谷 祐樹(たに ゆうき)
猛禽を追い続けてここまできました
プロフィール
1995年生まれ。岐阜県岐阜市出身。高校一年生の時にハンギング(停空飛翔)するイヌワシを観てしまい猛禽類(ワシやタカなど)の虜になる。大学卒業後の2017年に岐阜県立森林文化アカデミーに入学、森林環境教育を学ぶ。卒業後は環境アセスメントの猛禽類調査を生業とし、2021年夏より憧れだった北陸鳥類調査研究所の専属猛禽類調査員の職に就く。
質問1)今のお仕事の内容は?
道路やダムなど開発事業の計画段階で、環境に重大な影響を及ぼさないようにするため事前に自然環境の調査をするのが環境アセスメントです。私はその中でも猛禽類を調査しています。調査によって得られた様々な情報から、彼らが今どこで何をしているのかを探っていくのです。単に猛禽類を発見、同定、個体識別するだけでなく、彼らの声なき声を正確に代筆する観察力、知識が求められるため、毎日が勉強です。
質問2)仕事をこなす上で大変なことは何ですか?
自分の推しである猛禽類の調査であれば、大変と感じたことはないです。しかし、そうでない猛禽類ですと、道のない山を長時間かけて徒歩で調査地点まで重い荷物を背負って行ったり、酷暑や雨、風と戦いながら調査する時はちょっぴり辛く感じてしまうこともあります。
質問3)仕事のやりがい
何よりも猛禽類を守れた時に最もやりがいを感じます。事業予定地内の営巣地を特定して報告した結果により、事業予定を変更していただけた時の喜び、そして調査対象であった猛禽類と、変更の判断をされた事業主様、そして調査でお世話になった関係者への感謝は何物にも変え難いものがあります。
質問4)仕事で特に心がけていることはありますか?
鮮明な写真を記録することです。ここだけは譲れません。
猛禽類は昆虫や植物と違って標本を残せないため、唯一の証拠が調査対象の猛禽類を写した個体写真になります。この個体写真は単に証拠というだけでなく、年齢査定や個体識別をする上でも欠かせません。そのため、ただ撮ればいいという訳ではなく、翼形はもちろん、換羽状況、欠損がわかる写真でないと使い物にならないのです。
個体写真の他にも巣の写真にも力を入れています。巣の写真では巣材の切片の新鮮さや、青葉の枯れ具合(退色)がわかる写真を撮れる超望遠レンズと機材を担いで調査にいきます。それは、鮮明な高画素の写真で巣を記録することによって、巣に残された様々な情報を読み取ることができ、どのステージまでこの巣を使ったかを客観的に示すことができるからです。このように、写真だけはこだわっています。
質問5)アカデミーでの学びは現在の仕事にどのように生きていますか?
大学までは一方的に猛禽類を観ているだけでしたが、アカデミーに入学することで生態系や人と自然の関わり、自然調査法、樹木同定、伐木…などなど幅広く学ぶことができ、それが今の仕事を支えています。アカデミーの教育方針である「現地現物主義」は今の仕事に直結していますし、「聞いたことは忘れる、体験したことは残る」の標語は人に何かを伝える時や自身が勉強するときに意識するようにしています。とても難しいですが(笑)。
質問6)学生に向けてメッセージをお願いします
アカデミー入学以前から趣味として猛禽類を追い続けていました。アカデミーでは様々なことを学びましたが、まさか猛禽類を追うことが仕事になるなんて思ってもいませんでした。重い機材を担いで何時間も道なき道を行き、定点観察の際は何時間も一箇所にとどまって調査を続けます。傍から見たらきつい仕事に見えるかもしれませんが、私にとっては大好きな猛禽類を追い続けることのできる幸せな時間です。さらに結果が猛禽類の保護につながれば、こんなに嬉しいことはありません。
みなさんも一生をかけて追うに足りる何かがあれば、ぜひアカデミーで追求してみてください。
教員からのコメント
在学中には色々な悩みもあったかもしれませんが、猛禽の写真撮影技術という、人がなかなか真似できない武器を使って大好きな猛禽類に関わる進路を見つけることができ、本当によかったと思います。純粋な気持ちを持ち続けてブレずに夢を追い続けることで、人はここまで強くなれるのか、と思います。これからも大好きな猛禽類を追って仕事を続けていってほしいです。(柳沢)
(2023.11.29掲載)