床が明るくなり,実生更新も促すことができます(玉木ら 2014)。
保全対象も含めて伐採してしまうというのは,一見,乱暴なように見えますが,場合によっては理にかなったものにもなります。もちろん,全ての場合に有効というわけではなく,前生稚樹が残っている場合は,それを残して伐採したほうが良い場合もありますので,ケースバイケースで選択してもらえば良いと思います。
午後からは,同じ多治見市内の別のシデコブシとハナノキの自生地に移動し,市民や市役所職員らとともに保全のための作業をしてきました。この自生地では,10年以上前に発芽したハナノキの稚樹や,それよりももっと前からヤブの中で細々と生存しているシデコブシの前生稚樹が多く生育しています。ここでは,自生地の環境を維持するために,受光伐やササ刈りを毎年行っています。それらの作業に集中していたため,残念ながら写真を撮りそびれてしまいましたが,良い汗を流すことができました。
「里山の自然とその保全」の授業はこれで終了となりますが,今回も含め一連の授業で得た学びを,今後の各自の自然保護活動に活かしてもらえると良いなと思います。
准教授 玉木
- Tamaki I, Nomura K, Nomura R, Tate C, Fukaya S, Niwa H, Ando K, Yabe Y (2021) Survival, growth and reproduction of sprouted individuals of star magnolia two years after clearcutting. Journal of Forest Research 26: 26–31
- Tamaki I, Nomura K, Nomura R, Tate C, Watanabe C, Miyakami Y, Yabe Y (2018) Evaluation of a field experiment for the conservation of a Magnolia stellata stand using clear-cutting. Landscape and Ecological Engineering 14: 269–276
- 玉木一郎・野村勝重・野村礼子・楯千江子・小木曽未佳・宮上佳弘 (2014) シデコブシ自生地の皆伐後1年目の萌芽・実生更新. 日本森林学会誌 96: 193–199